農業研究本部へ

酪農試験場天北支場

(有)オコッペフィードサービスの実践と個別農家の成果

(有)オコッペフィードサービスの実践と個別農家の成果

興部町農業協同組合営農課

田中義人


 

はじめに

 酪農の外部支援組織として発足した(有)オコッペフィードサービスは粗飼料生産部門を協業化し、混合飼料(TMR)を構成員に供給するというそれまでにはなかった新しい形態の組織である。圃場は構成員の所有であるが、肥培管理や収穫等の圃場作業は会社が行なう。収穫した粗飼料は会社の所有物であり、構成員はTMRを購入する。生乳生産は個別酪農家として個人経営している。すでに“オコッペモデル”として広く紹介され、各地で様々な波及効果を得ている。

興部町の農業概要

 興部町は北海道網走管内の北西端に位置し、酪農、漁業、林業を基幹とする第一次産業の町である。平成15年度の興部町の乳用牛飼養戸数は94戸、肉牛飼養戸数は15戸である。耕地面積約5,500ha、乳用牛飼養頭数約11,000頭、1戸当たり耕地面積50ha、1戸当たり乳牛飼養頭数117頭である。平成15年度の生乳生産量実績は47,380トンを達成し、前年度対比で101%の伸びであった。

問題はなにか

 (有)オコッペフィードサービスはトラクター利用組合を組織する酪農家の発案で設立に到った。この組織を検討するにあたり、生産現場における問題点の整理を行なった。第1は一部牧草収穫作業は共同で行っているが、収穫時の天候によって個々のサイレ-ジの品質にばらつきがあり不公平感がある。第2は現在の個々の所有地が数団地に分かれているため、牧草作業の効率が悪い。第3は現状のまま個人毎に農機具を所有し続けても、数年後には確実に更新時期となり再投資しなければならない。第4はすでに経営規模の拡大を行った農家やこれから行おうとしている農家にとっては、粗飼料生産の増加に対応するため大型機械の導入や貯蔵施設の整備を行う必要がある、の4点が整理された。

会社設立の経緯

 上記の課題に対処する組織の方向性を検討した。第1に従来のトラクタ-組合の形態ではなく新しい組織体を想定し、牧草にかかるすべての作業(牧草地の更新、肥培管理、収穫調製)をこの組織が行う。組織は法人(有限会社もしくは農事組合法人)として、さらに構成員が所有する農地を借り受け一体的に管理する。牧草の管理・収穫にかかる機械は組織の所有とし、個人の現有の機械で作業体系上利用可能な機械は組織が買い上げ、個人有の機械はトラクタ-1台とトラック程度の最小限のものとして他の機械は売却処分する。第2に収穫されたサイレ-ジ、乾草等は同一の品質のものを構成員が買い取る形とする。第3に構成員外の収穫作業等を積極的に受託し、地域のコントラクタ-組織として位置づける、という内容であった。これらの検討経過を踏まえて、興部町北興地区の15戸すべてに呼びかけ、検討会を開催し地域として取り組む可能性を探った。

 以上のような経過において組織を構成する5戸のメンバ-が決定し、平成10年に「自給飼料生産組合オコッペフィ-ドサ-ビス」を設立、平成11年には法人化し「有限会社オコッペフィ-ドサ-ビス」へ移行、会社組織として運営を開始した。以後、平成11年に1戸、12年に1戸、13年に1戸が次々と新規加入し、現在構成員は9戸となっている。

フィードサービスの事業内容及び組織構成

草地更新、施肥、堆肥・スラリー撒布、収穫、コーン栽培等の圃場作業に係る費用及び肥料代、種子代等材料費等費用は、全て会社が負担する。

表1 フィードサービスの事業内容

 次に組織体制は図1のとおりであるが、経理担当として1名をパート雇用、TMR担当として雇用2名、構成員の後継者1名計3名で編成、調製・配送等を行う。機械管理は構成員の後継者2名が担当し、整備点検・修理等を行う。作業担当は構成員1名である。

図1 (有)オコッペフィードサービスの組織体制

オコッペフィードサービス構成員の概要

 構成農家の経営概況を示したのが表2である。経産牛頭数はNo.1が115頭と最も大きく、他は40~70頭の幅にあり農家間の規模格差は大きい。平均飼養頭数は104頭である。農地面積についてはNo.1の77.4haが最も大きく、他は45~64haの間にあり、平均農地面積は56.8haである。農地については採草地、放牧地は会社が利用し、放牧地はそれぞれが利用している。

表2 構成農家の経営概要


構成員に生まれた効果

 オコッペフィードサービスに参加した構成員の効果をまとめると以下のようになる。

○労働の軽減が実現した。

 ・女性や高齢者が一次生産部門から開放され圃場作業がゼロになった。

 ・労働の不規則性が緩和された。

 ・ 粗飼料の取出し、給与作業時間が大幅に短縮された。(表3)

