秋まき小麦うどんこ病の被害許容水準と効率的防除法
【 要約 】 コムギうどんこ病菌のトリアジメホンに対する感受性は、本剤の使用頻度が高い道東地方で低下が顕著である。本病による被害は、穂・止葉およびその一枚下葉の発病による1粒重の低下が主であり、それ以下の葉位の発病と各収量構成要素との間には関係が見られなかった。穂揃期〜開花期における止葉での被害許容水準は病斑面積率で0.5%以下であり、薬剤の効果的な散布時期は、止葉から1枚下葉の展開期以降であった。
北海道立北見農業試験場 研究部 病虫科
北海道立十勝農業試験場 研究部 病虫科
北海道立中央農業試験場 病虫部 病理科
全農 農業技術センター
連絡先 0157 47-2146
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01238 9-2001
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部会名 生産環境 専門 作物病害 対象 麦類 分類 指導

【 背景・ねらい 】
 コムギうどんこ病は、本病に罹病性の「チホクコムギ」の普及によって防除が不可欠となっているが、北海道における本菌のDMI剤(トリアジメホンやプロピコナゾールなど)に対する感受性とその分布を明らかにし、感受性の低下を防ぐためのDMI剤の使用方法を検討し、さらに被害許容水準を策定することにより、効率的なうどんこ病防除対策を確立する。

【 成果の内容・特徴 】

  1. うどんこ病菌のトリアジメホンに対する感受性
     DMI剤の散布回数が多い十勝・網走両地方における感受性は道央周辺地域に比べて低く地域間差が明らかであった。道央周辺のようなトリアジメホンに対する感受性が高い圃場であっても、本剤の連用により年々感受性は低下した。しかし、十勝・網走地方のようにすでに感受性が一定レベルまで低下した地域では、DMI剤を年間1〜2回程度の使用してもそれ以上の低下は認められなかった。
     感受性低下菌(MIC 0.5〜1.0ppm、EC50 0.06〜0.21)に対して、トリアジメホン剤は少なくとも散布後10日間程度は感受性菌の場合と同程度の効果を示した。
  2. 被害解析
     うどんこ病の発生によって明らかに低下するのは1粒重(整粒千粒重の低下、くず粒の増 加)であった。
     1粒重の低下に最も大きく影響する発病部位は穂で、次いで止葉及びF-1葉であった。一方、F-3葉以下での発病は、いずれの収量構成要素との間にも関係はみられなかった(表1)。
     以上のことから、小麦の生育前半におけるうどんこ病の発生は収量にほとんど影響しないが、穂、止葉およびF-1葉における本病の多発は、整粒千粒重の低下およびくず粒の増加を招くものと考えられる。
  3. 被害許容水準
     乳熟期で見た被害許容水準(千粒重)は、穂・止葉ともに病斑面積率で1%以下であり、穂揃い期〜開花期でみた被害許容水準(千粒重)は、止葉の病斑面積率で0.5%以下とみられた(図1、2)。1%以下の病斑面積率は、その葉位の発病葉率の1/100の値で推定できるので、春以降の防除は、穂揃い期〜開花期における止葉の発病葉率を50%以下にすることが目標となる。
  4. 薬剤の効果的散布時期
     F-3葉以前の早期に薬剤防除を行った場合、止葉展開期頃までの発病は少く抑えられるが、その後の防除を行わないと、出穂期以降のF-1葉および止葉の発病は無防除よりもむしろ多くなる傾向にあり、防除薬剤の散布は、F-1葉展開期以降が効率的であると考えられた(図3、4)。

【 成果の活用面・留意点 】

  1. 被害許容水準を利用した薬剤防除を行うためには、うどんこ病の発生を助長するような小麦栽培(栽培基準から極端に逸脱した播種時期、播種量および窒素の多量施用)をしないことが望ましい。
  2. うどんこ病の防除薬剤は、残効性や散布後展開した部位への効果、さらにうどんこ病以外の小麦病害に対する効果などそれぞれ特性が異なるので、うどんこ病の発生量や他の小麦病害発生の地域性などを考慮しながら効率的に組み合わせる。
  3. トリアジメホンに対する低感受性菌に対しても効果の高いDMI剤や、DMI以外の浸透移行性を有する剤については、うどんこ病菌の感受性低下を誘発する危険性がないとは言えないので、他病害も含めてなるべく連用を避け、系統の異なる剤を組み合わせて使用する。

【 具体的データ 】

表1 穂および各葉位におけるうどんこ病のAUDPCと収量構成要素との相関係数および回帰係数(1993年北見農試)
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              相関係数(r、n=56)               回帰係数(b)
     -------------------------------------------------------------------------------------------
収  量           葉位別AUDPC                葉位別AUDPC
構成要素 -------------------------------------------------------------------------------------------
       F-4  F-3  F-2   F-1    F    H     F-2    F-1   F    H
-----------------------------------------------------------------------------------------------------
整粒子実重 -.116 -.238 -.237  -.259   -.272*  -.202    −    −   -1.255   −
穂数    -.164 -.195  .129   .160   .021   .050    −    −    −    −
1穂重    .067 -.074 -.463*** -.519*** -.394**  -.344*  -0.0006  -0.0005 -0.0014 -0.0026
1穂粒数   .123 -.100 -.254*  -.231   -.130   -.054   -0.008   −    −    −
整粒千粒重 -.055  .070 -.465*** -.617*** -.526*** -.617*** -0.011   -0.011  -0.033  -0.080
くず粒重  -.038 -.218  .232   .552***  .545***  .675***  −    0.013  0.045  0.114
くず粒歩合 -.044 -.185  .265   .593***  .607***  .695***  −    0.0017  0.0059  0.0140
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注)相関係数の*、**、***は、5%、1%、0.1%でそれぞれ有意。回帰係数は有意な相関の組み合わせのみ表記した。
  AUDPCは各葉位における病斑面積率の推移曲線の曲線下面積
  穂はHと略記した。各葉位は止葉をFとし、止葉から1枚下の葉は F-1、2枚下は F-2‥‥と表記した。

【 その他 】

研究課題名:小麦うどんこ病のEBI剤に対する感受性モニタリングと対策試験
予算区分 :道 費
研究期間 :平成6年度(平成4年〜6年)
研究担当者:清水基滋・安岡眞二・田村修・中澤靖彦
研究論文等: 北海道におけるコムギうどんこ病のDMI剤に対する感受性の変動(1991〜1993)日植病報講要、60巻3号、1994

  • コムギうどんこ病菌のトリアジメホンに対する感受性の簡易検定法北日本病害虫研報、45号、1995         「平成8年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.169