牛体外受精における培養技術の改善
【 要約 】 牛体外受精において、1頭分の卵巣から平均3-5個の胚盤胞の得られる培養技 術を確立した。
北海道立新得畜産試験場・生産技術部・生物工学科 連絡先 01566-4-5321
部会名 畜産・草地(畜産) 専門 繁殖 対象 家畜類 分類 指導

【 背景・ねらい 】
 胚移植技術は、肉用牛や乳用牛の改良増殖の手段として成果を上げつつあり、牛胚の需要は年々増加している。しかし、過剰排卵処理による体内受精胚の回収には限界があり、需要を満たすことは難しい。そこで、移植に用いる胚を多量に作出する技術の確立が望まれる。体外受精技術は、主に食肉処理場において、本来廃棄されている卵巣内にある多数の未成熟卵子を用いるため、胚を安定して多量にしかも安価に供給できると期待されている。本試験では、安定して高い発生率の得られる体外受精技術の確立を目指す。

【 成果の内容・特徴 】

  1. 卵子の成熟培養
     良質卵子(卵丘細胞が緊密に付着した卵子)以外の卵子の有効利用を図るため、卵巣から採取したすべての卵子を、卵丘細胞の付着量および膨化程度により分類し、発生能を検討した。卵巣1個当りの平均採取卵子数は10.6個で、良質卵子およびそれに準ずる卵子は、それらの卵子のうち3.4個、32.2%であった。良質卵子およびそれに準ずる卵子以外のいずれの卵子からも胚盤胞が得られた。しかし、放射冠の無い卵子は変性率が高く、発生率は低かった。卵子の成熟には卵丘細胞とくに放射冠が重要であることが示された(図1)。
  2. 精子の受精能獲得誘起
     すべての種雄牛に有効な受精能獲得誘起方法を確立するため、カフェイン(Caf)を含む受精培地(BO液)に添加したカルシウムイオノホア(IA)またはヘパリン(Hep)が、前核形成に及ぼす影響を検討した。前核形成卵の割合は、すべての種雄牛でHepを添加した区が最も高かった。このことから、IA単独あるいはIAとHepの併用よりも、Hep単独、すなわちCafを含むBO液にHepを添加した受精培地が最も有効であることが示された(図2)。
  3. 体外受精胚の発生培養
     共培養によらず、安定して高い発生率の得られる方法を確立するため、発生培地に血清を添加した修正TALPを用い、酸素濃度および卵丘細胞の有無が胚の発生に及ぼす影響を検討した。分割卵、8細胞期胚および胚盤胞の割合は、酸素濃度にかかわらず、卵丘細胞との共培養より、非共培養の区の方が高く、酸素濃度が5%で非共培養の区において、それぞれ52.7%、39.2%および48.2%と最も高い値が得られた。これらのことから、ウシ体外受精胚の発生培養には、非共培養および低酸素濃度が有効であることが示された(図3)。
  4. 以下の方法により、1頭分の卵巣から平均3-5個の胚盤胞が得られる。
    (1)成熟培養注射器により吸引採取したすべての卵子を、10%子ウシ血清を添加したTCM199で24-26時間培養する。
    (2)受精成熟培養を終了した卵子を、5mMカフェインと2units/mlヘパリンを含むBO液で3〜4時間前培養した精子に導入する。
    (3)発生培養授精後5-6時間目に卵子の卵丘細胞を剥離して除去して3%子ウシ血清を含む修正TALPに移し、授精後8-10日目まで培養する。
    (4)気相条件成熟培養および受精は39℃、5%CO2、95%空気、発生培養は39℃、5%CO2、5%O2、90%N2とする。

【 成果の活用面・留意点 】

  1. 本研究における精子の受精能獲得誘起方法は、種雄牛により効果が異なる。
  2. 血清および BSA は、ロットにより良否があるので、事前にロットの検討が必要である。
  3. 培地を作成する水は、超純水が望ましい。

【 その他 】

研究課題名:体外受精技術を活用した良質胚多量確保技術の開発
予算区分 :地域バイテク
研究期間 :平成 3〜7 年度
研究担当者:南橋 昭
発表論文 :


        「平成8年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.406