栄養繁殖性植物のインビトロ低温保存の実用化
【 要約 】 栄養繁殖性遺伝資源(イチゴ、ユリ、ニンニク)を小型バイアル瓶を用い5゜Cの低温条件で短・中期保存が可能である。
北海道立植物遺伝資源センター 研究部 資源貯蔵科 連絡先 0125-23-3195
部会名 作物 専門 遺伝資源 対象 果菜・根菜類 分類 指導

【 背景・ねらい 】
 栄養繁殖性植物の遺伝資源のほ場での保存は、気象災害や病虫害等による被害によって失われる危険性がある。また、ほ場での保存は、一般に広い面積を必要とし、その維持・管理に多大な費用、労力、技術を要する事が多い。これらの問題点の解決として、組織培養技術を利用した手法でインビトロ(試験管内)保存する事が考えられ、これによって死滅の危険分散や維持・管理の効率化が期待される。
 本試験では、ワーキング・コレクションの保存(一時的保存)や登録遺伝資源の増殖・提供用元株の保存等に必要な短・中期的保存法として、また将来の超低温保存法の確立までの緊急対応としての保存法として、インビトロ低温保存法を検討した。

【 成果の内容・特徴 】

  1. イチゴの保存に用いる培地はMS培地が適する(図1)。保存前に1〜2週間程度保存前の培養(照明下)を行い、段階的に温度を下げながらハードニング処理を行った後保存する。保存温度は5℃とし、保存中の照明は行わない。
     以上の条件で2年間無継代で70%程度の生存率が得られる。
     保存後の株は草勢が劣るため、馴化のための培養を行うが、培地は1/2MS培地を使用する。
  2. ユリの保存に用いる培地はMS培地が適する(図2)。保存前に1〜2週間程度、保存前の培養を行い保存する。保存温度は5℃〜10℃とし、保存中の照明は行わない。
     以上の条件で2年間無継代で約70%の生存率が得られる。
     保存後、馴化のための培地は1/2MS培地またはMS培地を使用して行う。
  3. ニンニクの保存に用いる培地はMS培地またはB5培地を用いる(図3)。MS培地は保存前の培養で異常シュートの発生が認められるが、保存温度を5℃、照明条件下で保存を行うと正常な形態の小球を形成し、異常シュート数が減少する。B5培地は5℃、照明下の保存で比較的異常シュートの発生が少ない。
     以上の条件で約2年間、無継代で80%前後の生存率が得られる。
     保存後、馴化のための培地はMS培地を使用する。

【 成果の活用面・留意点 】

  1. 栄養繁殖性遺伝資源保存の一環として、短・中期保存に利用できる。
  2. ウイルスフリー株(無病株)増殖のための元株の一時的保存に活用できる。
  3. 保存期間が長くなることから、培地の乾燥に注意する。
  4. インビトロ保存中の遺伝的安定性は未確認である。

【 その他 】

研究課題名:栄養繁殖性植物の保存・増殖技術開発試験
予算区分 :道費
研究期間 :平成7年度(平成4年〜7年)
研究担当者:小田義信
発表論文 :栄養繁殖性植物のin vitro保存に関する研究、北海道園芸研究談話会報、第27号、1994。

        「平成8年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.98