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林業試験場

カシワマイマイ

カシワマイマイ

写真1 若齢幼虫。美唄、クリ、1989/6/14。

写真2 老齢幼虫、体長29mm。新得、ミズナラ、1990/6/27。

写真3 老齢幼虫。新得、クリ、2011/7/3。

写真4 成虫(左-雄、右-雌)。新得、2011/8/29。

写真5 照明に大量飛来した成虫。新得、2011/8/29午前8時23分。

写真6 鳥に食べられた雌成虫の残骸(翅と腹部が残る)。上川、2013/8/28。

写真7 照明近くの木の柱の隙間に産み付けられた卵塊と雌成虫。上川、2013/8/14。

写真8 照明の支柱表面に産み付けられた卵塊。産卵直後は淡黄色、やがて茶色になる。新得、2011/8/29。

写真9 樹皮の隙間に産み付けられた卵塊(白色の部分)と雌成虫。上川、2013/8/14。

被害の特徴
樹 種 ミズナラ、クリ、サクラなど広葉樹。
部 位 葉。
時 期 春~初夏(幼虫加害時期)。
状 態 葉が食べられる、なくなる。枝や葉上に幼虫がいる。被害木の下の地面に虫糞がある。
幼 虫 体長最大約7cm(写真1~3)。 小さなときは黒く、背中が2カ所でオレンジ色。大きくなると体は広く茶色、灰色、黒色。頭部の両側と尾端には長い毛束がある。背中に茶色~灰黒色のコブが2列に並ぶ。
ドクガ科の幼虫は腹部第6、7各節背面中央に小突起(背腺)がある。
蛹は淡い茶色、葉の間や枝に逆さにぶら下がる。
成虫 雌成虫は翅の長さが約4cm、雄は約2.5cm(写真4)。翅には黒く明瞭な波線がある。 雌は脚の先や後翅などピンク色の部分がある。照明に大量飛来することがある。
卵 塊 卵は淡黄色から茶色、塊で産み付けられ、白い鱗毛で薄く覆われる(写真7~9)。隙間にあることが多い。照明に飛来した雌成虫は照明の近くで産卵する。

和名  カシワマイマイ
別名 カシワケムシ

学名 命名者・年  Lymantria mathura aurora Butler, 1877 (文献2011)

分類  チョウ目(鱗翅目)Lepidoptera、ドクガ科Lymantriidae


形態  上記の通り。詳細は文献1965、1982、1987、2005、2007、2011など。

寄主  ブナ科(カシワ・ミズナラ・コナラ・アベマキ・アラカシ・イタジイ・クリ)、バラ科(リンゴ・サクラ・ナシ)、ニレ科(ケヤキ)、カエデ科(イロハモミジ・カエデ)など様々な広葉樹を食べる(文献1943、1994、2005、2007、2011)。

生態  年1回発生、卵越冬、幼虫は葉を食べる(文献1918、1943、1965、1994)。北海道の道央地域では5月上中旬に幼虫は卵から孵り、7月に蛹になり、8月に成虫が発生する。
 室内では、雌成虫の生存期間は4~7日である(文献2013b)。
 卵は主に枝や幹の隙間に多数まとめて産み付けられる;時には幹面に十数卵を産む(文献1918)。卵塊は雌成虫の体毛に覆われない(文献1918)、覆われる(文献1943、1965、2007)と報告により異なるが、上の写真で示したように薄く体毛に覆われる。
 春に孵化した幼虫は卵塊の付近にしばらく留まり、後に分散する(文献1918、1943)。風で容易に四散する(文献1918)。
 幼虫は葉を食べて成長し、幼虫が老熟する頃に食害量が急速に増える(文献1918)。幼虫は日中、葉の間や幹に静止している(文献1918、2007)。
 蛹は枝や葉の間に吐かれた糸に逆さまにぶら下がる;繭は作らない(文献1965)。

天敵  カシワマイマイ核多角体病ウイルスが知られている(文献2012)。

分布  北海道・本州・四国・九州;別亜種が奄美大島、沖縄島に分布;国内とは異なる亜種が東アジアや東南アジアに分布(文献2011)。

森林被害観察地域 (樹木害虫発生統計資料に基づく)

