建築研究本部

令和7年度北海道市町村職員政策研修会(第2回)開催報告

行政も地域も仕事のアウトソーシング化が避けられない時代ですが、ともすればアウトソーシング化は、地域の衰退を加速する懸念があります。
そうした中で、持続可能な地域運営に向けて既存の地域主体を活かしたり、地域に新たに主体をつくることで、行政とうまく役割分担する方法を、事例やワーク体験を通じて考えました。
本研修会は北海道市町村振興協会と道総研建築研究本部の共催により実施したものです。

  • 開催日 2025年11月6日(木) 13:00~17:00
  • 場所 北海道市町村振興協会 特別会議室
  • 主催 公益財団法人 北海道市町村振興協会、地方独立行政法人 北海道立総合研究機構(担当:建築研究本部)
  • 後援 北海道、(公財)はまなす財団、環境省北海道環境パートナーシップオフィス
  • 参加者 11市町村、13名の自治体職員(道等への派遣者含む)や地域おこし協力隊

 令和7年度市町村職員政策研修会(第2回)チラシ

柏木常務理事
挨拶 北海道市町村振興協会
常務理事 柏木 文彦 
牛島
進行 道総研建築研究本部
研究主幹 牛島 健
石井
進行・ワーク 道総研建築研究本部
主査 石井 旭

13:00~ 第1部 パネルディスカッション「役割分担を担う新たな主体」

行政と地域運営主体が連携した特徴的な取組を行っている4者から事例紹介をいただき、行政・地域・民間の役割分担の考え方や、持続可能な運営に向けた課題について討論を行いました。

パネルディスカッション
左から鈴木氏、筒井氏、菅原氏
武田氏
ビデオ出演 武田氏

(1) もともとの主体を活かす

富良野市建設水道部上下水道課主幹 鈴木 雄二 氏

水道には行政が管理している上水道などのほかに、特に農村部においては、行政が管理していない水道が多数存在しています。そうした水道は、古くから地域の水道利用組合が管理し、住民自ら低コストで運営できているなど強みも持っていますが、高齢化・人口減少により維持が困難になったり、管路の埋設位置が記憶に頼り不明確であるなどの課題があります。富良野市では、それらの課題に対し、高校生による水道管のマッピングや水質検査、専門家との連携など、新たな主体を巻き込んだ地域運営モデルを生み出しています。
鈴木さんは実践を通じた経験から、「普段の業務以外にも好奇心を持って関わることが、視野・人脈を広げ、地域運営のヒントにもなるはず」とアドバイスしていました。

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富良野市における持続可能な水道システム構築のためのチーム関係

(2) 新たな主体:地域運営組織

NPO法人地域おこし協力隊(下川町) 代表理事 武田 大 氏

同NPOは、「地域運営組織」という言葉が盛んに聞かれるようになる前の2013年に設立。任期を終えた地域おこし協力隊員が地域で活動し続けるための受け皿として組織され、下川町の一の橋地区を拠点に地域の高齢化や過疎に向き合い、10年以上活動を続けています。
役場からの業務委託による浄水場管理や熱供給システム管理は、地域を支える大きな役目であり、収益面では椎茸栽培事業が重要な事業となっています。設立当初に比べると高齢者が減少した一方、現役世代の移住者も多くなり、対応すべき住民の困りごとの内容も変わってきました。
武田さんは「一人では何もできない。地域の知恵、人の力、そして役場の理解が(長く続ける上での)支えだった」と語ります。

(3) 新たな主体:地域商社

ナカフまちづくり株式会社 課長 筒井 祐介 氏

中富良野町では、メロンなど町内農産品の販路拡大支援や、行政では担いきれないまちづくりにおける課題解決のため、町主導でナカフまちづくり株式会社が2023年12月に設立されました。
事例紹介では、ふるさと納税の促進に向けた地域外企業への委託是非に関する議論など、設立に至るまでの経緯が詳細に紹介されました。
筒井さんは事業者からのニーズへの対応には元役場職員ならではの難しさも感じるとしつつ、成果と実績を積み重ねていくことで、地域からの応援と協力を増やしていきたいとの決意が語られました。

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ナカフまちづくり株式会社の組織体制と中富良野町役場の関係

