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キタコブシ

道産木材データベース


キタコブシ



名称  和名:キタコブシ
    別名:エゾコブシ
    アイヌ語名:オマウクシニ(よい匂い?がする木)
    漢字表記:北辛夷(中国の「辛夷」はハクモクレンを指す)
    英名:Japanese magnolia,Thunberg's magnolia
学名  Magnolia kobus var. borealis Sarg.
分類  モクレン科モクレン属
分布  北海道・本州(中部以北)

生態・形態
山地や平野周縁部,沢沿いに生える落葉高木。他の樹種と混じって生育し純林は見かけられない。コブシの変種で葉や花が大型の北方タイプ。コブシの分布域が北海道~九州・朝鮮半島南部とされるのに対し,キタコブシは北海道と本州中部以北の日本海側とされる。
幹は直立し,高さ20m,太さ40cm以上になる。樹皮は灰色で平滑,徐々に細かな溝がたくさんでき老木になるとイボ状に隆起する。枝は太めで円すい形の樹冠となる。小枝はジグザグくねったように着く。冬芽は1枚の鱗片で被われ長い絹毛に包まれる。頂芽は紡錘形で長さ10~15mm,側芽は長卵形で小さく長さ約5mm。花芽は枝先に着き長卵形で先がとがり長さ20~25mm。葉は互生し,広倒卵形で幅広の先がやや急にとがり,長さ10~17cm,幅6~8cm,鋸歯は無い。
花は葉の展開前に咲く。花弁6枚からなり径10~12cm,淡紅色をおびた白色で香気がある。集合果はデコボコと形の良くないブドウのふさ状で長さ7~10cm,秋,朱色に熟し裂開する。仮種皮は朱~紅色。集合果がデコボコなのは受粉が不完全な場合で,雌しべの多くがタネにまで発達できなかったことによる。このデコボコした形がにぎり拳(こぶし)のようで「コブシ」の名になったとされる。

母種名のkobusは日本名のコブシから。変種名のborealis は「北方の」の意味。
桜に先駆けて咲くキタコブシは,花の咲きぐあいから夏期の天候や農作物の出来が占われるなど,待ちわびた春を喜ぶ北国の象徴ともいえる樹種である。

若木の樹形,樹皮,枝ぶり,花,果実


木材の性質
散孔材。緑がかった淡黄白色で心材・辺材の区別はあまり明かでない。年輪界は少々判別しづらい。軽軟,木理が通直,均質・緻密なことなど,ホオノキに類似した材質だが,通常,気乾比重がホオノキよりやや大きめで,ホオノキに比べ少し硬く,また刃切れが少し悪いとされる。

キタコブシ材の三断面


物理的性質・機械的性質・加工的性質に関する数値等
ホオノキに準じる。

主な用途
材の利用面では有用樹種とはされないが,材質のよく似たホオノキとほぼ同様に扱われ,玩具,漆器素地,家具,器具材,建築内装材などにされる。皮付きの小丸太が茶室の床柱などに利用される。
木炭はホオノキのもの同様,金,銀,銅の研磨用となる。つぼみは「辛夷(しんい)」とよばれる生薬になり頭痛・鼻疾患などに用いられる。樹木は公園・街路樹とされる。

参考

・原色日本植物図鑑 木本編【II】:北村四郎・村田源 保育社 1979
・図説樹木学-落葉広葉樹編-:矢頭献一・岩田利治 朝倉書店 1966
・落葉広葉樹図譜 冬の樹木学:四手井綱英・斎藤新一郎 共立出版(株) 1978
・知里真志保著作集 別巻I 分類アイヌ語辞典 植物編・動物編:知里真志保 平凡社 1976