水産研究本部

試験研究は今 No.185「石狩・後志におけるヒラメ放流技術開発について」(1994年5月27日)

石狩・後志におけるヒラメ放流技術開発について

図1 漁協別推定水揚げ尾数
 今回は、「石狩・後志管内水産試験研究地域プラザ」で発表されたヒラメ放流技術開発に関する話題をご紹介します。

  北海道では、昭和63年から石狩湾をモデル海域としてヒラメの放流技術開発事業を進めてきました。この事業では放流に最適な大きさを決めることを第一の目的として、サイズの異なる人工種苗ヒラメを余市沖に集中放流しました。放流後には桁網による追跡調査を実施し、放流後のサイズによる死亡率の違いや、天然での餌付きの状態などを検討しました。また、石狩支庁と後志支庁管内で漁協、市町村、水産技術普及指導所および水試職員によって市場調査を実施して、放流したヒラメの漁獲状況を調べてきました。

  昭和63年に実施した標識放流試験の結果によると、人工ヒラメは放流海域で多くが漁獲されましたが、一部のヒラメは南下する傾向が見られました。放流から1年以上経過したヒラメは、95パーセントが後志支庁管内から再捕されました。市場調査の結果から各漁協での水揚げ尾数を推定したところ、集中放流を実施している海域の余市郡漁協で最も多く、余市から離れるにつれて少なくなりました(図1)。
  平成元年には体長6センチメートルの群と8センチメートル群の胸びれをカットし、余市沖に放流しました。後志4漁協(小樽、余市、古平、美国)における市場調査の結果によると、推定回収率は6センチメートル放流群の3.2パーセントに対し、8センチメートル放流群では8.2パーセントとおよそ2.5倍の差が見られました。標識とした胸びれの再生率を10パーセントとし、後志管内の75パーセントが上記4漁協で水揚げされていると仮定して、後志海域全体での水揚げ尾数を推定したところ、6センチメートル放流群と8センチメートル放流群の後志全体での回収率はそれぞれ4.7パーセントおよび12.1パーセントと推定されました。一方、福島県では8センチメートルサイズと10センチメートルサイズの放流群の回収率が、それぞれ19.4パーセント、30.9パーセントと推定されています。
回収率は放流海域の捕食生物の出現状況や漁業形態の違い、種苗の状態などによっても変化するため、北海道の結果と単純に比べることはできませんが、福島県の回収率は北海道より高くなっています。福島県での8センチメートル放流群と10センチメートル放流群の回収率の差が1.6倍あることから、北海道での10センチメートル放流群の回収率も8センチメートル放流群の回収率(12.1パーセント)の1.6倍と仮定してみると、19.4パーセントという数字が得られます。これらを図示すると、6センチメートル、8センチメートル、10センチメートル放流群の回収率と放流全長との間には、比例関係が見られました(図2)。次に、ヒラメの中間育成施設において、放流種苗として出荷できる尾数というのは、魚体の面積に反比例すると考えて、全長別の回収率と生産可能尾数から推定水揚げ尾数を求めてみました。すると、全長9.4センチメートルで放流した場合に最大値が得られることがわかりました(図3)。とは言え、放流全長7.5センチメートルから12.5センチメートルまでの推定水揚げ尾数は、最大回収率が得られた全長9.4センチメートルの数値の約5パーセント以内にあり、大きな違いは見られませんでした。

  北海道では放流サイズを10センチメートル以上にしようとすると、水温などの育成条件から、中間育成施設を1シーズンに2回転利用することが難しくなります。このため、10センチメートルサイズ以下での放流が有効と考えられますが、これまでの研究結果から判断すると、8センチメートル程度まで中間育成し、施設を2サイクル活用するのが、現在のところ最も効率的であると考えられます。

放流効果を向上させるために
  1. 放流するヒラメは平均で約8センチメートル程度まで大きくする。
  2. 放流尾数を多くする工夫をする。
  3. 放流するときの活力がその後の生き残りを左右するので、できるだけ短時間で放流を済ませることができるよう、みんなで協力する。
*この文章は、プラザの講演要旨集をもとに再構成いたしました。(中央水試企画情報室)
    • 図2、3