ロタウイルスに起因する子牛下痢症の疫学的解析と診断・予防法
【 要約 】 牛C群ロタウイルスの分離・培養法を確立するとともに、ロタウイルス感染症の簡易診断法としてウイルス検出用および抗体検出用 ELISA を開発した。また、A群ロタウイルスの予防法を検討した結果、母牛の初乳中ウイルス抗体価を上昇させると、母子免疫により子牛の下痢症を予防できることが示唆された。
北海道立新得畜産試験場・生産技術部・衛生科 連絡先 01566-4-5321
部会名 畜産・草地(畜産) 専門 診断予防 対象 家畜類 分類 指導

【 背景・ねらい 】
 子牛の下痢症の主要な病原体であるロタウイルスの疫学的な解析を行うとともに、その診断法、免疫学的予防法を検討し、子牛の下痢症による損耗の低下を目指す。

【 成果の内容・特徴 】

  1. 十勝管内の成牛下痢便より牛で初めてC群ロタウイルスを分離し、 Shintoku 株と命名した。また、アカゲザル腎臓由来 MA104 細胞を用いた培養法を確立した。
  2. ロタウイルス感染症の簡易診断法として、豚C群ロタウイルスに対する高度免疫血清を用い、牛、豚、人のC群ロタウイルスが検出可能なサンドイッチELISAを開発した(図1)。また、このウイルス検出用 ELISA のブロッキング反応を利用して、特異性の高い抗体検出用 ELISA を開発した(図2)。
  3. 開発した抗体検出用 ELISA を利用して、道内におけるC群ロタウイルス感染症の血清疫学的調査を実施した結果、牛の 56.0%、豚の 92.5%が抗体陽性であり、牛および豚C群ロタウイルスが広く浸潤していることが示唆された。
  4. 分娩前の成牛に対するA群ロタウイルスの筋肉内および乳房内接種により、血清中および乳汁中のウイルス中和抗体価を上昇させ、子牛の下痢発症率を低下させることができた(表1)。このことから、母子免疫により子牛の下痢症を予防できることが示唆された。
  5. 野外応用が可能なオイルアジュバント( MBL社)および水溶性樹脂アジュバント(カーボポール)の利用により、A群ロタウイルスに対する免疫応答を高めることができた。
  6. 分娩前の成牛に対する子牛下痢症混合ワクチン(ラクトバック、ドイツ)の接種により初乳中のA群ロタウイルスに対する中和抗体価は上昇したが、子牛下痢症の予防効果は明らかにできなかった(表2)。

【 成果の活用面・留意点 】

  1. 開発したC群ロタウイルス検出用 ELISA および抗体検出用 ELISA は特異性が高く、多検体処理に適していることから簡易診断法として活用できる。ウイルス検出用ELISAの検出感度は電子顕微鏡法と同程度である。
  2. A群ロタウイルスワクチン実用化にはさらに検討、改良が必要である。また、子牛下痢症混合ワクチンは現在日本には輸入されていない。

【 その他 】

研究課題名:ロタウイルスに起因する子牛下痢症の疫学的解析と診断・予防法
予算区分 :道 費
研究期間 :平成2〜6年度
研究担当者:小原潤子、恒光 裕、森 清一、所 和暢
発表論文等:Isolation,Characterization,and Serial Propagation of a Bovine Group C Rotavirus in a Monkey Kidney Cell Line(MA104).Journal of Clinical Microbiology,Vol.29,1991

        「平成8年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.412