水産研究本部

試験研究は今 No.154「道北日本海におけるホッケ標識放流試験」(1993年8月6日)

道北日本海におけるホッケ標識放流試験

  北海道を代表する魚の一つとして、ホッケがあります。その主な分布域は、北海道の日本海海域で、中でも利尻・礼文島周辺は分布量が特に多い海域です。

  この海域のホッケは、底びき網、まき網、底建網、刺網などの漁法で漁獲される非常に重要な漁業資源です。稚内水試では、従来からホッケ資源を有効に利用するための調査研究を行っています。

  今年の6月8日に、礼文島香深沖で、地元の水産技術普及指導所、町、漁業協同組合の職員や漁業者の協力を得て、未成魚の標識放流を行いました。これは、今年度のプラザ関連調査事業の一つとして実施されたものです。

  放流尾数は6,567尾で、この数はこれまで何度も行われたホッケ標識放流の中でも最も多い数です。この作業に携わった人は、底建網所有者を含め全部で11人で、標識放流の方法は次のとおりです。まず、底建網に乗網し魚捕部に集められたホッケをタモ網ですくい上げ、スポンジを敷いたコンテナ1個につき20尾程度入れて黄色と白のアンカータグを付けました。魚のすくい上げは1人、標識札の取り付けは5人で行いました。そのほかタグガンに札の準備をする係が1人、標識魚を沖に運んで放流する船に3人が乗り込みました。その場で放すと、せっかく苦労して標識を付けたホッケが、放流後数日の間に近隣の底建網にたくさん乗網してしまうことが以前の調査で分かっていました。そこで、標識札を付ける船の舷に手作りの網いけすをくくり付け、そこにいったん収容し、それを別の船で沖へ運んで放流するようにしたわけです。
    • 標識札装着作業
    • 網いけすに入れられた放流前の標識ホッケ
  この調査の一つめの目的は、未成魚期の移動を解明することです。そのため、満1歳と考えられる体長25センチメートル以下(21~22センチメートルが中心)の個体に限って標識を付けました。ホッケは成魚になるとあまり大きな移動はしないと考えられています。一方、未成魚ではかなり大きな移動をするとされていますが、はっきりしたことは分かっていません。6,500尾を超える数を放流したのは、小型のホッケでは発見や再捕の割合が低いため、少しでも発見数、再補数を多くしたかったからです。一度にこれほど多数の標識魚を放流できたのは、多くの地元の関係者の理解と協力があったからにほかなりません。また、未成魚の資源状態が良いことも幸いしました。

  目的のもう一つは、春季に出現する未成魚が産卵期になって主要な産卵場である礼文島周辺に戻ってくることを実証することです。1988年にも同じ時期・場所で、同様の調査を実施しました。その結果、放流後一定期間滞留した後北上し、産卵期である秋季に再び礼文島周辺に戻ってくるらしいことが分かりました。しかし、そのときには、いろいろな大きさのホッケを放流しましたので、一度産卵した成魚が混じっていたものかも知れません。今回は、礼文島周辺に春季に出現する未成魚の産卵場への回帰を確認することが大きなねらいです。このことにより、漁業者の未成魚の保護に対する意識を高めるとともに、資源管理の方策をさぐるための具体的な資料にしたいと考えています。ホッケは、満1歳でも成熟する個体がありますので、早ければ今秋にも礼文島周辺に産卵のために回帰し、再捕されることを期待しているところです。

  現在までの再捕状況を整理してみますと、7月17日までの再捕報告は合計28尾で、標識魚を沖へ運んだ効果があってか、放流直後の近隣の底建網での再捕が前回に比べて、はるかに少なくなっています。また、現在までの再捕報告から、前回と同じように魚群が北上している傾向を示している結果が得られています。

  本当の結果が得られるのは、まだまだこれからといったところで、今後の漁業者の方からの再捕報告がどれだけあるかにかかっています。各地の指導所、漁協の方々にはお手数をかけますが、このことを漁業者の方にお知らせしていただくとともに、標識魚の再捕報告がありましたら、当場へご連絡下さるよう重々お願い申し上げます。
(稚内水試漁業資源部 高柳志朗)