水産研究本部

試験研究は今 No.155「魚類増殖技術の確立をめざして飼育試験に取り組む広尾町魚類飼育施設」(1993年8月20日)

浜の声 -浜ウォッチング- 魚類増殖技術の確立をめざして飼育試験に取り組む広尾町魚類飼育試験施設

十勝支庁管内広尾町にある広尾町魚類飼育試験施設を訪ね、飼育試験に従事している杉本主任研究員と室谷技師にお話を伺いました。
    • 杉本主任研究員と室谷技師
  町役場がこの種の施設を取得して飼育実験を行っているケースばあまり多くないと思いますが、広尾町がこの施設を設立して事業を始めるに至った経過をお聞かせください。
  近年、国際的な漁業規制が厳しさを増すなかで広尾町の基幹産業である漁業も太平洋小型サケ・マス漁業の縮小を余儀なくされ大きな打撃を受ける一方で、マイワシ、スケトウダラといった回遊資源の減少によっても産業的に深刻な影響を受けています。
このような状況にあって栽培漁業振興の重要性が叫ばれていますが、町としてできるものは何かという検討のなかから、マツカワを中心とした魚類の増殖振興を図るため、増殖技術確立に向けての実験的事業に取り組むこととしました。
この施設は平成3年度の沿岸漁業生産増大特別対策事業(道単)による補助を受けて1,800万円の事業費をかけて建設しましたが、平成4年3月の完成以降からここでの魚類飼育実験に着手しています。

  施設の概要を教えてください。

  試験施設は、木造平屋建103平方メートルの大きさです。建物の中には6トンの飼育水槽3基と2トンのろ過水槽2基を設置しています。施設で使用する海水は隣接している広尾水族館が揚水した海水の一部を分けてもらい循環ろ過方式で使っています。ろ過水槽ではセラミックろ材に砂利と粉砕したカキの貝殻とを混合したものを使っています。また、水温調節のための加温・冷却装置もあります。

  平成4年から飼育事業を開始したということですが、これまでにどのような事業を行ったのですか。

  平成4年は3月に沖合底びき網漁船で漁獲したオヒョウの未成魚を導入し、中間育成を実施しました。当初の計画ではそれらの未成魚を産卵に参加する成魚となるまで飼育しながら飼育技術に関する各種のデータを得るとともに、最終的には人工受精を行うことを予定していましたが、今年1月15日の釧路沖地震の際に、その時点で飼っていた136尾が全滅してしまい、当初の目的が果たせませんでした。このため、今年3月に昨年と同様沖合底びき網漁船から再度未成魚の提供を受けて、中間育成事業を再開しています。今飼育しているオヒョウの年齢は2~3歳ですが、オヒョウは4~5歳から産卵行動に参加すると言われていますので、この施設で人工受精を行えるのは、まだ先のこととなりそうです。
  次にマツカワですが、平成4年6月に日本栽培漁業協会厚岸事業場産の2~3センチメートルの種苗3,000尾を導入して中間育成試験と標識放流を実施しました。中間育成試験は、出来る限り長期間飼育を行い、その間に餌料・飼育密度、急病の発生と予防、へい死の状況等の中間育成技術に関する経験的な知見を得ることを目的としています。
  標識放流は中間育成100日目の10月5日目に体長約10センチメートルにまで成長した稚魚の一部(860尾)を施設の前浜から放流し、放流後の分散状況を調べました。
  マツカワもヒラメと同様に釧路沖地震の際の大量へい死により相当数の稚魚を失ったことにより、残念ながらそれ以降の飼育実験の継続を断念せざるを得なくなりました。また、平成5年1月以降に行う予定でした2回目の標識放流も翌年以降に持ち越しとなりました。
平成5年度は6月15日に再び日本栽培漁業協会厚岸事業場から稚魚5,000尾の提供を受けて飼育実験を再開しています。

  この事業に携わっていて辛い点、苦労する点はどのようなことですか。
  生き物を飼う仕事なので、職員が2人ということもあって休日がなかなか取れないというのが、正直言って一番辛い点です。
  苦労する点としては、2人ともこの種の仕事は初めてで、すべてが新しい経験の分からないことばかりなので、毎日が試行錯誤の連続ということですね。この点に関しては必要に応じて、隣の広尾水族館や十勝地区水産技術普及指導所、栽培漁業総合センター、道立水産孵化場、釧路水試等に照会し助言を得ながら仕事をしています。

  最後に今後の抱負、将来展望等がありましたら、お聞かせください。
  この施設での飼育試験はご覧のとおり小規模な、あくまでも実験的なものであり、直接に漁業生産に結びつくものではありませんが、将来的にはここでの試験を通じて得られる技術的な知見の蓄積が基礎となって、広尾町内で魚類増殖事業が事業べ一スにのって大規模に展開されてゆくことを願っています。

ご苦労もおありでしょうが、これからも広尾町の栽培漁業の振興をめざして頑張ってください。今回はお忙しいなかを取材にご協力いただき、ありがとうございました。
(釧路水試 企画総務部)