水産研究本部

試験研究は今 No.72「平成3年度事業紹介」(1991年7月26日)

平成3年度事業紹介

平成3年度の道の事業のうち、今回は試験研究機関が中心となって実施される新規事業について紹介します。

1:太平洋系マイワシ資源等緊急調査

  マイワシの漁獲量は全国で400万トンを超える水準で推移し、わが国の水産資源の中で重要な地位を占めていますが、平成元年は、主漁場である道東、常磐沖での未成魚の漁獲量が極端に減少するなど、漁業者のみならず、加工業者等関連産業にも大きな不安を与えました。このため太平洋系マイワシ資源の動向の的確な把握と予測を行うため、太平洋側の関係都道府県が協力しあい調査を実施するものです。

2:クロソイの浮き生簀養殖技術開発試験

  近年、本州各地でタイなどの代用品としてソイ類の需要が増大しており、これまであまり流通されなかったエゾメバル(ガヤ)までが漁獲対象となっています。ソイ類の漁獲量をみると、昭和60年には全道で3976トン獲られていましたが、昭和63年には2312トン、平成元年では1636トンと明らかに減少傾向にあります。一方平均単価は、昭和60年に1キログラム当たり308円だったものが、平成元年には464円と上昇し、最近では活魚でも出荷されています。しかも関西方面を中心に尾頭用として今後も需要が増すものと考えられ、クロソイは本道の日本海地域における有望な養殖対象種といえます。

  これまで本道では、クロソイの養殖はあまり行われていませんが、日本栽培漁業協会などから種苗の配布を受け、漁協指導所が中心となって10センチメートル以上に中間育成したものを標識放流し、移動や再捕状況などを調査しています。それによるとクロソイは5度以下の低温で飼育でき、中間育成の生残率も良く、また、2才までは放流地点からあまり移動しないなどが明らかになっています。このクロソイが移動可能で冬期間の波浪に強く、また底生簀方式と比べ給餌が容易であるという特徴をもつ浮き生簀で飼育し、飼育特性の把握、養殖施設の改良、経済性を含めた養殖管理方法の検討など総合的に調査することにしています。

3:エゾアワビの再生機構に関する調査

  本道のアワビの漁獲量は、昭和45年に559トンありましたが、平成元年には87トンと6分の1以下に減少しています。本道の日本海側では、アワビ漁業が沿岸漁業の経営を支える重要な柱となっており、アワビ資源減少の原因を解明するとともに資源増大対策を確立することが強く求められています。

  そこで、資源の減少の著しい後志管内のアワビ漁場を使い、どのくらいの量の母貝があれば稚貝が継続して発生するか、アワビの浮遊幼生や稚仔の生残に好適な条件はどのようなものか等を天然採苗した浮遊幼生などを投入して明らかにしていこうと考えています。

4:酵素・微生物による未低利用海藻の有効利用技術開発調査

  コンブ漁場に繁茂するアイヌワカメなどの雑海藻は、漁場確保のため駆除を行っていますが、その量は全道でかなりの量になります。また、促成栽培により産出する間引きコンブは、利用度が低く、付加価値の向上が期待されています。

  一方、日本海の磯焼け地域では、ウニ、アワビの餌料海藻の不足が大きな問題となっており、この未利用海藻の飼料化が期待されています。

  この低・未利用の海藻には、うま味成分や有用物質が多く含まれております。たとえば、ヤクルトやカルピスなどの商品に使われているオリゴ糖は、腸内の有用細菌であるビフィズス菌を増やすことが知られていますが、海藻中に含まれている多糖類(アルギン酸など)を酵素分解することによっていろいろな形のオリゴ糖を製造することが可能であると考えられています。また、海藻中に含まれるフコイダンという物質は、抗血液凝固剤などの医薬品として使われるヘパリンという物質と同様な作用をもち、その種類によってはヘパリン以上の効果があるとされていますこのフコダインは、コンブには1~2パーセント(乾燥重量に対して)含まれると言われていますが、アイヌワカメなどでは調べられていないので、低・未利用な海藻のフコダインの量を調べ、膜分離という技術を使って低コストで回収する技術の確立を図ろうと考えています。さらに、ウニやアワビの餌料又は家畜の餌としてこの未利用海藻を活用するため、牧草などで行われているサイレージによる貯蔵(無酸素状態にして腐敗を抑制する)や微生物を利用したサイレージ発酵という技術を用い、常温でしかも低コスト、長期間の貯蔵法を開発しようと考えています。

5:水産加工品の低塩分高水分化に伴う加工・流通技術開発

  消費者の嗜好の変化や健康志向により最近の乾製品や塩蔵品などの水産物加工品は、低塩分で高水分の製品が数多く見られるようになってきています。しかし加工品を低塩分でしかも水分が多い状態にすると保存性が低下するため、厳しい品質管理が必要となります。

  この加工品の保存性を向上させるため魚卵製品の水分、塩分量と保存性との関係の調査や微生物の繁殖を抑制、包装技術などの開発を行い、加工品の高品質化を図っていこうと考えています。(水産部)