タマネギと水稲を対象としたクリーン農業の経営経済的評価
【 要約 】 タマネギの減農薬・減化学肥料栽培は、消費者との提携と安定した販路形成により、生産費を償う価格条件や流通コスト低減が実現され、クリーン農業の可能性を示す。水稲における減農薬・減化学肥料栽培では、慣行栽培に比べて費用高になるが、米産地の技術力向上や消費者からの評価を高めることを通じて、米産地として安定した流通に結びつけることが期待できる。
北海道立中央農業試験場経営部経営科 連絡先 01238-9-2001
部会名 農村計画(農業経営) 専門 経営 対象 分類 指導

【 背景・ねらい 】
 本道の各地域では、環境保全と安全・良質な農産物の安定供給をねらいとしてクリーン農業が推進されている。この先進的な実態解析からは、農産物の販路形成と収益を確保している事例はみられるが、一方では、減農薬・減化学肥料技術はまだ未確立な段階であり、「労働負担増加」、「収量の低位不安定」、「費用増加」などの問題点が指摘されている。
 この課題では、露地野菜(タマネギ)と水稲を対象に減農薬・減化学肥料の栽培事例を慣行栽培との対比で分析し、クリーン農業の特徴と経済性を明らかにする。

【 成果の内容・特徴 】

  1. タマネギの減農薬・減化学肥料の栽培実態と経済的評価
    1. タマネギの減農薬・減化学肥料栽培実態からは、次の二つの形態が示される。一つは生産者と流通・消費者とが提携して、栽培様式や農産物の販路・価格の設定を行っている事例であり、二つは、生産者独自の取り組みである。後者の事例においても、部分的に消費者と提携した生産が行われており、減農薬・減化学肥料栽培はこれを強める取り組みとして位置づけられている。
    2. ここで分析対象としたフードプラン事業及び生協と提携した減農薬・減化学肥料栽培の事例によると、代替技術はまだ未確立な段階であり、慣行栽培との対比で収量低下、除草作業の労働費と肥料費の増加など問題点が指摘される(図1、図2)。これらの問題を抱えながらもこの栽培が進んできたのは、(1)堆肥の投入による地力維持を基礎とした減化学肥料栽培、各種病害虫忌避資材の活用や早期除草の徹底などの減農薬栽培で安全・良質な農産物の持続的生産の取り組み、(2)消費者との提携による安定した販路形成と生産費用を償う価格の設定があげられる。調査実態においては、生産者と消費者との間で協議した栽培様式により費用増加や単位収量の減少(15〜20%)がみられても、それを償う価格が設定されることで、慣行栽培と同等の収益確保が可能となる(図1、図2)。
  2. 水稲の減農薬・減化学肥料の栽培実態と経済的評価
    1. 水稲における減農薬・減化学肥料栽培は、特別栽培米及び特別表示米の生産・流通で行われる事例がほとんどである。ここでは、農協が主体となり減農薬・減化学肥料栽培の取り組みを組織的に進めている実態解析から、その栽培の特徴と収益形成をみた。調査地域では消費者と提携した減・無農薬栽培を基礎に、クリーン農業の取り組みを地域全体へ広げている事例である。
    2. この代表的な栽培方法である減・無農薬栽培の経済性を慣行栽培と比較評価した。無農薬栽培及び無除草剤栽培は、いずれも除草労働(機械・手取り)負担の制約や収量の低下から生産規模が1ha程度に制約され、有機物の利用は費用高となる。このため、消費者との提携と生産費を償う米価格の設定で成立する(図3)。しかし、水稲の無農薬・無除草剤栽培を基礎に、地域的な取り組みである有機質肥料の活用や減農薬栽培は産地イメージを高める。これが特別表示米として消費地からの産地指定を受けることができ、米の安定した流通に結びつけることが期待できる。

【 成果の活用面・留意点 】
 北海道では、環境保全と調和した農業を「クリーン農業」と略称し推進しているが、ここでは、調査対象を消費者と提携した減農薬・減化学肥料栽培事例に限定して経済的評価を行った。

【 その他 】

研究課題名:クリーン農業の経営経済的評価
予算区分 :道費
研究期間 :平成3〜7年
研究担当者:道立中央農試経営部 山本  毅
発表論文等:クリーン農業の経営経済的評価、北農、第62巻第4号、1995

        「平成8年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.485