水産研究本部

試験研究は今 No.175「アワビ人工種苗放流の漁場管理について」(1994年2月25日)

アワビ人工種苗放流の漁場管理について -A漁協青年部の取組み事例-

  北海道の日本海沿岸でアワビ人工種苗放流が始まってから、約20年余りを経過していますが、ほとんどの地域で期待された成果が上がっていないのが実情です。

  その原因としては、漁場の適地選定、種苗の放流方法、餌料確保、害敵駆除、密漁防止など、諸々の取組みに問題があったように思います。すなわち、種苗の放流に当たって、事前事後の漁場管理が十分に行われていなかったことが大きな原因の一つと考えられます。

  今回、この漁場管理に積極的に取組んで、アワビ人工種苗の放流効果を実証しようと、懸命に努力しているA漁協青年部(部員15名)の活動の姿を紹介します。

  一昨年の秋、A漁協青年部は、前浜で長年にわたって行ってきた、アワビ人工種苗放流の成果がなかなか上がらないことから、自分たちの手でできる限りの徹底した漁場管理を行って、その結果を見極めたいと決意し、漁協や浅海部会、関係機関等に対してその取組み方や部員の意欲を訴えてきました。

  昨年3月、その青年部の熱意に、漁協や浅海部会の好意的な理解が得られ、アワビの増殖に適した漁場11,200平方メートルを、青年部専用漁場として提供されました。

  さて、この青年部が用いたアワビ人工種苗は、殻長40ミリメートルサイズの大型種苗3万個ですが、その種苗代は勿論、漁場の管理作業経費等については、部員のみんながリスクを負っての取組みとなっています。そのかわり、青年部の努力によって得られた成果品はすべて青年部のものということで約束が得られています。

  また、この青年部の取組みに対し、関係の水産技術普及指導所、水産業専門技術員、試験研究機関、支庁等による支援体制が組織されました。

主な漁場管理等の項目は、
  1. 漁場周囲のボンデン設置・管理
  2. 害敵駆除方法の検討
  3. 害敵駆除具(刺網、アイナメ篭、ツブ篭)の設置・管理
  4. 種苗の放流方法、放流、追跡調査
  5. 餌料海藻(コンブ)の育成、給餌
  6. 密漁防止の検討、対策
  7. 管理記録簿の記帳
  8. 中間報告検討会の開催、等となっています。
  この項目の中で、青年部が特に担当したのは、(3.)害敵駆除具の設置・管理、(5.)餌料海藻の育成、給餌、(6.)密漁防止対策の3点で、その作業の状況は管理記録簿に記帳し整理しました。

  特に、害敵駆除については重点的に取組み、外部から侵入して来るタコやカジカ等の魚類も防除するという事から、刺網を用いたり、アイナメ篭を設置して区除したほか、写真のように、キタムラサキウニによる食害があること等から、潜水やウニ篭等によりキタムラサキウニ27,956個を採捕し他漁場へ移殖したほか、イトマキヒトデを主体としたとヒトデ類9,788個を駆除しています。その漁場の管理状況及び害敵生物の駆除具別採捕数は、別記表1のとおりです。

  平成5年11月10日、越冬前の潜水調査では、キタムラサキウニなどの植食性動物を少なくしたためか、短くなったホソメコンブが残っており、その基部に多数の放流アワビが群がっているところがあちこちにあり、その姿を水中ビデオカメラに収めています。このビデオを見ながら、青年部をはじめ地元漁業者らは、「長い間海の中を見てきたが、こんな光景は初めてだ。」と今後の取組みに益々意欲を燃やしています。

  なお、この漁場のウニ類を駆除したことにより海藻への食圧が軽減され、ひょっとしたらこの春には海藻の生育が見られるかも…。
(水産部漁放課水産業専門技術員)
    • 表1
 【追記】A漁協では最近も大掛かりな密漁事件があったばかりで、このため漁協名を伏せる事にしました。このように密漁のために増殖事業が妨害されるということは非常に残念なことと思っています。