衛星リモートセンシングによるてん菜収量区分図の作成とその利用事例
【 要約 】 6〜7月の衛星リモートセンシングデータから算出したてん菜の正規化植生指数と、衛星データ取得後の気象経過を考慮した重回帰式から、1990年・1993年の北海道十勝地方のてん菜収量区分図を作成することが可能である。得られた収量区分図の利用事例として、下層土のち密度や礫層深が1993年のてん菜の収量に影響を及ぼしたと解析できる。
北海道立中央農業試験場環境化学部土壌資源科 連絡先 01238-9-2001(内線282)
部会名 生産環境 専門 情報管理 対象 工芸作物 分類 指導

【 背景・ねらい 】
 農耕地の多面的な評価に必要な農業情報の効率的な収集には、広域を均一の精度で観測可能な衛星リモートセンシング技術が有用である。そこで北海道の代表的畑作地帯である十勝地方を対象に、衛星リモートセンシングを用いたてん菜の収量推定法について検討し、栽培環境との関係解析を行う。

【 成果の内容・特徴 】
北海道の代表的畑作地帯である十勝地方を対象に、衛星リモートセンシングを用いたてん菜の収量推定手法について検討した。

  1. 収量区分図の作成法
    1. 衛星データの土地被覆分類を行い、6月〜7月に弱い植生を示し、10月に強い植生を示した画素をてん菜圃場と判別する。1990年には78%、1993年には70%の圃場が抽出できる。
    2. てん菜圃場に判別された画素について、境界領域・微小区画を除去後、市町村別の平均分光反射値・正規化植生指数を求め、6月・7月の正規化植生指数と統計収量との間の相関を求める(表1)。
    3. 6月・7月の植生指数とその後の気象経過を考慮した重回帰式により、てん菜収量を推定する(図1)。
    4. 得られた重回帰式を対象地域全域に適用し、1990年・1993年について、てん菜の収量区分図を作成する。この収量区分図は、30m〜1km程度の任意のメッシュサイズで表示可能である。
  2. 利用事例
     作成した収量区分図の利用事例として土壌情報との関連解析を行うと、冷湿害の著しい1993年のてん菜収量には、下層土のち密度や礫層深が影響を及ぼしていたと解析される(表2)。

【 成果の活用面・留意点 】

  1. 作成された収量区分図は、印刷物や画像データとして配布が可能である。
  2. 収量区分図は、土壌の生産特性の把握などに利用可能である。
  3. 品種や栽培管理の違いによって、個々の圃場の推定精度は変化することが予想される。

【 具体的データ 】

表1 バンド別分光反射値・植生指数と統計収量の相関
--------------------------------------------------
          1990.6.7   1993.7.8
--------------------------------------------------
  TM1(青)     -0.51*    -0.58**
バ TM2(緑)     -0.50*    -0.61**
  TM3(赤)     -0.57*    -0.64**
ン TM4(近赤外)   -0.21     0.56*
  TM5(中間赤外)  -0.55*    -0.64**
ド TM6(熱赤外)   0.13     -0.67**
  TM7(中間赤外)  -0.51*    -0.68**
--------------------------------------------------
植生指数       0.76**    0.74**
--------------------------------------------------
注) 植生指数=(TM4-TM3)/(TM4+TM3)
  * :95%水準有意
  **:99%水準有意


表2 1993年のてん菜収量に影響を及ぼした土壌要因
--------------------------------------------------
土壌要因    +要因     −要因
--------------------------------------------------
下層土のち密度  疎       密
--------------------------------------------------
礫 層深     浅
--------------------------------------------------
土 沖積   褐色低地土   グライ土
  ----------------------------------------------
壌 火山灰  褐色火山性土  厚層黒色火山性土
--------------------------------------------------
注)作成したてん菜収量マップと、メッシュ化された土壌図との関連解析を行って、収量に影響を及ぼした土壌要因を検討。

【 その他 】

 研究課題名:リモートセンシング技術等による作物・環境情報の効率的把握と情報処理手法の高度化
 予算区分 :地域重要
 研究期間 :平成6年度(平成5年〜7年)
 研究担当者:安積大治 志賀弘行 成田保三郎
 発表論文等:安積ら(1994):地理情報システムによるテンサイの収量解析−リモートセンシングによる収量データ収集、日土肥講要集、40,272
      安積ら(1994):地理情報システムによるテンサイの収量解析(第2報)−土壌・気象要因との関連解析、日土肥講要集、40,154

        「平成7年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.274