衛星リモートセンシングにより推定した冷害年の水稲収量区分図の作成とその利用事例
【 要約 】 衛星リモートセンシングを用いると、豊作年・冷害年それぞれ2カ年の計4カ年について、北海道石狩川下流域の水稲収量を推定でき、収量区分図を作成することができる。収量区分図を利用すると、1993年の低収には特に7月下旬の気象が大きく関与したことが解析できる。
北海道立中央農業試験場 企画情報室情報課 連絡先 01238-9-2001(内線383)
部会名 生産環境 専門 情報管理 対象 稲類 分類 指導

【 背景・ねらい 】
 これまで、収量調査は多大の労力を要する手作業であり、市町村レベルより詳細な収量データの収集は困難であった。衛星リモートセンシングは、広域の面データを反復して取得することができ、かつ、解析結果がデジタルデータとして出力されるために、コンピュータ上で、気象や土壌情報との重ね合わせが容易におこなえるという利点をもっている。そこで、衛星リモートセンシングによる水稲収量の推定手法を開発し、作物収量と栽培環境との関係解析を行う。

【 成果の内容・特徴 】
 本道の主要な稲作地帯である石狩川下流域を対象地域に、豊作年および冷害年それぞれ2カ年を含む計4カ年について、ランドサットTMセンサおよびMOS-1/MESSRセンサのデータを用いて水稲収量の推定をおこなった。

  1. 収量区分図の作成法
    1. 1984年、1986年、1992年の3カ年について、収量を目的変数、TM2、TM4の反射値および正規化植生指数NDVI:(TM4-TM3)/(TM4+TM3)を説明変数とした重回帰式を作成する。1984年および1992年については、寄与率7割をこえる回帰式が得られる(表1)。
    2. 豊作年の1984年および1986年には、統計収量が550kg/10a以上の市町村で推定収量が過小評価となるが、1993年のように不稔の発生により減収となる型の冷害年には、MESSR1(緑)およびMESSR2(赤)の反射値が収量と高い相関を示し、赤波長の反射値による収量の推定が有効である(表1)。
    3. 9月の衛星データを用いて冷害年の水稲収量を推定し、収量区分図を作成する(図1)  収量推定に有効な波長には、ある程度普遍的な組合せが存在する。
  2. 利用事例
    作成した収量区分図の利用事例として気象条件との関連解析を行うと、1993年の収量と7月下旬の気温の間には極めて高い正の相関が見られ、1993年低収はこの時期の気温が大きく影響したと解析される。

【 成果の活用面・留意点 】

  1. 作成された収量区分図は、印刷物や画像データとして配布が可能である。
  2. 収量区分図は、土壌や気象条件との関連解析に利用可能である。
  3. 豊作年の1984年および1986年には、統計収量が550kg/10a以上の市町村では推定収量が過少評価となる。

【 具体的データ 】

表1 衛星データによる水稲収量推定式
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                        寄与率 RMSエラー**
年次 市町村数     収量推定式*
                         (R2) kg/10a
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1984  14  Y=-46.6TM2+18.2TM4-2420NDVI+1500  0.79   9
1986  20  Y=-18.3TM2+10.5TM4-1360NDVI+ 826  0.82  10
1992  27  Y=-93.2TM2+18.5TM4-4110NDVI+3605  0.87  13
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1993  29  Y=420/(1+4199EXP(-2.81(MESSER2-7))) 0.88  37
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 1984年、1986年は統計収量≦550kg/10aの市町村が対象、
 * Y:推定収量(kg/10a),NDVI:正規化植生指数
  TM2,TM4:ランドサットTMデータバンド2(緑),バンド4(近赤外)
  MESSER2:MOS-1(もも1号)MESSERデータバンド2(赤)
 **推定残差の平方和をデータ数で除した値の平方根

【 その他 】

 研究課題名:リモートセンシング技術等による作物・環境情報の効率的把握と情報処理手法の高度化
 予算区分 :地域重要
 研究期間 :平成6年度(平成5年〜7年)
 研究担当者:志賀弘行 安積大治
 発表論文等:志賀ら(1994):1993年冷害におけるMOS-1/MESSERデータによる水稲収量推定、日本リモセン学会誌、14,54-60

        「平成7年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.272