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林産試験場

グイマツ・グイマツ雑種F1

道産木材データベース


グイマツ・グイマツ雑種F1


グイマツ樹形

グイマツ
名称 和名:グイマツ
   別名:シコタンマツ,チシマカラマツ,カラフトマツ,カラフトカラマツ
   漢字表記:色丹松
英名 Kurile larch(広くはDahurian larch)
学名 Larix gmelinii var. japonica Pilger
分類 マツ科カラマツ属
分布 千島列島,サハリン

グイマツ雑種F1
名称 慣習名:グイマツ雑種F1,グイマツF1, グイマツ×カラマツ,
       (単に,エフワンと呼ぶこともある)

生態・形態
グイマツ
グイマツは北東アジアの亜寒帯に広く分布するダフリカカラマツの一変種とされ,千島列島南部(色丹島,択捉島),サハリン南部に自生している。今から約3万年~1万年前(最終氷期の後期)には,北海道から東北北部(一説に兵庫県)まで分布していたが,気候の温暖化にともない後退し,約8千年前には北海道から姿を消した。現在,北海道内で植栽されているグイマツは,千島列島,サハリンから導入されたものと思われる。グイマツの名称はアイヌ語起源との説があり,「グイ」はサハリンや沿海州地方の先住民に対する呼称とされる。
グイマツは上記のようにダフリカカラマツの一変種とされるが,木材流通では,主にロシアから輸入されるダフリカカラマツが「グイマツ」と称され扱われている。
グイマツの樹皮は暗灰色から黒褐色で,古くなると鱗(うろこ)状に割れ,はがれ落ちる。主枝は,太く,粗く,水平ぎみに出て,小枝はあまり垂れ下がらない。当年枝は赤褐色である。雌花の色は鮮紅色(カラマツでは薄緑色)で,球果は成熟すると茶褐色となる。種鱗の形は,先端部がカラマツのようには反り返らず,その数はカラマツの半分ほどである。葉の色は深緑でカラマツより濃い。黄葉の色も鮮やかで濃い。
北海道の中央部では,開葉期は4月末日前後で,カラマツより5日ほど早い。日長と気温の作用から伸長期間は短く,7月下旬から8月上旬には冬芽を形成する。黄葉・落葉期もカラマツより早い。
土壌を選ばず,耐寒性に富み,多雪にもよく耐え通直性などの良形質を失いにくいので,北海道北部の亜高山帯などでの造林や,治山事業地での緑化に用いられる。浅根性なので湿潤地においても植栽が可能だが,乾燥地では弱めとされる。ナラタケ菌のまんえん地帯も,根の大半がナラタケ菌に接触するので不利である。

左:グイマツ樹皮中央:グイマツ枝右:グイマツ葉


グイマツ雑種F1品種  「グリーム」(手前)グイマツ雑種F1品種「グリーム」(手前)

グイマツ雑種F1
一般に,雑種第一代をF1と言い,グイマツを母樹,カラマツを花粉親とした雑種の一代目を「グイマツ雑種F1」と呼んでいる。エゾヤチネズミの食害や先枯病の被害を受けやすいカラマツと,それらに対する抵抗性の大きいグイマツを掛け合わせ,新たな造林材料としたもの。他の病虫獣害を含めて,抵抗性の大きさは母樹のグイマツに近い。樹高成長が旺盛で,特に若齢期においてカラマツより優れる。肥大成長はカラマツ並み。幹は完満で,その通直性はグイマツ並みに高い。枝の張り方,葉色などの形態はグイマツとカラマツの中間的な様相である。
造林用の苗木は通常,グイマツとカラマツの混植採種園から自然受粉によるタネが採られ,苗木の段階でグイマツと雑種F1とに分別される。母樹と花粉親の組合せにより各種性質に差が出ることから,優良な組合せが選抜され,新品種として普及が図られている。道立林業試験場で開発した「グリーム」はその一例。造林では,病虫獣害による枯損が少ないことから,低密度の植栽が推奨される。
木材の性質
グイマツ
心材はカラマツよりもかなり赤みの少ない褐色,辺材は黄白色で狭い。カラマツ同様,早材と晩材とでは細胞の形態が大きく違い,年輪がはっきりしている。通常,早材幅が狭く(年輪幅が狭く,晩材の相対量が大きい),カラマツよりも高比重で硬い。圧縮と曲げ強度に優れ,日本で構造用とされる針葉樹材の中で最強ランクに入れられる。せん断強さはカラマツより少々劣るとの見方もある。樹脂分が多く,耐水性に優れる。カラマツ同様,心持ちでは乾燥の際に割れや反りが出ることがある。
グイマツ雑種F1
心材はグイマツとカラマツの中間的な赤みが少なめの褐色,辺材は黄白色。グイマツ,カラマツ同様,年輪がはっきりしている。比重,収縮率,強度,硬さなどは全般的にグイマツとカラマツの中間的な性質である。

左:グイマツ木口面中央:グイマツ板目面右:グイマツ柾目面


物理的・機械的・加工的性質

*上記の木材の性質に関する数値は,林産試験場報447号の「カラマツ類品種の材質(第3報)」からの引用です。同一試験林(林齢32年)におけるグイマツ,グイマツ雑種F1,カラマツを調査したものです。< >内はカラマツのデータで,(社)日本木材加工技術協会発行の「日本の木材」からの引用です。
木材の性質それぞれの意味については,「トドマツ」の項で説明しています。


主な用途
グイマツ
カラマツ同様,建築材,土木材,器具材,パルプ材,家具材,工芸用材などとして広く使われる。水中,土中で長くもつので土木用が多いと言われる。圧縮強度,曲げ強度が特に優れるので,林産試験場等により,同材質といえるダフリカカラマツを使って,高強度向け構造用集成材の外層ラミナとしての利用法が開発されている。なお,道内でのグイマツ人工林材の生産はごく少量で,前述したように,国内でグイマツとして流通する材の多くはロシア産のダフリカカラマツと見られる。樹形が良いので,公園樹,街路樹に利用される。
グイマツ雑種F1
植栽の歴史が浅く,ごく少量の間伐材が,カラマツ材に混ぜられ,梱包・輸送材やチップ材などの形で流通しているものと思われる。カラマツよりも強度性能が優れる上,幹の通直性や完満度の高さから製材歩留りの向上や長尺材の増量が見込まれるので,今後の用途の大きな広がりが期待される。

グイマツ・グイマツ雑種F1材の利用開発(林産試験場)

良材の柾目によるピアノ響板


引用(木材の性質に関する数値等)

・カラマツ類品種の材質(第3報):安久津久・滝沢忠昭・高橋政治・佐藤真由美 林産試験場報447号 1991
・日本の木材:(社)日本木材加工技術協会 1989

参考

・カラマツ造林学:浅田節夫・佐藤大七郎編著 農林出版株式会社 1981
・図説樹木学-針葉樹編-:矢頭献一 朝倉書店 1964
・日本の樹木種子 針葉樹編:林木育種協会 1981
・原色日本植物図鑑 木本編【II】:北村四郎・村田源 保育社 1979
・外材と道産材-材質による比較(針葉樹材):佐藤真由美 北海道立林産試験場「林産試だより1991年5月号」
http://www..hro.or.jp/list/forest/research/fpri/rsdayo/25257023001.pdf
・植える本数を減らしてみませんか グイマツ雑種F1の低密度植栽:北海道 2006