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中央農業試験場

農業生産法人向け診断ツール「農試式経営診断」

農業生産法人向け診断ツール「農試式経営診断」

1.試験のねらい
農業生産法人は、地域における農地の利用・保全を考える上で重要な存在です。しかし、現状では、経営状態が芳しくない法人も散見されます。このため、農業生産法人が、持続的な発展を遂げる際に有効となる経営管理手法を確立しました。

2.試験の方法
1) 経営診断手法の確立
農業生産法人では、全ての構成員が経営状況を把握する必要があるため、財務諸表注1)に関する専門的な知識を要さずとも理解が可能となる手法の確立を目指しました。なお、経営診断は、簡単に実施できるよう、財務諸表の他、組勘等の身近にある資料を用いています。
2)経営診断の実践
農協職員と普及指導員とともに、開発した経営診断手法を用いて農業生産法人の構成員に対する経営改善の提案を試みました。

3.試験結果
1) 経営診断手法の確立
財務諸表の「見える化」を実現した「農試式診断グラフ」を開発しました(図1)。図の左側から順に、収入(基準値との比較が可能)、生産性注2)(付加価値額が大きいほど生産性が高い)、分配(稼いだ金額の分配)、収益性(経常利益と減価償却からなる手元資金)、資金繰り注3)(負債償還を考慮した資金収支)を示しています。「農試式診断グラフ」は、生産性等の一般的な経営分析の指標をグラフ化した他、経営内の資金の流れを可視化しています。また、「農試式診断グラフ」は、基準値と比較することで、生産性の変化を速やかに把握することに役立ちます。経営全体の生産性に問題があると判断した際には、基準値との差異分析によりその要因を分解することで、原因を洗い出すことが可能です(図2)。なお、分析の結果、費用に問題があると判断した場合、変化額が大きな順に費目をグラフ化することで、投入した費用の問題を特定することが可能です(図3)。

農試式診断グラフの例

生産性に関する差違分析と費用のチェックの例

2)経営診断の実践
「農試式診断グラフ」を用いて特定された問題について、項目、現状の問題点と要因、当面の課題(経営面・技術面)、将来的なビジョンの4点にまとめ、法人の構成員に提示しました。「農試式診断グラフ」は、図4に示した診断の手順に従うことで、経営に内在する問題点を洗い出すことができるため、法人の構成員が問題に対する認識を強めることに役立ちます。

農試式診断グラフによる経営診断の手順



1)財務諸表:納税申告等を目的に作成が義務づけられた書類です。毎年、1回作成します。

2)生産性(付加価値):経営の内部で稼ぎ出した金額です。人・土地(地代)・機械・公共(税金・保険)・金(利息・利益)に分配されます。

3)資金繰り:ここでは、手元資金から負債の償還額を控除した額を示しています。このため、一般的な資金繰り表に示される値とは異なります。