水稲の発育ステージおよび不稔歩合の推定法
【 要約 】 日平均気温から求める発育指数DVIによって、幼穂形成期と出穂期を推定するモデルである。栽培計画の策定や合理的な水深管理に利用できる。さらに、気温を用いた不稔歩合推定モデル、葯長を用いた不稔歩合推定法および次亜塩素酸ナトリウムを用いた簡易脱色法による不稔籾早期判別法により、稲の各発育段階で逐次精度を高めながら不稔歩合を予測することが可能である。
北海道立中央農業試験場・稲作部・栽培第一科
北海道立上川農業試験場・研究部・土壌肥料科、水稲栽培科
連絡先 0126-26-1518
0166-85-2200
部会名 作物 専門 栽培 対象 稲類 分類 指導

【 背景・ねらい 】
 すでに全道を対象に開発されているメッシュ気象情報システムの有効利用を目的として、水稲の発育ステージと不稔歩合を気温から推定するモデルを開発する。さらに、葯長を用いた不稔歩合の推定法と次亜塩素酸ナトリウム(家庭用漂白剤)を用いた脱色法による不稔籾早期判別法を開発する。

【 成果の内容・特徴 】

  1. 移植後の気温から推定した幼穂形成期の標準推定誤差は5〜3日、実測の幼穂形成期とそれ以後の気温から推定した出穂期の標準推定誤差は、約2日である(図1)。
  2. DVIの経過に伴う幼穂先端位置の推移(図2)から、DVIを用いた合理的な水深管理(表1)が可能である。
  3. 前歴期間、穂孕み期間、開花期間の気温が不稔歩合に影響する程度をシグモイド曲線で表し、不稔歩合をこれら 3つの要素の積で求めるモデルである。このモデルの精度は、標準推定誤差で 約10%である(図3)。
  4. 葯長、葯当たり充実花粉数および不稔歩合の間には密接な関係がある。 葯長が1.8mm以上では不稔歩合は20%以下で低く、それ以下では葯長の短縮に伴い不稔歩合は増加し、葯長 1.2mm以下ではほぼ100%不稔となる(図4)。
  5. 家庭用塩素系漂白剤による脱色法のサンプリング適期は、出穂揃い後15日、日平均気温の積算値で300℃以上経過後が望ましく、また脱色時間は1時間が最適である。
  6. 発育ステージの推定は、第1に平年気象値を用いた場合、地域に適した品種、苗の種類、移植時期など栽培計画の策定に、第2に生育期間中においては、地域の生育状況の把握と深水管理の徹底や病害虫の防除計画の決定等に利用できる。また、水稲の生育の各段階で不稔の発生を推定することにより、作柄予測や冷害発生時の営農指導等に適切に対処することが可能となる。

【 成果の活用面・留意点 】

  1. 発育ステージの推定と気象条件からみた不稔歩合の推定については、道農政部農業改良課の事業で開発された、HARIS上の「営農指導支援プログラム」に適用して利用する。ただし、幼穂形成期の推定値には地域間差異があるので留意する。
  2. 葯長の測定については、本成績のデータはFAAで固定後に測定したものである。葯長の測定は生でも可能であるが、その場合は穂と葯の乾燥に注意し、さらに0.93を乗じて利用する。
  3. 開花期に低温に遭遇した場合には、葯長から不稔歩合を推定することは困難である。
  4. 次亜塩素酸ナトリウム脱色法は、うるち品種に適用する。
平成8年度北海道農業試験会議成績会議における課題名及び区分
課題名:水稲の発育ステージおよび不稔歩合の推定法(指導参考)

【 その他 】

研究課題名:水稲の冷害対策研究、北海道米の食味水準向上技術の開発、気象情報を用いた水稲生育予測システムの開発
予算区分 :道費・共同研究
研究期間 :平成8年度(平成3年〜8年)
研究担当者:田中英彦、三浦 周、五十嵐俊成、古原 洋
発表論文等:なし

        「平成9年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.22