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酪農試験場天北支場

北海道におけるTMRセンターの現状と課題

 

北海道におけるTMRセンターの現状と課題

 

総合討議


○パネラー

 興部町農業協同組合 営農課長 田中義人

 有限会社ディリーサポート士別 代表取締役 玉置 豊
 

 天北農業試験場 主任専門技術員 三浦康雄
 

 

○助言者

 天北農業試験場 専門技術員 椋本正寿

 

○コーディネータ

 天北農業試験場 技術普及部長 内山誠一
 

 


 

 

司会(内山技術普及部長):

 これから2時間半の間、TMRセンターを話題の中心として、これからの酪農をどうしていこうか、ここにお集まりいただいた皆さんといっしょに考えていければと思っています。1時間くらいをかけて、3人の方からご報告いただきたいと思います。3人の報告者を紹介させていただきます。第1報告者は興部町農業協同組合 営農課長の田中義人さん、第2報告者は有限会社ディリーサポート士別 代表取締役の玉置 豊さん、第3報告者は天北農業試験場 主任専門技術員の三浦康雄です。よろしくお願いいたします。
 

 それでは討論に入りたいと思います。はじめに、確認・簡単な質問等ありませんか?
 

 

稚内開建・石垣:

 田中さんは平成9年と15年の経営比較を示されましたが、乳量、労働時間に対する効果に農家間のばらつきが大きい。経営意識の違いということだったが、具体的要因は何か?
 

 

 

田中:

 経年データないが、乳量については、エサだけで決まるものではない。衛生面や給餌等、飼養管理全体が整っていないと効果は出にくい。フリーストールやパイプラインの増設、増頭が結果的に乳量増加に結びついているとみている。
 

 

中頓別町酪農家・川上:

TMRを与えた場合の最低乳量(採算ライン)の目安はどの程度か?
 

 

玉置:

乳量に対して購入代金が50%までということから、9000kgを目安に考えている。個々の飼養管理、牛群によりTMRに対する順応性が異なる。カットサイレージ調製と異なり、もともとラップ主体から移行した事例では採食量が低下し、難しかった。採食量の目標を52.3kg/頭にしているが、悪い牛群の例では37~38kg/頭に止まっていた。
 


司会

 同じエサでも条件によってことなるということですね。牛の飼養管理による違いはどうして起こるのか、助言者の椋本専技に伺いたい。
 

 

椋本:

 士別、名寄、幌延の3カ所のTMRセンターに関与してきた。普及センターと巡回して気がついたこと。まず、センターが設定したメニュー、乾物1kg当たり乳量を診る。通常、牛群で1.3~1.4kg乳量/kgDMが目安。これに達していない場合の要因として、2つ考えられる。①は牛舎・施設・システムの問題なのか②マネージメント(管理)の問題なのかを調べる。①については牛舎環境構造が古く旧態依然で、TMR給与の作業効率が悪いか?繋留方法、牛床の状態、水槽・飼層の表面、換気状態等、牛にとって快適な牛舎環境になっているか?搾乳牛と乾乳牛の分離が可能な構造になっているか?を診ます。②はセンター側の指導チームで給与マニュアルを作成する。その給与マニュアル通り牛群を管理しているか?乳検データから牛の繁殖状況を診ます。受胎がうまくいかない牛あるいは低能力牛は後半太ってきて、次のサイクルで代謝障害を起こす場合が多い。適正な泌乳サイクルになっているかをチェックする。最後に、育成プログラムの問題。食べない牛作りをしてしまった場合がある。うまくいっている農場はTMR50kgをすぐ食べることができるが、育成プログラムがうまくいっていない場合やロールパック主体等で腹作りが十分できていない場合は喰い止まりが起こる。システムとマネージメントの2点でモニタリングしている。
 

 

司会:

 TMRセンターが始まってからも勉強会を継続する必要があり、現に行っているということです。興部では一頭当たり乳量が1000kg近く上がった実績があるが、技術の勉強を仲間でやっていく上での工夫や農家の変化などないか?
 

 

田中:

 設立スタートの段階から構想を立ち上げる各指導機関と連携し、皆で手探りで考えながらやってきた。飼養管理を含めて、エサの中身と利用する側それぞれの条件を出し合いながら日頃の話し合いの中で解決策を探っている。また、年1回の視察を複数班に分かれて実施し、地域に持ち帰っている。
 

 

司会:

 牛の飼い方から話題を変えたい。今、酪農地帯ではTMRセンターや哺育システムなどがずいぶん注目されている。既存のコントラ、機械のヘルパー制度は立ち上がってからも農協の支援を受けている場合が多い。これに対して、TMRセンターの場合は設立後は自立が求められている点が非常に大事なことがと思う。農家も良くなり、会社も赤字になっては困る。ほどほどの黒字を出して、農家に良いエサを安く供給することが求められる。その意味で、良いTMRを作るセンターのポイントはどこにあるか?
 

