水産研究本部

試験研究は今 No.68「石狩湾における人工種苗ヒラメの放流効果調査」(1991年6月28日)

石狩湾における人工種苗ヒラメの放流効果調査

  昭和63年から石狩湾の余市前浜を中心にして人工種苗ヒラメの集中放流を実施しています。放流数は年々増加しており、平成2年には147,210尾の人工種苗ヒラメが石狩湾に旅立っていきました。

  人工種苗のヒラメは天然のヒラメとちがって、体の裏側が黒と白のぶち模様になっています。中には裏側が真っ黒で表側との区別がつかないようなヒラメもいます。私たちはこの特徴を利用して、市場に水揚げされたヒラメのうち人工種苗ヒラメがどれくらい混入しているかを調べています。この市場での調査(以後、市場調査と呼びます)で放流したヒラメの回収率を推定することができ、放流効果を算定するための重要な基礎資料になります。

  調査員による市場調査は昨年度までは余市郡漁協、上ノ国漁協および知内漁協で行われていましたが、今年の5月からは調査範囲を広げ、これら以外の漁協でも調査を行うようになりました。また、各漁協では職員の方に人工種苗ヒラメの混獲率を調べていただいています。それでは何故、広範囲で市場調査を実施しなければならないのでしょうか。

  石狩湾での標識放流結果によると、夏に放流したヒラメは秋には沖合に移動しますが、翌年の春には再び放流海域付近にもどってきます。そして、しばらく浅海域で過ごした後に沖合の水深40~60メートルの海域で活発に餌をとるようになります。この時期から刺網や底建網などで漁獲さるようになり、複数の漁協に水揚げされるようになります。また、放流後1年以降は石狩湾から積丹半島を越えて南後志や桧山海域で漁獲されるものもでてきます。したがって、余市郡漁協だけで市場調査を行っていれば、正確な回収率を計算することができなくなります。そのために、余市海域を中心として近辺の漁協での市場調査が重要になるわけです。市場調査で得られた結果は、人工種苗ヒラメ放流の事業化に向けての不可欠な資料です。平成元年1月から平成2年12月までの余市郡漁協における人工種苗ヒラメの市場調査で得られた資料を基に、放流の効果についてお話をしたいと思います。

  まず、人工種苗ヒラメの混入率を見ると(図1)、集中放流を始めた翌年の平成元年には年間の平均が1.4パーセントだったものが、平成2年には年平均4.23パーセントと約3倍に増加しました。月別にみると、両年とも10月の混入率が最も高く、平成元年には5.9パーセント、平成2年には18.2パーセントに達しました。また10月に漁獲された人工種苗ヒラメの全長組成を見ると、平成元年では25~30センチメートルの人工種苗ヒラメが中心で、放流後1年経過したものが漁獲の対象になっていたのが、平成2年には30~35センチメートルのものが中心になり、放流後1年目と2年目のヒラメが漁獲の対象になっていることがわかりました。
    • 図1
 混入率は確かに増加傾向を示していますが、混入率は天然ヒラメの漁獲される量によって影響を受けてしまいます。例えば、人工種苗ヒラメの漁獲量が少なければ混入率はそれほど低くなりません。逆に人工種苗ヒラメがたくさん漁獲されても天然ヒラメがたくさん取れていれば、混入率は高くなりません。そこで、余市郡漁協に水揚げされた人工種苗ヒラメの量を推定してみました。漁獲量の推定には漁獲されたヒラメの大きさも考慮してみました。その結果、平成元年には約280キログラム、平成2年には約1,020キログラムの人工種苗ヒラメが余市郡漁協に水揚げされていると推定されました。集中放流を初めて2年目には1年目の約4倍の漁獲があったわけです。このように放流の効果が十分高まっていることがわかりました。

以上お話したことを簡単にまとめてみると次のようになります。放流したヒラメは放流後1年目の秋ごろから漁業者の皆さんの網に入りはじめ、2年目には放流後1年目と2年目のものが混ざって漁獲されるようになります。また、推定漁獲量も放流数が増加するにつれて確実に多くなっているということです。

このように人工種苗ヒラメの放流の効果は明らかに向上していますが、天然資源に対する割合はまだわずかです。現時点ではまだ、ヒラメ資源の大きなかさあげは期待できません。しかし、今後、放流尾数の増加や新たな放流技術の確立で、資源増大に貢献できる日も、そう遠い将来のことではなさそうです。(中央水試)