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ヤマナラシ

道産木材データベース


ヤマナラシ


名称  和名:ヤマナラシ
    別名:ハコヤナギ
    アイヌ語名:ヌプクルンニnup(野の)-kurun-ni
          ヤイニyay-ni
          (ドロノキとの共通名)
    漢字表記:山鳴らし,箱柳
    英名:Japanese aspen
学名  Poplus sieboldii Miquel
分類  ヤナギ科ハコヤナギ属
分布  日本
若齢のヤマナラシ群落

生態・形態
山中の比較的乾燥した場所に先駆的に生え,しばしば大群落をつくる。根ぼう芽によっても増える。
幹は直立する。成長が旺盛で高さ25m太さ80cmになるとの記述もあるが,寿命が短く,通常,高さ15~20m太さ30~40cmで樹勢が衰える。樹皮は若いうち灰緑色で平滑,徐々に黄褐色となり下部から割れ目が入り黒ずむ。樹皮には灰褐色で菱形をした皮目が入り年々大きくなる。若枝には灰白色の軟毛が生えることが多い。冬芽は先がとがる。頂芽は側芽よりやや大きめで長さ10mm前後,三角錐状の卵形。側芽は紡錘形。
葉は互生する。葉はうすい革質で,上面(表面)が緑色,下面(裏面)が淡緑色。葉形は広卵形または扁円形で急に先がとがり,縁には波状の鋸歯がある。葉身長は7cm前後。若葉のうち下面に軟毛が生えることがある。葉の基部に蜜腺があるものが多い。葉柄は断面が左右方向につぶれた形状で長さは葉身長より短いのが普通。
雌雄異株。北海道では4~5月に開花する。雌雄とも10cm前後の尾状花序が垂れ下がる。雌花序は黄緑色,雄花序は紅紫色。果序は6~7月に成熟し,綿毛のついた小さな種子を散布させる。発芽能力は短期間に失われる。
北海道には,南千島,サハリンなどにも分布する近縁種のチョウセンヤマナラシ(P. tremula var. davidiana Schneider(P. jesoensis Nakai),葉の大きなものをエゾヤマナラシと呼ぶことあり)が生育する。ヤマナラシとの区別点は,若枝や葉には軟毛が無いか薄めであること,葉柄が葉長程度かそれ以上に長いこと,葉の基部に蜜線がないこと,などとされるがこれらの形質は連続変異を示すことから両者を区分するのは相当困難である。
ヤマナラシ(山鳴らし)の名は,葉柄が細長いので葉が風に揺れやすく,すれ合ってカサカサ音をたてることから。「箱柳」は,この材で箱を作ったことによる。

木材の性質
散孔材。辺材・心材の区別が無く,一様に淡黄白色である。軽軟で強度は弱い部類に入るが,同属のドロノキよりも比重が高めで,強度や粘り,釘の引き抜き抵抗力などが大きい。かんながけやロータリーレースによる切削などの加工性もドロノキよりも良い。ドロノキ同様腐朽が早い。



※上記の木材の性質に関する数値等は,(社)日本木材加工技術協会発行の「世界の有用木材300種 農林省林業試験場木材部編 1975」から引用しました。
木材の性質それぞれの意味については,「トドマツ」の項で説明しています。

主な用途
材が軟らかく,加工しやすいので箱などの細工物や器具材にされた。粘り強さからマッチ軸木として好まれ,割りばしにもよく使われた。マッチ軸木の輸出や割りばし生産が盛んな時代,北見地方からは,まとまった量が一年を通して出材された。
現在の用途はパルプが主体である。パルプ資源としては,天然木は小径木がほとんどで出材量も少ないが,成長が旺盛でさし木等による更新が図りやすいことから人工栽培のための優良品種が育成されている。また,おが粉はきのこ培地や小動物の敷料に利用され,反芻動物の飼料化についても目途が立っている。なお,北米ではアスペン(ヤマナラシ類)を薄片にして圧締成型したボード(OSB,構造用面材料)が生産されており,わが国への輸出も盛んである。

参考

・原色日本植物図鑑 木本編【II】:北村四郎・村田源 保育社 1979
・図説樹木学-落葉広葉樹編-:矢頭献一・岩田利治 朝倉書店 1966
・落葉広葉樹図譜 冬の樹木学:四手井綱英・斎藤新一郎 共立出版(株) 1978
・知里真志保著作集 別巻I 分類アイヌ語辞典 植物編・動物編:知里真志保 平凡社 1976
・外材と道産材-材質による比較(広葉樹・散孔材):佐藤真由美 北海道立林産試験場 林産試だより 1992年7月号
    http://www.hro.or.jp/list/forest/research/fpri/rsdayo/26153024001.pdf