 

三浦:

 TMRセンターの使命は良いエサを安く安定して供給すること。それにはサイレージ調製技術の向上やミキシング技術の研究、トウモロコシを含めて1・2番草の組み合わせをどうするか等々ある。長い目で考えたいが、最も大事なことは粗飼料の栄養価、品質向上にあると思う。9戸なり、20戸なりの酪農家がそれぞれ自由に作ってきた畑から収穫された牧草が1つのバンカーサイロに入る訳です。TMRセンターのメリットとして均質化されることもあるが、すべてが良いものであればそれに超したことはない。したがって、士別では粗飼料の基盤を1年に100haずつ更新していくということだったが、TMRセンターを一戸の農家と見立てて圃場全体を、適期収穫できるような草種品種に変えていくことが求められる。粗飼料がうまくできれば後は組み合わせるだけなので楽に運営できるだろう。
 

 

司会:

 興部では特に品質面やコスト低減でどんな工夫をしているか?
 

 

田中:

 品質や調製については、各戸バラバラだったものが、一つのバンカーに入るようになって、効果が出た。ただし、逆に失敗するリスクもある。1番草の収穫適期は6月末から7月上旬の短期間なので、集中して収穫される効果が大きい。一方、乾草については自走式ハーベスタが入れない草地もある。どうしても皆さんがもともと持っている草地は利用したいということがあり、収穫予定圃場が100ha以上あると、収穫後に雨が降ったら一気になくなるということもあった。時間的なサイクルを作ったり、作業を分割する体制を採りながら対処してきた。ただし、これには労力の問題が絡んでくる。まだフィードサービスにおいてもコントラなり他産業の参入がないので、どうしても時期的に構成員の出役が個々の牛舎作業と競合する。夜12時まで搬送作業を行う実態もあり、誰が牛舎作業を行うのか?日中はまったく奥さん一人なのかということもある。これを解決するため、雇用労力の導入も検討しているが、将来的には我々の地域の中ではコントラクタ事業の大きな枠の中でフィードサービスの方々についても支援体制を整備していきたい。基礎的な飼料の面では大きく改善したが、そういう問題は残っている。
 

 

司会:

 安くする工夫を紹介いただきたい。
 

 

玉置:

 良い牧草を原料に良いサイレージを作る。士別での特徴として、モアコンディショナーのカッターバーの下に鉄板を当てて、下駄を履かせて牧草を刈り取っている。刈り高を高くして、土壌や雑菌の混入を防いでいることで、添加剤は一切使わず、kg単価で1~1.数円ほどコストが低減している。デンマーク視察で学ぶ機会があり、刈り高のことに気がついた。天北ではペレニアルライグラスが推進されていたが、高水分で難しいと聞いていたが、デンマークではほとんどペレ主体であった。しかも3年に1回更新していたのは、10数年も更新していない我々にとって驚きだった。良い草を作るには更新が必要だと考えている。さらに、調製作業を適切に行うよう心がけている。
 

司会:

 当たり前のことを効率よくやるということだと思います。今まで、牛の問題、センターとしての良いエサを作る要点等についてお話いただきました。会場から他に質問がなければ、次に組織的な話に移りたいと思います。士別では23戸の構成員が多く、興部では当初の5戸から9戸に増えた訳ですが、組織をまとめる難しさがあったと思うが、会社として新たな構成員の追加加入要望への対応に問題はないか?
 

 

田中:

 5戸でスタートした当初、地域の中には「やってみないと分からいので、様子を見よう」という方が多かった。ほぼ1年に1戸ずつ増えたが、加入希望があれば基本的に受け入れるというスタンスである。器の問題はあるが、機械の稼働率が上がる点を重視して対応してきた。
 

 

司会:

 士別では全筆調査等、周到に準備されたが、準備の具体的なポイントと苦労した点を紹介いただいたい。
 

 

玉置:

 まず、会議を数多く開き、農家の声を十分に聴くよう心がけた。JAの1本所4支所毎に会議を開いたところ、支所毎にセンターを設立しようという意見もあったが、雇用等を考えると5~6戸での運営は難しいと判断し、1カ所にまとめるべきだとの結論に達した。この間、支所毎に、親父さんあるいは青年同志会との話し合いも含め、20数回会議を開いた。より円滑に進めるため、土地、機械、TMRの3部会を作った。機械部会では現有機械の扱いと新規導入を検討し、土地部会は全442筆の評価を行い、TMR部会では圧縮・梱包までのノウハウを積み上げた。林家さんはじめ普及センターの協力によって、TMR保持試験を行い15日間のデータを収集してもらう等、皆の盛り上がりが一つにまとまる力になったと考えている。
 

 

司会:

 玉置さんのリーダーシップの下で、上手に役割分担したということですね。三浦専技の講演で、スライド4にあるように「構成員もTMRの会社もやる人は同じ」ということでしたが、具体的に説明いただきたい。
 

