水産研究本部

試験研究は今 No.199「魚の研究、to becontinued」(1994年9月2日)

魚の研究、to be continued

  水産孵化場では、職員の研鑽を目的に毎年、技術研修会を開いております。今年は、北大水産学部との共催「魚の研究、to be contimed」と題し、8月24日にポスターセッション形式で開催致しました。最初は「ここまできた魚の研究」の仮題で発表者を募ったのですが、なかなか課題が集まらず、結局、「まだまだ続く、魚の研究」となったわけです。

  初めての試みでしたが、北大の先生方の全面的バックアップを得ることができ、水産学部淡水増殖学講座・七重養魚実習施設・洞爺湖臨湖実験所、そして当場からと、22名の発表者が集まりました。

  今回は、テーマが「to be continued」ですから、評価の基準は研究の成果ではなく、プレゼンテーションに重きを置いた審査とし、優秀発表者には場長賞をだすことにしましたので、発表者は、それぞれポスターの意匠を競い、説明にも工夫を凝らしていたようです。

  大変好評で、来年からは定例化したいと双方の意見が合致しました。この企画に快く賛同してくださった北大水産学部の皆さんに感謝いたします。

  また、今回の講演要旨を当場の広報誌「魚と水」に掲載する予定です。今回は、その中の2題をご紹介しましょう。

網走湖産ワカサギ仔魚の消化管内容物と春季のプランクトン短期観測

【目的】
  仔魚の消化管内容物を研究する最大の目的は、仔魚が何を摂餌してどの様に成長して、そして生き残っていくのかという仔魚の栄養生態プロセスの解明である。しかし、これまでネット採集で得られた仔魚の消化管内容物に関する報告では、仔魚はネット採集時のストレスによって消化管内容物をたやすく排出してしまうことが示唆されている。本研究では、ネット採集によらない天然の網走湖水を用いた飼育実験によって仔魚の消化管内容物とこの期間のプランクトン分布の対応をまず明かにして、今後の研究につなげようとするものである。
【材料と方法】
  1994年5月26日に網走湖産ワカサギの孵化仔魚を100リットルの円形水槽に収容して6月14日まで流水式で飼育した。用いた飼育水は網走湖呼人漁港近くからポンプアップした湖水である。仔魚は5月30日、6月7日、6月13日にそれぞれ約10個体、水槽から静かにスポイトで採集された。そして、個体刑に10ミリリットルのバイアルビンに移して約0.1パーセントの中性フォルマリンで固定した後、万能投影機で体長の測定と生物顕微鏡(最高倍率200倍)で消化管内容物を観察した。また、1994年4月25日から6月28日までの間に17回、網走湖呼人漁港の一定点でNXX13(100ミクロン)とNXXX25(40ミクロン)のネットを同時に用いて裏面水20リットルを濾過して動物プランクトンをサイズ別に採集した。また、表面水のクロロフィルa量と水温も観測した。
【結果と考察】
  水槽から採集した仔魚の消化管内容物は主にワムシ類であり、5月30日にはKeratella cruciformisとその卵、6月7日にはK.cruciformisに加わりNotholca spp.、そして6月13日には前期2種に代わってBrachioms plicatilisとその卵が観察された。また、成長に伴って餌生物のサイズが大きくなることも確認された。網走湖で観測した動物プランクトンの個体数密度は1.0-103inds./lまで大きく変動し、そのピークはクロロフィル量のピークとほぼ一致して5月下旬に観察された。仔魚の消化管から観察されたワムシ類は網走湖でその時優占していた種と一致した。動物プランクトンの変動をサイズ別にみると5月下旬までは大型サイズ(>100ミクロン)と小型サイズ(40ミクロンから100ミクロン)がともに優占するが、ピークを過ぎた6月初旬には小型サイズは減少したのに対して大型サイズが増加した。このことは、成長にともなって餌サイズを大きくしていく仔魚にとって合理的にプランクトンが変動していたことを示唆するものであろう。また、仔魚が最も良く摂餌していたK.cruciformisの挙動を詳しく解析した結果、個体数密度ピーク時の低いeggratiO(卵数と個体数の比)と低い瞬間死亡率は、本種が利用可能な植物プランクトンの減少によるものであり、本種はワカサギ仔魚のよるトップダウンコントロールよりも植物プランクトンによるボトムアップコントロールで変動していると考えられた。
(北海道立水産孵化場、西網走漁業協同組合、網走市水産科学センター
浅見大樹、坂本博幸、川尻敏文、千田耕平、坂崎繁樹)

オホーツク海北部沿岸に来遊した秋サケの回遊経路からみた資源構造

【目的】
  北海道沿岸で漁獲される秋サケは漁獲地域周辺の資源集団(地場資源)以外に回遊時に通過する資源集団(先取り資源)とがあるが、その実態は殆ど明らかにはなっていない。また、回遊経路についても断片的な報告があるに過ぎない。本報告書は「秋さけ資源利用配分適正化事業」(水産庁委託)で比較的広範囲でかつ大量のデータが得られた浜頓別定置網放流群について回遊経路と資源構造を推定したものである。
【方法】
  標識放流に供したサケは1993年10月17日に浜頓別町斜内沖のさけ定置網(頓別さけ定第4号)で漁獲された258尾を用いた。標識は直径15ミリメートル、厚さ0.8ミリメートルの白色プラスチック製ディスクタグに「水産庁」並びに「14601?14861」までの番号を記入し、漁獲したサケの背鰭基部にビニール線で装着した。標識魚は覚酔後、定置網の500メートル沖に放流した。
【結果】
  読者の皆さんには一番、興味がおありになるところでしょうが、誌面の都合上、テーマに倣って、
「to be continued」
(北海道立水産孵化場 宮本真人、永田光博)