水稲病害虫の発生対応型防除体系の確立
【 要約 】 水稲病害虫の防除回数を減らすため、主要病害虫(いもち病、紋枯病、イネドロオイムシ、イネミズゾウムシ、ヒメトビウンカ、アカヒゲホソミドリメクラガメ)について、要防除水準や被害許容水準を設定し、効率的な同時防除などを含む発生対応型防除体系を確立した。
北海道立中央農業試験場・稲作部・栽培第二科
北海道立上川農業試験場・研究部・病虫科
連絡先 0126-26-1518
0166-85-2200
部会名 生産環境 専門 作物病害・作物虫害 対象 稲類 分類 指導

【 背景・ねらい 】
 今日、減農薬栽培に対するニーズは益々高まっている。水稲病害虫の防除回数をこれまでより減らすには、病害虫の発生状況に応じた最少限の防除を行うのが最良の方法であるそこで、水稲の主要病害虫について、被害解析や防除試験を行い、慣行的な防除暦より大幅な減農薬が可能な“発生対応型防除体系"の実用化を図る。

【 成果の内容・特徴 】

  1. いもち病は、被害許容水準を病穂率5%とし、被害許容水準と発病推移および防除試験結果に基づいて(表1)、葉いもちの初発時(出穂期までに初発のない時は出穂期)を防除開始期とする発生対応型防除を導いた。本防除体系は、いもち病耐病性が中以上の北海道における主要作付品種に適応可能である。
  2. 紋枯病は、被害許容水準を出穂期30日後の発病度で30(図1)、成熟期の発病度で40と設定したが、初発が出穂後でも被害許容水準を超える発病となる場合があることから、北海道では発病経過から防除要否を判断するのは困難である。したがって、前年までの発病状況から無防除で被害許容水準を超える発病が予想される水田か否かで防除要否を判断しなければならない。
  3. アカヒゲホソミドリメクラガメ(カメムシ)に対する防除は、防除回数が多いほど効果が高いが、通常の発生量では出穂期とその7日後の2回散布で十分である(表2)。
  4. 夏期のヒメトビウンカとニカメイガはカメムシとの同時防除が可能であり、イネドロオイムシなどの初期害虫は、要防除水準を利用して減農薬が可能である。
  5. 移植後の主要な病害虫を対象とした具体的な薬剤防除体系(下記)を提示した(表3)。病害虫の発生量が通常の範囲であれば、この防除体系で慣行的な防除暦より防除回数を減らすことが可能である。
    1. 原則として防除するいわゆる基幹防除に「いもち病の出穂期防除」と「出穂期とその7日後の2回のカメムシ防除」を位置づけ、イネ縞葉枯病の発生地帯ではこれに移植時の育苗箱施用を加える。
    2. 発生状況に応じ、要防除水準などを活用して臨機防除を基幹防除に加える。

【 成果の活用面・留意点 】
 本防除体系は、日常的に病害虫の観察や調査を行い、その発生推移を的確に把握できる生産者や組織が減農薬栽培導入のために活用する。

【 具体的データ 】

表1 葉いもちの初発時期と防除回数
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      葉いもち        病穂率%(防除回数)
 試験年次       --------------------------------------------------------
      初発時期    無防除  慣行防除   発生対応型防除
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  1992(1) 出穂前     42.5   7.2 (3)   4.7 (2:出穂直前+出穂期)
  1992(2) 出穂後     34.2   3.0 (3)   4.7 (1:出穂期)
  1993(1) 出穂前      7.5   0.4 (3)   0.7 (2:出穂直前+出穂期)
  1993(2) 出穂後      1.7   0.3 (3)   0.5 (1:出穂期)
  1994   出穂後     12.4   0.7 (3)   1.8 (1:出穂期)
  1995   出穂後     25.6   1.2 (3)   1.9 (2:出穂期+8日後)

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 注)慣行防除の散布時期は、出穂直前、出穂期、出穂期の7〜10日後


表2 カメムシ防除の回数・時期と
    斑点米に対する防除価
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     散 布 時 期*    防
   ----------------------
 回  出 出 出 7  黄   除
    穂 穂 穂 日 熟
 数  直 始 期 後 期   価
    前
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  0              0
  1      ○       59.6
    ○ ○         23.7
      ○ ○       46.1
  2
        ○ ○     80.8
          ○ ○   64.4
      ○ ○ ○     74.1
  3
        ○ ○ ○   88.1
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  注)2場×3カ年の試験を集計
    *出穂期:出穂期〜穂揃期
    7日後:出穂期の7日後

【 その他 】

 研究課題名:水稲の減農薬栽培技術の確立
 予算区分 :道費
 研究期間 :平成7年度(平成3年〜7年)
 研究担当者:梶野洋一、秋山安義、八谷和彦、竹内 徹、長濱 恵
 発表論文名:なし

        「平成8年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.166