水産研究本部

試験研究は今 No.198「活ヒラメを撮(はか)る」(1994年8月26日)

活ヒラメを撮(はか)る

  最近、天気予報の精度向上に「アメダス」という計測器が活躍していると聞きます。この装置自体は簡単なもののようですが、街角のあちこちに置かれておりその数とデータ収集の即時性によるところが大きいようです。水産の分野でも栽培漁業、資源管理型漁業等の推進には、対象資源の動態掌握が必須となります。それには、漁獲統計と共に魚の大きさや重量組成等の生物統計の記録が重要です。これらのデータ収集の現状は水産試験場や水産技術普及指導所を中心とした人手にたよっており、扱うデータ数は限られ、集計結果の取りまとめも半年~1年後といった状況で、「アメダス」ならぬ「ウオダス」の出現が望まれるところです。

  さて、今年から全長35センチメートル未満のヒラメ若齢魚の海中還元を柱とした資源管理計画が実施されることとなりました。これは資源管理型漁業推進対策事業を通じて、漁業者自らが策定したものです。同時に、その効果検討と更なる技術向上を目的とした、資源のモニタリング調査も開始されました。調査の主たる内容は、年齢別漁獲尾数推定の必要な漁獲物の全長測定と漁獲尾数の計数および体色異常を指標とした人工種苗の判別です。稚内水産試験場は宗谷と留萌管内の調査を分担することとなりました。

  さっそく関係漁業協同組合を回って水揚げ状況や市場での扱い方法等を調べると共に、調査への協力を依頼しました。調査の主体は漁業者とされていますが、留萌・宗谷管内ではヒラメ調査の実績も少なく、体制確立には時間が必要と思われます。漁獲量の多い天塩、遠別、初山別港ではほとんどが活魚で水揚げされており、これをどう扱うかが問題です。道南の例では最低でも3、4人の人手を要します。また、測定には時間がかかるため、水揚げされたヒラメの一部のデータしか得られない点も問題となります。これを解決するために考案されたのが、魚体をビデオ撮影して持ち帰り、モニター上で測定する方法です。

  撮影装置の概略は、写真に示す通りで、カメラアングルと距離を固定するために、魚を流す樋(とい)とビデオカメラをセットする部分が一体とされたものです。カメラアングルは樋に対して直角とし、撮影範囲中心の樋上に50センチメートルの竹尺2本が各々樋に平行および斜めに埋め込まれています。このスケールは、モニタ上から得られる計測データの補正に使用されます。樋の表面には魚体保護のため、キャンピングマットが敷かれ、その上に滑りを良くするため透明なビニール製のデーブルクロスが張られています。この装置の他に、魚体の流れを円滑にするため、樋の上部から水中ポンプを用いて水を流します。

  撮影方法は簡単で、蓄養水槽の前に撮影装置を設置し、荷受けされたヒラメを受け取って体色異常の有無を確認して樋上を流します。なお、撮影条件としてシャッター速度は高遠(1/1000秒)にします。日時、テープカウンターの記録と共に、水揚げ終了時に荷受け伝票から漁家別・銘柄別漁獲重量を音声入力します。

  この方法によると、1人で映像データの収集は可能です。しかも、水揚げに立ちあった全漁獲物のデータを得ることが出来ます。実際に遠別漁港で実施した例では、荷受け処理が毎分30個体前後の速さで進められ、40分前後の間に10漁家の全水揚げ約300個体のデータを収集することが出来ました。一方、同漁港で測定板を用いる従来の方法で測定した結果、15分間で約40個体しか測定出来ませんでした。

  さて、モニター上の計測ですが、現在はビデオテープをスローで再生し、ストップモーショシで物差しを用いて計測しており、かなりの時間を要しています。しかし、現場で1尾毎に流すことによりほとんどの個体が測定可能で、魚体が跳ねる場合も、高速シャッターを使用することにより、瞬間的に伸展した状態で計測が可能です。また、尾数の計数も容易です。なお、活魚は通常口を開いており、吻(ふん)端から尾鰭(びれ)末端を計測することになるため、下顎前端から計測する計測板を用いた結果と若干の相違が生じます。

  実際に同じ標本33個体を用いて、測定板を用いた測定結果と画像データから得られた結果の比較を行ってみました。その結果、ミリメートル単位では後者が平均で4ミリメートル前後小さく、両者の間に統計的に有意な差が認められました。しかし、センチメートル単位で比較すると、両者の間に有意な差はありませんでした。ヒラメの全長組成は1センチメートル単位で描かれており、この差は大きなものではないと判断されます。

  このように、ビデオカメラによる画像を用いた魚体測定方法により、水揚げ現場におけるデータ収集作業の省力化と迅速化がはかられ、容易に大量のデータを得ることが可能となりました。今後は、モニタ上の計測にコンピューターを導入することにより、更に効率化をはかる予定です。

  ここで紹介した方法は、ヒラメや活魚に限らず水揚げ現場での容易なデータ収集方法の一つとして、「ウオダス」の先駆体となればと期待しています。
(稚内水試資源管理部 宇藤 均)

    • 撮影装置の写真