遺伝子診断(RAPD法)のための種子からの簡易DNA抽出法
【 要約 】 豆類種子、ばれいしょ塊茎、玄米より微量のDNAを抽出し、RAPDマーカーにより遺伝子型を判定する手法を確立した。種子は播種可能なため、希望の遺伝子型の個体のみを次世代に進めることができる。品種判別やDNAマーカー選抜に利用できる。
北海道立中央農業試験場・生物工学部・遺伝子工学科 連絡先 01238-9-2001
部会名 基盤研究 専門 バイテク 対象 豆類・いも類・稲類 分類 研究

【 背景・ねらい 】
 近年の遺伝子工学的手法の発展により、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chainreaction、PCR)を利用した遺伝子診断法が種々の分野で活用されている。作物においてもこの遺伝子診断技術、特にRAPD( random amplified polymorphic DNA )マーカーによる診断技術を適用するために、種子からの簡便なDNA抽出法を開発する。

【 成果の内容・特徴 】

  1. 種子からの試料採取法は、豆類では子葉中央部に直径2.5㎜のドリルで穴を開け、キリ屑を試料とした。ばれいしょ塊茎では、先端を切り落としたイエローチップを突き刺すことにより、また稲では玄米をハサミで切断することにより、試料を得ることが可能であった。この方法で豆類、玄米では約10㎎、ばれいしょでは約50㎎の試料が得られた。
  2. 試料採取後の種子の発芽試験では、大豆、菜豆、玄米では発芽に支障は認められなかったが、小豆では穴開け時に胚や幼根を欠いたものがあり、発芽率は劣った。
  3. 試料からの簡易なDNA抽出法として、プロテナーゼ-Kを用いる方法(pK法)を適用した(図1)。標準的なCTABを用いる方法に比べ簡便で、2時間以内に作業は終了した。市販の核酸抽出用キットとの比較では、得られるDNA抽出物の収量や純度は市販のキットでやや勝る傾向が見られたが(表1)、ランダムプライマーによるPCRの結果に差は認められなかった。
  4. 得られるDNA抽出物にはPCRの阻害物質が含まれていると思われ、その程度は作物、品種により異なった。そのため、得られた抽出物に応じて、10〜100倍に希釈することにより、安定して再現性のあるPCR産物を得ることができた(図2)。
  5. 本法の応用例として、RAPDマーカーによる大豆の交雑種子の判定を行った。両親間の多型により、交雑の正否の判定が可能であった(図3)。

【 成果の活用面・留意点 】

  1. この成果は、豆類、ばれいしょ塊茎、水稲に適用する。
  2. PCR法は感度が高いので、異種DNAの混入に十分注意する。また、得られるDNA抽出物に応じて反応条件を最適化する。
平成8年度北海道農業試験会議成績会議における課題名及び区分
課題名:遺伝子診断(RAPD法)のための種子からの簡易DNA抽出法(研究参考)

【 その他 】

研究課題名:先端技術開発研究−遺伝子操作技術の開発、ジャガイモそうか病抵抗性遺伝子マーカーの探索
予算区分 :道費、共同
研究期間 :平成8年度(平成6〜8年)
研究担当者:紙谷元一・木口忠彦
発表論文等:ダイズ種子からのRAPD分析用鋳型DNAの調製、育種学雑誌44(別2)121(1994)

        「平成9年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.373