(4) 新たな主体:特定業務で痒いところに手が届くしくみ

一般財団法人しもかわ地域振興機構 空き家対策担当 菅原 睦美氏

下川町は公営住宅など公的借家などの割合が全国平均よりもかなり高く、町としては民間賃貸住宅と持ち家にシフトさせていきたいという課題を持っています。
2024年、移住促進と定住促進を促進するための中間支援組織としてしもかわ地域振興機構(通称:しもかわ財団)が設立され、業務の一つとして空き家対策を担うこととなりました。中間支援組織としてできることは限られますが、宅建事業者や大学とも連携し、主に空き家の所有者に対して多岐にわたる相談に応じています。
小さな町だけに課題も見えており、菅原さんは「空き家の片付けポートなど、空き家活用のハードルとなっているいくつかの問題が解決されれば、今後の可能性は大きい」と希望を語りました。
 

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下川町の空き家対策の取り組み

トークセッション:

牛島と石井の進行により「新たな主体だからできたこと」「アウトソーシング」について各者からコメントをいただきました。以下、主なやりとりです。

Q 「新たな主体だから」「新たな主体と取り組んだからこそ」できたことはありますか。

(鈴木氏)市が行くと、「何をしてくれる」「補助はいくら」といった話になりがちですが、高校生が入ることで、本音が聞けて信頼関係が強くなりました。次の可能性につながる大きなきっかけになったと思っています。高校生も興味を持って、いろいろな賞ももらって、気持ちの変化があったと思います。

(筒井氏)地域商社としても、最初の声掛けは平等を意識していますが、その中でやりたい事業者がいたときには、スピード感をもって支援することで、期待に応えられていると思います。役場だと予算も議会の承認が必要、デザインを決めるときも選考委員会にかけて入札と、とにかく時間がかかります。

Q 地域外へのアウトソーシングもやっぱり必要な時代と思いますが、どんなことに気を付けていますか。

(鈴木氏)これまで何十年も頼んできた地域の会社に頼めなくなることが、ここのところ立て続けにあります。そういうときは、単に新しい事業者を紹介するだけではなく、知っている情報をつなぐなど、今後も長く相談に乗ってもらえるように関係づくりを意識しています。
それと市内にいくつもある水道利用組合が実はお互いのことをよく知らないので、高校生の発表会に組合の方に集まってもらうなど、そうした機会を通じて組合どうしのつながりをもっと強めていければと思っています。

(菅原氏)しもかわ財団では人材バンクや事業承継の取り組みを進めていますが、どうしても外から人を入れなくてはという機会が増えており、そうしたときに使えるWebサービスも出てきています。ただ、町内の人の隙間の時間を使ってもう少し何かができるのではないか、そうした仕事の紹介サービスなどができないかと考えています。

 

ワーク体験:行政の仕事の棚卸し

3~4名ずつ5グループに分かれてワークを実施。これまでの行政の地域における役割を見直し、地域にとってよりよい役割分担のあり方を考えるきっかけとしていただきました。

ワーク1
ワーク2

手順1 行政の仕事の棚卸し
具体的な集落をイメージし、行政の各部署で担っている業務を分野別に書き出します。

 

ワーク3

手順2 仕事の役割分担の検討
それぞれの業務を「引き続き行政が担うもの」「地域にわたせるもの」「やめる・その他の方策を考えるもの」に分類していきます。

 

ワーク4

手順3 検討結果の発表
わかったこと、気づきなどを各テーブルから3分程度で発表していただきました。

 

いくつか印象に残った発言を挙げます。

  • 「もともと地域で担っていたことができなくなって行政が担っている仕事が多い。地域に担う人がいたとして希望する委託費が支払えるのか、またそもそも担える人がいないという問題がある」
  • 「役場職員としては地域にわたせる仕事の中にやりたい仕事が正直多い」
  • 「やめられるものが意外とない。役割を終えたもの、本来の目的を見失っているものもあるはずだが、そこの検討ができていないまま続けているものが多い」
  • 「法令で自治体自らやらなければならない業務以外は、既に地域の人がやっている。障害となっているのは個人情報の取り扱い」

研修での体験が、よりよい地域づくりに向けた何かの気づきにつながれば幸いです。