表3 飼料給与作業時間の変化

○構成員の経営内容が向上している。

 ・ 平均所得は 290万円(H9)から788万円(H15)に増加した。

○良質粗飼料が安定確保された。

 ・一元管理による牧草の調製期間が大幅に短縮、適期刈取りが実現した。

 ・TMRによって飼料が安定確保され増頭や個体成績の向上、疾病の減少につながっている。

 ・平均出荷乳量は平均417t(H9)から646t(H15)に55%増加した。(表4、5)

○構成員の所有機械が劇的に減少した。

 ・ 構成員は、参加時、除雪や牛舎まわり作業に必要な機械のみを残し、他の機械を処分した。処分数は所有総台数160台のうち124台にのぼる。

表4 飼養頭数の変化 (頭、%)    

 表5 出荷乳量、乳成分の変化


 以上のような効果が構成員に生まれた背景としては、粗飼料の共有化と公平な分配が実現しTMRがこれを可能にしたこと、酪農経営は個々に継続しており、経営意欲発揮の場があること、OFSが大型機械を所有し、圃場を一元管理することによって1番牧草サイレージの調製期間が大幅に短縮し、粗飼料の質・量の向上と安定が実現、出荷乳量の増など経営改善に大きく貢献していること、地域への貢献も大きく、参加する構成員が年々増加していること、員外の作業を受託し、町内酪農の経営安定に寄与していること、過疎化が進む地域にあって雇用促進に貢献していることが挙げられる。

今後の課題

 牧草収穫における機械効率、労働問題など従来の問題はかなり緩和できたが、「ふん尿処理」と「育成」の問題がある。ふん尿処理は、搬出・撒布は会社の業務として行っている。堆肥は更新草地、コーン畑に、液肥は牧草地に施用している。糞尿処理施設の整備については概ね目途は付いているが、散布にかかる労力及び機械更新等は避けて通れない状況にあり、地域のコントラ事業と連携した対応も検討しなければならない。また、育成を分離することができれば、更に労力の軽減と各経営間の乳牛の能力差を埋めることができる。この取組に対しても今後の大きな課題といえる。


おわりに

 官・団体主導ではなく、トラクター利用組合の構成メンバーが母体となった生産者自らの発案でそれを実行したという点がこの組織の大きな特徴である。地域としても全国的にも前例のない組織なだけに情報収集、補助事業の活用等協力体制は整えたものの結果的には充分な補助事業の導入に至らなかった。しかし、組織の構成員の結束力、行動力が優れていたことから今回の事業の立ち上げ、運営はもとより実績が伴っているといえよう。

 また、この組織を構成するメンバーは、お互いの経営の問題点から解決方法を話し合うなど常に前向きに取り組んでおり、会社はそういった活気ある交流の場となっている。

こういった強い仲間意識を基盤にし、家族経営の存続に深く関わる組織としてその存在意義は大きい。さらに地域の農業者の期待も大きく、毎年のように牧草収穫作業依頼や構成員加入の要望も多い。

 写真1 飼料基地の全景                写真2 TMR調製作業(サイレージの取り出し)
 
  

      

引用及び参考資料

1)飼料生産・TMR製造協業による農場制農業への取り組み 荒木和秋・田中義人,「農」農政調査委員会,2001.6

2)平成15年度優秀畜産表彰・普及定着化推進事業全国優良畜産経営管理技術発表会推薦調査書,北海道酪農畜産協会,2003.9

3)TMRの確保で乳量増を実現した(有)オコッペフィードサービス 田中義人,「酪農ジャーナル,p16~17,2004.4

<参考資料> 興部町におけるコントラクターの育成と実績

1. 地域内の現状と課題

①個別体制での飼料収穫作業は労働力、機械の老朽化により適期に収穫することが難しくなってきている。

②既存の共同組織、受託組織での新たな受託は人員体制、機械体制の面から難しい状況にある。

③既存組織間でも機械稼動体制、共同・受託面積が違い、その機械作業効率にも差があり、作業料金体系も異なる。

④機械故障時における協力体制が確立していないため、時間的なロスが大きい。

⑤高能率の機械導入に多額の資本、資金が必要となるため農作業の受託組織として新たな組織が設立されない状況にある。

2. 推進方針

①農作業受委託等支援協議会を設立し、委託料金の調整・一本化、個別農家からの委託の申込み、他業種との協力体制の確立・調整、組織間の作業調整を行う体制を整備する。

②組織間の作業調整、協力により、高能率機械の利用効率をさらに高め機械コストの低減を図る。

③委託者側の飼料貯蔵体制を整備し、運搬詰め込みにかかるロスを軽減する。(バンガーサイロの一括発注による建設コストの低減)

④個人農家の委託作業を受託し、個々の機械装備の負担を軽減する。

3.平成16年の取り組みと実績

別紙資料  ①、②

<別紙資料①>興部町における農作業受委託等支援構想

 (スライド27に掲載)

<別紙資料②> 興部町内の受託状況

 (スライド28に掲載)