簡易軟白ねぎの根腐萎ちょう病(仮称)と土壌の塩類濃度の関係
【 要約 】 北海道の桧山北部地域の簡易軟白ねぎに発生した萎ちょう症状は、既知の萎ちょう病とは異なるFusarium oxysporumが原因で、その病徴から根腐萎ちょう病と仮称した。本病の発生は、土壌塩類の集積によって助長され、EC 0.5mS/cm 以上で被害が増大する。一方、土壌消毒と客土処理、あるいはピートモスによる保水性向上によって発病は軽減する。
北海道立道南農業試験場・研究部・病虫科、土壌肥料科 連絡先 0138-77-8116
部会名 生産環境 専門 作物病害 対象 葉菜類 分類 指導

【 背景・ねらい 】
 桧山北部地域の水田転換畑で、1985年頃から簡易軟白ねぎの生産が開始された。この栽培方法は施設内での密植・年2回取り、遮光資材を利用した軟白化による多収量、高品質が特徴である。しかし、近年、原因不明の萎ちょう症状が発生し、収量が1/2〜1/3に激減している。そこで、萎ちょう症状の原因を明らかにすることを目的とする。

【 成果の内容・特徴 】

  1. ハウス栽培を始めた1〜2年目のねぎの収量は良好であったが、3〜5年経過すると萎ちょう症状が発生し、次第に激化して収量が著しく低下した(表1)。この地区の施肥量は、1作・10a当たり窒素:30Kg、リン酸:28Kg、カリ:12Kgであり、このほかに各種有機質資材や土壌改良資材が施用されていた。
  2. 現地の発病ねぎは、根部のみが激しく腐敗し、葉鞘部は罹病していない。このことから葉身の萎ちょうや生育停滞は、根の腐敗による養水分の吸水阻害によると考えられる。このようなねぎの根部からはオレンジ色の色素を産生するフザリウム菌が高頻度に分離され(表1)、ねぎ及びたまねぎに強い病原性が認められる。
  3. 本病原菌は形態的特徴から Fusarium oxysporum であると確認されたが、病徴が萎ちょう病(F. oxysporum f.sp.cepae) と明らかに異なることから、本病を根腐萎ちょう病と仮称した。
  4. 根腐萎ちょう病は土壌の塩類濃度の上昇が助長要因の一つであり、土壌塩類濃度が0.5mS/cm以上になると症状が激化する(図1)。
  5. 現地の根腐萎ちょう病多発ハウスにおいて、土壌消毒(ダゾメット剤、クロルピクリン剤)並びに客土処理は極めて高い発病抑制効果がある(表2)。また、農試内のハウス枠試験において、ピートモスを作土混和して保水性を向上させると発病が軽減する。

【 成果の活用面・留意点 】

  1. 本成績は、桧山北部地域の狭隘な沖積地の水田転換ハウスにおいて検討したものであり、土性は砂壌土及び壌土である。
  2. 土壌消毒用のダゾメット剤及びクロルピクリン錠剤はネギに対して未登録である。
平成8年度北海道農業試験会議成績会議における課題名及び区分
課題名:簡易軟白ねぎの根腐萎ちょう病(仮称)と塩類濃度の関係とその緊急対策     (指導参考)

【 具体的データ 】

表1 ねぎ作付年数と発病の関係
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ネギ作付 集計 根の  Or.菌*
年数   点数 腐敗  菌分離
        指数** /10本
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12〜10  13  3.0   5.3
 9〜7  37  2.1   3.2
 6〜4  27  2.7   4.3
 3〜1   6  1.5   1.3
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 * Or.菌:PSA培地上に特徴的な橙色の色素
  を産生、ねぎの根に強い病原性を示す。
 **根の腐敗指数:根の発病程度を以下の腐
  敗指数(0〜4)で示した。



表2 各種処理による発病軽減効果
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  処理  根の腐敗指 粗収量 病原菌
      数(0〜4)** FM/10a 分離
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  土壌消毒   1.9   12.25   +
  客土     2.7   7.85  未調査
  苗消毒    3.9   2.67   +
  除塩     4.0   2.65   +
  無処理    3.9   2.69   +
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平8年6月定植〜10月31日収穫、
除塩:150mmを2回湛水、客土:70m3/10a
土壌消毒:ダゾメット剤 30kg/10a、



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    0: 褐色腐敗なし、 細根多数
    1: 褐色腐敗あり、 細根やや多
    2: 褐色腐敗やや多、細根少
    3: 褐色腐敗多、  細根少
    4: 殆どの根が褐色腐敗し、枯死
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【 その他 】

研究課題名:簡易軟白ねぎの根腐萎ちょう病(仮称)と土壌塩類濃度の関係
予算区分:道費
研究期間:平成8年度(平成7〜8年)
研究担当者:新村昭憲・坂本宣崇
発表論文等:新村昭憲・谷井昭夫・坂本宣崇、Fusarium oxysporumによるネギ根腐萎凋病(仮称)の発生、日植病報、62巻6号、141、1996
      坂本宣崇・新村昭憲・林哲央・谷井昭夫、簡易軟白ねぎの根腐萎凋症発病と土壌環境、日本土肥学会北海道支部講要集、2、1996

        「平成9年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.148