小型ピロプラズマ原虫の遺伝子解析とワクチン開発の試み
【 要約 】 黒毛和種はヘレフォード、アンガスに比べ、小型ピロプラズマ病抵抗性が高かった。ピロプラズマ原虫(Ts)はC、I、B-1、B-2の4つの遺伝子型に分けられることを明らかにし、PCR法による遺伝子型判別法を開発した。試作合成ペプチドワクチンはTs寄生率上昇を抑制し、貧血等の症状の緩和が可能である。
北海道立新得畜産試験場・生産技術部・衛生科 連絡先 01566-4-5321
部会名 畜産・草地(畜産) 専門 バイテク 対象 家畜類 分類 研究

【 背景・ねらい 】
 牛の小型ピロプラズマ病は赤血球内に小型ピロプラズマ原虫Theileria sergenti(Ts)が寄生する感染症で、貧血と発熱をもたらす重大な放牧病の一つである。近年生産コストの低減や省力化のため放牧が見直されているが、本病による損耗がその利用促進のネックとなっており、防除法の確立、特に有効なワクチンの開発が強く望まれている。そこで本試験では、本病抵抗性における肉牛の品種間差を検討するとともに、近年急速に進展している遺伝子操作を利用し、ピロプラズマ原虫の解析を行い、ワクチンの開発を目指した。

【 成果の内容・特徴 】

  1. 黒毛和種はヘレフォード、アンガスに比べ小型ピロプラズマ病抵抗性が高かった。また黒毛和種はヘレフォードに比べ、CD2、CD4およびCD8陽性リンパ球の割合が高く、抵抗性と何らかの関係のあることが示唆された。
  2. 千歳株TsのmRNAからCDNAライブラリーを作製した後、32KDa(p32)および23KDa(p23)の表面蛋白質をコードする遺伝子をクローニングし、塩基配列を決定した。
  3. 代表的な分離株についてp32遺伝子塩基配列を比較した結果、大きくC、I、Bー1、Bー2型の4型に分類できることが明らかとなった。PCR法による遺伝子型判別法を開発し、これを用いて国内野外株の型別調査を実施したところ、大部分の株にはC型、I型が混在していることが明らかとなった。
  4. C型p32のアミノ酸配列から抗体応答を誘導できると想定された部位のペプチド2種類(AおよびB)を合成し、これをマウスに接種したところ、十分な抗体産生が認められた。
  5. 子牛にC型由来合成ペプチドワクチンを接種した後、CおよびI型混在のTsを人工感染させたところ、I型Tsが終始優位に推移し、C型Tsの出現が抑制された。また、本病発生牧野への放牧による本ワクチンの効果試験においても、Ts寄生率の上昇をやや抑制する効果が認められた。
  6. CおよびI両型(p32)由来合成ペプチドをリポソームに封入したワクチンを試作し、人工感染により効果検討したところ、Ts抗体価の上昇およびTs寄生率の上昇や貧血をやや抑制する効果が認められた。しかし、放牧による同ワクチンの効果試験では、Ts寄生率の上昇抑制、貧血防止等の効果は確認できなかった。
  7. 以上の予防効果試験の結果から、試作合成ペプチドワクチンは寄生率の上昇抑制、貧血等の症状を緩和する可能性がうかがわれた。

【 成果の活用面・留意点 】

  1. 試作合成ペプチドワクチンはさらにアジュバント、投与量および投与方法の検討が必要であり、現段階での実用化は困難である。
平成8年度北海道農業試験会議成績会議における課題名及び区分
課題名:小型ピロプラズマ原虫の遺伝子解析とワクチン開発の試み(研究参考)

【 その他 】

研究課題名:遺伝子操作による小型ピロプラズマ病ワクチンの開発とその利用
予算区分:共同研究(大学)
研究期間:平成8年度(平成6〜8年)
研究担当者:尾上貞雄・森 清一・宮崎 元・川崎 勉・杉本千尋・小沼 操
発表論文等:合成ペプチドワクチンによる野外での小型ピロプラズマ病予防効果第121回日本獣医学会講演要旨集 112頁、1966

        「平成9年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.380