水産研究本部

試験研究は今 No.56「近年の浮魚類資源と海況について」(1991年2月15日)

最近の浮魚類資源と海況について

  昨年(平成2年)は、春以降、アオリイカやハリセンボン、コウライマナガツオなどの南方暖水系の珍しい魚が定置網で捕獲され話題になりました。

  北海道周辺海域の有用浮魚類は、一般に表層性で、南方の暖水域を産卵場とするものが多く、主な漁期は対馬暖流が北上してきて、道央日本海域に本格的に影響を及ぼしてくる6月頃から、暖流の最盛期となる秋季までです。また、このような浮魚資源は、近年、オホーツク海でサンマが減ってマイワシが増加してきたように、長期的に大きな変動をしています。

  昨年の本道周辺の主な浮魚類の資源動向をみますと、おおよそ次のように考えられています。

  太平洋海域では最近カタクチイワシの増加傾向がみられていますが、マイワシはオホーツク海域(日本海系)も含め今後減少していくものと予想されています。また、マサバは極めて低水準が続いています。サンマは中位水準で安定しており、場合によっては今後増加していくことも予想されています。 さらにスルメイカですが、昨年は日高から道東沿岸域で久しぶりに漁獲が続いたり、根室海峡では前年をさらに上回る大漁となりました。また、1月に入ってもスルメイカ漁が続いており、日本海域、太平洋海域ともかっての大豊漁時代のように回復しないまでも、その後の低水準の推移の中では資源回復の兆候も見られ、今後の資源動向が注目されるところです。

  こうした漁場の拡大は資源増大の反映ともみられますが、一方では水温などの海況やそれによる漁場形成条件との関連も考えられます。
余市における沿岸水温の推移
 本道周辺の沿岸水温は、余市を例にとると、平成元年、2年は前図のように平年(過去30年間の平均値)に比べて明らかに高めに推移しており、しかもこの傾向は今年に入っても顕著です。また、全道各地の沿岸定地水温も前年より明らかに高めの傾向にあります。

では、沿岸から沖合域全般にかけての水温はどうでしょうか。水試が昭和63年から実施している2ヵ月毎の定期海洋観測から、表面水温の年別、海域別、時期別の平均値を比べると、道東太平洋海域では、8月と10月は明らかに低いのですが、その他の海域は全般的に元年が高いことがわかりました。
 また、中・下層水温分布をみると、次の共通した特徴が認められます。すなわち、日本海域の積丹半島西沖、ほぼ北緯43度以南、東経139度以西海域には絶えず冷水域(日本海固有水)が存在しています。また、オホーツク海域にも中冷水域が絶えず存在し、しかも他海域に比べ沿岸への接岸度合いが著しく強く、潮境が顕著であるという特徴が見られます。

また、津軽海峡から太平洋海域へ抜けたいわゆる津軽暖流は、例年、秋季に最も勢力を拡大して日高から胆振海域をおおい、釧路から十勝沖を南西下してくる親潮と顕著な潮境をつくることが知られています。親潮より沿岸を流れる道東沿岸流域では、春~夏にかけての時期はオホーツク海の冷水の影響を受け、最も冷たい水温域になります。秋季にはオホーツク海に流れ込んでいる暖流の影響を受け、この道東沿岸も暖かい環境になり、沖合親潮との潮境が顕著となります。つまり北海道沿岸は、秋季には道東沿岸も含め、南から北上してくる対馬暖流系水に取り囲まれ、暖かい環境にあるということが改めてわかり、大きな特徴ともいえます。

特に昨年の特徴としては、日本海側では、6月に暖水域がここ3年の中で最も北方への広がりを見せていましたし、10月には道央以北で暖水域が沖合まで広範囲に広がっていました。また、10月の茂津多岬西沖の暖水域の断面積もやはり大きく、暖流の勢力が強かったことを裏付けています。

こういった水温環境は、特に年魚でもあるスルメイカが、昨年、日本海域でその分布を北方、西方沖へと拡大したことや道東海域での好漁といったことにも大いに影響を及ぼしていたと考えられます。

最近の浮魚資源と海況との関係について概要をお知らせしましましたが海洋観測という地道な調査活動も水試の重要な仕事であることがおわかりいただけるものと思います。(中央水試)