 

三浦:

 TMRセンターは法人格を持っている訳ですが、完全協業法人との違いは経営が個々の財布である点にある。経営は個々の裁量で自由にできるが、TMRセンターは会社として経営しなくてはならない。個人経営者としての要求を会社に出す立場であると同時に、会社の経営者としてはこれに応える努力をしつつ、赤字経営とならないようにする必要がある。最終的には個々の経営を良くすることがTMRセンターの使命なので、こういった考え方をきちんと持っていなければ、TMRセンターはうまくいかないという意味です。
 

 

司会:

 会場に幌延町の問寒別でCFTというTMRセンターを立ち上げて頑張っておられる方が5人参加されています。突然の指名で恐縮ですが、畝沢さん?から活動状況を紹介いただけないでしょうか?
 

 

幌延・卯子澤:

 土地生産部会長を務めている関係で、土地の更新、特に天気に合わせていかに更新していったら良いか、また、土地の区分整理、効率を上げるための土地の整備が重要だと考えている。
 

 

 

司会:

 これは重要なポイントだと思います。センターというとどうしても機械や建物に目が行きがちだが、土地の基盤をしっかりしておくことが重要だというお話でした。最後に講演者の方から、これから立ち上げる場合の注意すべき要点について、一言ずつお願いします。
 

 

田中:

 我々もまだ問題が残っているので、構成員といっしょに歩んでいきたい。組織化するのは大変なことで、先駆けとして他の地域からの問い合わせにも応えてきた。このことは地域の中でもっと評価されて良い。運営管理していくうえで、構成員とのやりとり等、相当の機能を持たなくてはならない。役割分担などを含め組織化ができるかが重要だと思う。構成員は個々の経営とセンターという組織運営の兼業で、二面性を持つことになるので、混乱を招かないためには、強い組織体制とリーダーシップが重要である。良い関係を作っていけるようこれからも努力したい。
 

 

玉置:

 まず、このままいったら、10年先どうなるかを考えるところを皆さんに考えていただきたい。我々もそこからスタートした。平成元年に70戸あった酪農家数が今41戸まで減少した。10年先には半減するという予測もあったので、何とかしなければならないと思った。力のある人は一層、牽引車となってほしいし、力の足りない人は助け合っていく必要がある。共同作業というか、機械利用組合の発想では途中で駄目になると思う。五分五分の発言が不協和音を生み出すことになる。会社であれば会社の方針のもとに進んでいかないと、組織としてうまくいかない。一人一人が自分たちの町、部落について考えていただきたい。ただし、TMRセンターがすべてではない。法人化やフリーストールでの大規模化も一つの方法である。それができない場合は、一つの集合体になって、酪農を続けていくことも可能だろう。土地の評価については、農業者は皆、良い土地を広く持ちたいものだが、農地は牛のエサを獲る一つの道具に過ぎないと割り切ること。我々の地域では酪農家の土地は売れないのが現状だから、財産という価値観を捨てることだ。ただし、地域でいろいろなやり方がある。例えば、デントコーンは士別だから取り組めた。地域の気候風土に合ったものを作るしか、地域が発展する道はないと思う。
 

 

司会:

 最後の一言は非常に意味が深かったと思います。
 

 

三浦:

 3、4カ所のTMRセンターに関わった反省から、稼働が始まる時点でのポイントとして、ハード整備の話に集中してしまい、作ってからどうしようでは駄目だということ。会社と個人の経営をどうするか、稼働前に準備しておくおことが必要。TMRの供給を受ける前に、人、環境、牛をTMRに合わせて変えておくことがスムースに移行するための条件です。
 

 

本:

 プロジェクトチームを組むことが重要。総合的な技術がTMRセンターの運営に関わってくるので、一個人のスーパーマン的な対応では無理。それぞれの専門分野に特化した人が集まって、チームを組んで成功に導くことが大切。
 

 

司会:

 ありがとうございました。新しいことに対してはマイナス思考に陥りがちだが、現実の農村はマイナス思考だけでは前に進めない。一方で、行け行けどんどんのプラス思考だけでは逆にリスクが高くなってしまう。そのような中で、何かを決めなくてはならない時に、農家同士がきちんとテーブルに着いて、腹を割って話し合うことがポイントだと思います。もっともっと具体的に聴きたかったが、時間がなくなり、消化不良になったかもしれません。宗谷独自にこれからいろいろなことを考えて、講演いただいたお二人の地域と交流を進めていきたいという決意表明を含めて、本フォーラムを閉じたいと思います。4人の方、どうもありがとうございました。

 

4.閉会
 

 総合司会:酪農家を支援する新しいシステムとしてのTMRセンター、いかがだったでしょうか?今日出席された皆さんに、酪農経営のあり方や今後どうやっていくのかを考えていただくきっかけになればと思っています。本日はご苦労様でした。以上で閉会といたします。