水産研究本部

試験研究は今 No.67「遠赤外線のウソとホント」(1991年6月21日)

遠赤外線のウソとホント

  前回(No,65号)は、遠赤外線とはどのようなものかという、ほんのさわりについてのお話をしました。これをさらに詳しく説明するのは、内容が少し難しくなりますので、今回は遠赤外線のことで普通一般に云われているが正しいことなのか、誤っていることなのか、どちらとも云えないのかなどについて、お話をしていきたいと思います。

  この話をする前に、まず遠赤外線についての正しい考え方をもっていただくために、その特徴を説明いたします。

  前回もお話したように、遠赤外線は、テレビやラジオの電波や光とおなじ”電磁波”の仲間ですので、まっすぐに飛ぶ性質があります。その進行は、空気にはほとんど妨害されません。しかし、遠赤外線は水に吸収されやすいという性質がありますので、空気中の湿度が高いときは減衰することになります。

  話はよこみちにそれますが、夕焼けが出ると明日の天気は晴れるとよく云われます。これは、夕焼けが出るときは、大気中の湿度が低く、波長の長い光(赤)が雲に反射しているからです。これが大気中の湿度が高いとき(これから雲が発生し、雨が降るとき)は、波長の長い光が大気中の水に吸収され、夕焼けが出にくくなります。これは先に話をした遠赤外線のことと同じと云えます。

  また、遠赤外線は他の光と同じく、ステンレスや鏡などには反射されますが、水やその他の多くのものに吸収されやすい性質があります。しかし、水や空気を除いては物質の中までは到達せず、主に物質の表面だけに吸収されます。吸収された遠赤外線は熱に変換され、物質の温度を上昇させることになります。以上、簡単ですが遠赤外線の基本的な特徴についての説明を終わります。

遠赤外線は内部からあたたかくなる?

  遠赤外線は、ほとんどが物質の表面に吸収されるので内部からあたたまることはありません。ただし、遠赤外線加熱は通常の加熱に比べ、熱効率が良いので、素早く物質の表面をあたため、その後、熱伝導により内部へ熱が伝わり、速やかに加熱することができるので、感覚としては中から温まるということになるのかも知れません。

遠赤外線で調理したものはおいしい?

遠赤外線(七輪)で調理した魚
  おいしい料理を作るには、通常は素早い加熱が必要になります。そのためには熱効率の良い遠赤外線を使うことが効果的といえます。例えば、魚の炭火焼きですが、炭及び七輪から出る遠赤外線が効率よく魚の表面をあたため、短時間に内部まで加熱することができるので、通常のガスグリルで焼く魚よりもおいしい焼き魚ができるわけです。ついでに言いますと、炭火焼きとガスグリルの違いは、遠赤外線のほかに、炎から水蒸気がでるかでないかということもあります。これについても、水蒸気がでない炭火焼きの方に軍配が上がります。

遠赤外線は人体に悪影響はないか?

  遠赤外線を利用しているものとしては低温サウナやこたつ、ストーブなどの暖房器具があります。遠赤外線は紫外線に比べ、電磁波としてのエネルギーレベルが非常に低いので、人体にほとんど悪影響を与えることなしに身体を暖めることが可能です。

遠赤外線は水をおいしくする? 食品の塩分を少なくする? 塩辛などの熟成をすすめる?

  遠赤外線は基本的には加熱効果しかありません。また、遠赤外線を出すものとしては”セラミック”が使われます。これが遠赤外線を出すためには、セラミック本体を100度以上に加熱する必要があるので、通常の低温での遠赤外線効果はほとんど期待できないと考えられます。これから判断しますと、水をおいしくしたり、塩分を少なくするという効果はほとんど無いといえます。しかし、遠赤外線効果はなくても、セラミック自体が食品中の塩分だけを選択的に吸着するとか、水のカルキ臭を吸着するという工夫を凝らしたものはあります。食品の熟成や発酵については、加熱による熟成効果は多少あると考えられますが、それ以外の非熱効果がどの程度のものかはまだはっきりしていません。

  以上何点か、遠赤外線についての疑問に答えてきました。これだけですべてに答えたという訳にはいかないでしょうが、皆様の何らかのお役にたてればと考えています。このほかに質問でもございましたら、中央水産試験場(0135-23-7451)までお問い合わせ下さい。(中央水産試験場)