有機物20年連用畑圃場における養分収支からみた有機物管理法
【 要約 】 堆肥を1.5〜3t/10a連用すると窒素収支は年間6〜12kg/10aの残余となるが、それらは土壌全窒素には極めてわずかしか反映されておらず、大部分は作土には残存していないと推察される。地力や作物収量レベルの維持のためには作物残さのすき込みに加え、1t/10a程度の堆肥を連用することが望ましい。
北海道立十勝農業試験場・土壌肥料科 連絡先 0155-62-2431
部会名 生産環境 専門 土壌 対象 分類 指導

【 背景・ねらい 】
 地力を維持するための手段の一つとして有機物の施用が言われてきたが、長期の有機物連用による蓄積効果や、一定輪作下における作物別効果などに関する試験例は少ない。本試験では4年輪作体系(てん菜→大豆→春播小麦→馬鈴しょ)における養分収支を算定し、作物収量や土壌化学性の変化との対応関係を検討することにより、適正な有機物管理技術の指針を得ることを目的とする。

【 成果の内容・特徴 】

  1. 各年次において有機物施用量にほぼ対応した増収効果が認められ、その程度は、てん菜>春播小麦>大豆である。一方、馬鈴しょでは堆肥の連用により減収する年次があるなど有機物施用効果は判然としない。
  2. てん菜収量は、化学肥料単用区および残さ区で減収傾向であるのに対し、堆肥3t区および残さ+堆肥1.5t連用区ではわずかに増収傾向である(図1)。
  3. 土壌の全窒素は堆肥を連用した場合微増傾向であり、残さのすき込みでは維持傾向である(図2)。有効態リン酸は有機物の連用により増加し、特に堆肥3t区で顕著である。また、交換性カリは有機物連用による増加は認められず、交換性カルシウムは有機物を連用しても減少する傾向である。
  4. 窒素の収支は堆肥を1.5〜3t/10a連用した場合10aあたり年間6〜12kgの残余が生じるが、残さすき込みだけの場合、収支がほぼ等しくなる。カリは堆肥1.5t/10aの連用で収支がほぼ等しく、他の処理では1〜9kgの残余が生じる。一方、リン酸は各処理で15〜26kg、カルシウムも各処理で4〜17kgの残余と試算される(表1)。
  5. 連用20年目における堆肥由来窒素量は1tあたり2〜3kgである(表2)。
  6. 有機物連用により収支上残余となった窒素は土壌全窒素には極めてわずかしか反映されておらず、その大部分は作土には残存していないと推察される。
  7. 生産力の維持あるいは増強、また作物収量レベルの維持のためには、4作物の輪作の場合、残さのすき込みに加え毎年1t/10a程度の堆肥を連用することが望ましい。

【 成果の活用面・留意点 】

  1. 本成績は現行の北海道施肥標準の妥当性をほぼ実証していることから、圃場の生産力を維持するための有機物管理技術の資料として活用する。
  2. 本試験の結果は淡色黒ボク土で得られたものである。

【 具体的データ 】

表1.各処理区における養分収支(単位:kg/10a/年)
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処理区     処理内容      N  P2O5  K2O  CaO
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 F   化学肥料単用        -1   14   -5   2
 M   F+堆肥1.5t/10a連用     6   20    0   10
 2M  F+堆肥3.0t/10a連用     2   26    4   17
 R   F+作物残さすき込み     1   15    1   4
 Rm  R+てん菜作付時堆肥1.5t/10a 3   16    3   6
 RM  R+堆肥1.5t/10a連用     9   21    9   11
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   注)データは昭和58年から平成6年の平均値。


表2.無窒素栽培区におけるてん菜の窒素吸収量および有機物由来窒素量
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        窒素吸収量(kg/10a)     有機物由来窒素量(kg/10a)
 処理区  ----------------------------  ----------------------------
      昭和59年 昭和62年 平成7年  昭和59年 昭和62年 平成7年
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  F     2.2    2.8    3.0     −     −     −
  M     4.0    5.3    8.2     1.8    2.5    5.2
  2M    6.3    7.8    11.4     4.1    5.0    8.4
  R     3.9    4.0    4.0     1.7    1.2    1.0
  Rm    4.7    5.4    5.0     2.5    2.6    2.0
  RM    7.6    7.8    /      5.4    5.0    /
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   注)平成7年のRM区はてん菜の生育が極端に悪かったためデータを削除した。

【 その他 】

研究課題名:土壌環境基礎調査・基準点調査
予算区分 :補助(土壌保全)
研究期間 :平成7年度(昭和51年〜平成7年)
研究担当者:田村 元、山神正弘
発表論文等:

        「平成8年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.346