タマネギのF1品種への交代に伴う窒素施肥対応
【 要約 】 タマネギ品種が在来種から「北もみじ86」、「スーパー北もみじ」、「カムイ」等F1品種に交代した現在の栽培では、土壌の蓄積リン酸に対応した施肥窒素の増肥は必要なく、施肥標準量で十分である。このことにより、腐敗球数率の低減と吸収し残した窒素の環境負荷が軽減できる。
北海道立中央農業試験場・環境化学部・土壌生態科 連絡先 01238-9-2001
部会名 生産環境 専門 肥料 対象 根菜類 分類 指導

【 背景・ねらい 】
 現在の道央タマネギ栽培では、収穫物によって圃場から持ち出される窒素量に対して窒素施用量が多く、環境への窒素の流出が懸念されている。これは在来種の「札幌黄」を対象とした「蓄積リン酸の多寡に応じた施肥窒素対応」による施肥が行われていることによる。
 現在のタマネギ栽培ではF1品種が主体となっており、品種の変化に対応した施肥法を検討し、減化学肥料栽培のための施肥指針を策出する。なお、ここで対象としたF1品種は晩生からやや晩成タイプの「北もみじ86」、「スーパー北もみじ」、「カムイ」、「天心」(以下、これら品種を一括してF1品種と表記する)である。

【 成果の内容・特徴 】

  1. F1品種を主体としたタマネギの収量は土壌の蓄積リン酸と無関係であり、蓄積リン酸が130mg/100g以上の圃場でも施肥窒素の増肥効果は認められなかった(図1)。
  2. F1品種は在来種に比較し、生育初期から結球始期までの乾物増加率が大きく、同時期の葉部リン酸及び窒素含有率が高い(表1)。
  3. 生育に対する蓄積リン酸の制限要因が2)の要因で解消された結果、生育・収量は土壌の窒素供給能に支配される。(1)収量は生土培養法による窒素無機化量が1mg/100g程度まで急激に増加し、1.5mg/100g程度以上では漸減傾向を示す(図2)。(2)施肥窒素の増肥効果は窒素無機化量が0.5mg/100g以下で大きく、1.5mg/100g以上では認められない(図3)。(3)生育後半に土壌窒素が旺盛に放出される泥炭土であっても、F1品種の特性から結球始期までに十分な茎葉量を確保する必要があり、そのためには施肥窒素15kgN/10a程度が必要である(表2)。
  4. 施肥窒素の増肥は腐敗球数率を高めるだけでなく、(1)収量とは無関係な結球始期以降の窒素吸収量を増加させ、(2)結球部の窒素含有率を高め、(3)収穫期の残存無機態窒素量を増加させる。
  5. 定植時と収穫時の差から求めた無機態窒素減少量は深さ0〜40cmが全体(同0〜80cm)の84〜100%を占めていた。収穫期に深さ0〜40cm土層に残存した無機態窒素の56〜64%が翌春施肥前までに消失し、また、'94年春と'95年春の深さ0〜80cmまでの無機態窒素量は大差ないことから、吸収し残された施肥窒素の大部分は系外に流亡すると推定される(表3)。

【 成果の活用面・留意点 】

  1. 窒素無機化量が1mg/100g程度までは化肥窒素の増肥によって増収するが、その程度は小さく、有機物の施用により窒素無機化量を1mg/100g程度まで上げることが望ましい。
  2. リン酸の施肥量は「土壌診断に基づく施肥対応」に準拠する。

【 具体的データ 】

表1 品種の違いによる乾物増加率の変化(岩見沢)
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         乾物増加率(全乾物*)  養分含有率(%)**
         6/19 7/5  7/20 8/5   P2O5    N
品種       -7/5 -7/20 -8/5 -9/4 6/19 7/5 6/19 7/5
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そらち黄     3.9 2.4 1.5  0.7 0.84 1.09 4.09 3.84
北もみじ86    4.5 2.8 1.6  0.7 0.85 1.29 4.23 3.95
スーパー北もみじ 4.6 2.7 1.6  0.7 1.00 1.22 4.69 4.07
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                   *葉部+結球部 **葉部


表2 泥炭地1)における化肥N量と初期生育量、収量
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    GI  結球始期   収穫期
   6/20 乾物* 吸収N* L<率**L<収量***
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N10  329  624  13.4  91   7.2
N15  334  697  15.1  99   8.2
N20  308  611  15.4  95   7.9
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1)北村(水田転換6年目)、*kg/10a、**%、***t/10a


表3 タマネギ畑における施肥前及び収穫期の無機態N量(g/m2)
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    '94年春  施肥 吸収 '94年秋  '95年春   減少量*
層位** 0-40 合計  N量 残N 0-40 合計 0-40 合計 0-40 合計
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標 肥 3.5  7.1  16  5  6.3 12.0  2.8 5.9  3.5 6.1
多 肥 4.9 10.7  23  11  9.1 16.3  3.3 9.8  5.8 6.5
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    *'94年秋と'95年春の差、**cm、合計は0〜80cm土層を示す。

【 その他 】

研究課題名:クリーン農業の実証と評価
予算区分:道費
研究期間:平成7年度(平成5〜7年)
研究担当者:三木直倫、美濃健一、小野寺政行、宮脇忠
研究論文等:なし

        「平成8年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.315