水産研究本部

試験研究は今 No.169「トヤマエビ(稚エビ)の中間育成について」(1993年12月17日)

トヤマエビ(稚エビ)の中間育成について

はじめに

  栽培漁業総合センターでは「特定海域新魚種量産技術開発事業」の中で稚内水試と協力し、トヤマエビに関する調査、技術開発を行っています。稚内水試は、年齢、成長、生殖周期に関する生物調査などの基礎調査を担当しています。当センターでは、主に種苗量産化・海中中間育成技術開発および稚エビの標識試験を行っています。

  現在栽培センターでは大型の水槽(実水量7トン)で、体長11~12ミリメートルのトヤマエビ種苗を5~6万尾(生残率40~50パーセント)生産することができます。

中間育成試験について

  海中中間育成試験は、羽幌町、羽幌漁業協同組合、留萌北部地区水産技術普及指導所の協力を得て、5月から翌年の3月まで、日本海で越夏試験や、飼育条件を変えての生残試験を行っています。この飼育条件とは、かごの形状、収容密度、収容開始時期(収容サイズ)の違い、給餌の有無、シェルターの有無・種類などです。ここでは、今まで得られた中間育成試験の結果について簡単に紹介します。

1 水深別試験

  夏の高水温期に、体長21~24ミリメートルの稚エビを円筒型かご(直径60×高さ60センチメートル)に200尾収容し、時化の影響を避けるために水深20、40メートルに垂下しました。水深20メートルにおける生残率は10月までは80パーセント以上で良好でしたが、10月から12月にかけて低下し、2月に約30パーセントまで下がりました。水深40メートルでは、収容後1ヵ月で急激に減少し、10月には約50パーセントまで下がり、水深20メートルと比較して悪い結果となりました。

2 かご形状別試験

  中間育成用かごの形状を検討するために、円筒型(直径60×高さ60センチメートル)と円すい型かご(直径60×高さ60センチメートル)に体長17~21ミリメートルの稚エビを6月に、おのおの200尾収容したところ、11月までの生残率はそれぞれ30、15パーセントで、明らかに円筒型かごの方が良い結果が得られました。

3 密度別試験

  円筒型かごと円すい型かごを用いて密度別試験を行ったところ、生残率、成長から見て円筒型かごに100~300尾収容したものが(生残率50パーセント以上)良好でした。

4 シェルター別試験

  共食い防止のため杉の枝状のシェルター(商品名;エスラン)、ネトロンネットを入れ、体長23ミリメートルの稚エビを6月におのおの200尾収容しました。11月での生残率は、それぞれ33、35パーセントでした。また、シェルター無しでは42パーセントでした。予想に反して、シェルター無しの方が良い結果になりました。

5 収容開始時期(サイズ)別試験

  中間育成を開始する時期(サイズ)別については、5月に200尾(体長13ミリメートル)収容したものは9月現在、生残率79パーセント、体長は47ミリメートルでした。6月に200尾(体長17ミリメートル)収容した場合は、生残率80パーセント、体長44ミリメートルでした。この試験は現在も継続中ですが、5月収容と6月収容とでは、成長と生残率に大きな違いがないようです。

6 給餌の有無別試験

  給餌試験については、干ダラ給餌(毎月1回)試験を実施中です。途中経過ですが、6月に体長17ミリメートルの稚エビを200尾収容したものでは、9月現在の生残率が72パーセント、体長は53ミリメートルでした。一方(無給餌の群では、生残率80パーセント、体長44ミリメートルでした。現時点では、給餌の場合、生残率が低いものの成長は良い傾向がみられました。

まとめ

  今までの結果から、現在使用している円筒型のかごに5月ごろ200~300尾収容し11月まで無給餌で中間育成すると、生残率50パーセント、体長40ミリメートル前後の稚エビが生産可能であると考えられます。しかしトヤマエビは、8月から11月まであまり成長しませんので、8月または9月くらいで中間育成を終わらせたほうが良いのかもしれません。

  トヤマエビの栽培技術はまだまだこれからですが、北海道における貴重な資源でもあり、今後とも試験を継続させながら技術開発を進めたいと考えています。
(栽培センター沿岸部 杉本 章)

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