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イチイ

道産木材データベース


イチイ



名称 和名:イチイ
                 別名:オンコ,アララギ,シャクノキなど
                 アイヌ語名:クネニ,ララマニ
                 漢字表記:一位,水松
英名 Japanese yew
学名 Taxus cuspidata Sieb. et Zucc.
分類 イチイ科イチイ属
分布 日本(沖縄を除く),千島,サハリン,朝鮮半島,中国東北部,シベリア東部など

生態・形態
亜寒帯を中心に温帯まで分布する。耐寒性は強い。耐陰性が強く,暗い林内で他の樹種と混交することが多い。北海道では,東部の北見・釧路・根室地方によく見られ,通常,トドマツ,エゾマツ,ミズナラ,ダケカンバなどの中・下層に,単木あるいは小群状で生育する。上層の樹種が収穫されるなどして純林状態となった林分も各地に見られる。焼尻島の大きな群落は天然記念物に指定されよく知られる。雌雄異株だが,まれに雌雄同株や雌雄を転換したと思われる個体もある。長寿である。
高さ10m以上,太さ0.5~1mになる。樹皮は赤みの強い褐色で細めに浅く縦に裂ける(鹿の食害を受けやすい)。主枝は不規則に開きぎみに出る。伸長中の枝は緑色で滑らかである。葉は暗緑色で,その形は平たい線形で先がややとがる。葉は枝にらせん状に着生するが,側方に伸びる枝では葉の付け根部分をよじって2列羽状に並ぶように展開する。果実は丸く,直径7~8mm,熟すと多肉の仮種皮が赤くなる。果実の中の種子は1個で,一部が仮種皮から露出する。仮種皮は食べられる。



樹皮 枝ぶり 葉

 「一位」の名は仁徳天皇がこの木で高官の持つ正一位のしゃくを作らせたことによるらしい。現代でもしゃくはイチイで作られる。オンコの名は,東北・北海道の方言とされる。
変種キャラボク(var. nana,漢字表記:伽羅木)は,イチイより少し幅広の葉が輪生状に不規則に展開する。日本海側の多雪地に多い。樹高があまり高くならず,庭園向きとされる。なお,イチイとキャラボクの形状の違いに関して,それぞれに近似するものから中間形まで様々なタイプが見られる。品種キミノオンコ(f. luteo-baccata)は仮種皮が黄色。キャラボク,キミノオンコをイチイの生態型の一つとする見解もある。


木材の性質
心材はきれいな紅褐色,辺材は黄白色で,心材,辺材の境は鮮明。年数を経ると全体に色の深みが増す。木肌がなめらかで光沢がある。通常,年輪幅が狭く,材は緻密。針葉樹の中ではかなり堅い部類で強度も大きい。木理は通直。堅さの割には切削などの加工が容易で,板の反りや割れが少ない。耐久性が高い。


物理的・機械的・加工的性質

木口面 板目面 柾目面

木材の性質それぞれの意味については,[トドマツ」の項で説明しています。

民芸品


主な用途
材は床柱,欄間等の建築装飾材,彫刻,寄木細工等の民芸材,器具材,小型家具材などになる。鉛筆材としては最高級とされる。アイヌは特に弓の材料として用いた(「クネニ」は「弓になる木」の意)。過去,建築材や大型家具材も採れたが,素性の良いものが減っており,現在は彫刻,工芸品,クラフト,表札など小さくて高価なものに加工されることが多い。
代表的な庭園樹である。刈り込みに耐え,枝が密生するので生垣,盆栽に良い。葉付きの枝を神事に使う土地もある。

引用(木材の性質に関する数値等)

・日本の木材:(社)日本木材加工技術協会 1989

参考

・図説樹木学-針葉樹編-:矢頭献一 朝倉書店 1964
・原色日本植物図鑑 木本編【ll】:北村四郎・村田源 保育社 1979
・木の情報発信基地 世界の木材:中川木材株式会社http://www.wood.co.jp
・北海道樹木図鑑:佐藤孝夫 亜璃西社 1990
・樹の事典 美しい森と自然の素材:朝日新聞社 1984
・北海道の樹木:鮫島淳一郎 北海道新聞社 1986