被害と防除  古くから害虫として知られている。青森県ではリンゴ園で大発生した例がある(文献1918)。
 北海道では森林被害は1976年に日高地方北部で観察された(文献1977)だけであるが、時々森林で発生が目立つことがある。当年植栽のミズナラ造林木が食害を受けた記録(文献1991)もある。いずれも被害は1年だけ報告された(樹木害虫発生統計資料参照)。
 食害により樹木の成長は阻害されるが、枯死することはない(文献1943)。森林では普通、防除は必要ないと考えられる。
 庭木に多く発生することがある(文献2013a)。幼虫を見つけて、取り除く。成長した幼虫では毒性は報告されていないが、毛が刺さるのでゴム手袋をする。バケツに水と洗剤を入れ、そこに幼虫を入れて溺死させる。また、樹木類のケムシ類に適用できる農薬が各種市販されている。
 成虫は水銀灯などの照明に集まり(文献1958、2013a)、その周辺に産卵する。成虫の大量飛来を防ぐには照明を誘虫性の低いLED灯などへの交換するのが最も確実と考えられる。ただし、交換しなかった照明に集中することに注意する必要がある。また、翌年春の孵化幼虫の被害を防ぐために、照明近くに産み付けられた卵の除去を行う。卵は壁などの隙間や照明近くの街路樹幹の樹皮の隙間に多く見られる。
 孵化幼虫は風で容易に四散し(文献1918)、マイマイガの孵化幼虫の毒毛と同様の毛を持つ(文献2007参照)。このため、物品に混入したり、室内に侵入したりする可能性が高く、また、皮膚炎の原因になることが考えられる。孵化幼虫は5月に出現するので、この時期は網戸をする。また、体長5mmほどの毛虫を室内で見つけた場合は、つぶさないようガムテープに貼り付け取り除く。体に付着した場合はつぶさないよう息で吹き飛ばすなどして取り除く。


文献
[1918] 西谷順一郎, 1918. 本年靑森縣の苹果に大発生せるカシハケムシに就て. 昆虫世界, 22: 366-372.(被害、生態、形態、防除)
[1943] 松下眞幸, 1943. 森林害蟲學. 410pp. 冨山房, 東京. (形態、生態、被害、防除)
[1958] 江崎悌三ほか, 1958. 原色日本蛾類図鑑(下): I-V, 1-303, pls 65-136. 保育社, 大阪.
[1965] 一色周知(監修), 1965. 原色日本蛾類幼虫図鑑(上): 1-238, pls 1-60. 保育社, 大阪.
[1977a] 小林富士雄, 1977. 緑化樹木の病害虫(下)害虫とその防除. 290pp. 日本林業技術協会, 東京.
[1977b] 山口博昭・小泉力, 1977. 昭和51年度に発生した森林害虫. 北方林業, 29: 160-164.
[1982] 井上寛ほか, 1982. 日本産蛾類大図鑑. Vol. 1: 1-968; Vol. 2: 1-556, pls 1-392. 講談社, 東京.
[1987] 杉敏郎(編集), 1987. 日本産蛾類生態図鑑: 1-453, pls 1-120. 講談社, 東京.
[1991] 小泉力・前藤薫・東浦康友・原秀穂, 1991. 平成2年度に北海道で発生した森林昆虫. 北方林業, 43: 155-161.
[1994] 小泉力, 1994. カシワマイマイ. 小林富士雄・竹谷昭彦(編集), 森林昆虫, 総論・各論: 283-284. 養賢堂, 東京. (形態、生態、防除)
[2005] 青木典司ほか, 2005. 日本産幼虫図鑑. 学習研究社, 東京.
[2007] Pogue, M. G. and Schaefer, P. W., 2007. A review of selected species of Lymantria Hubner [1819] (Lepidoptera: Noctuidae: Lymantriinae) from subtropical and temperate regions of Asia, including the descriptions of three new species, some potentially invasive to North America. 223 pp. Forest Health Technology Enterprise Team Technology Transfer, USA.
[2011] 岸田泰則, 2011. ドクガ科Lymantriidae. pp. 139-147. 岸田泰則(編)日本産蛾類標準図鑑2. 416 pp. 学研教育出版, 東京.
[2012] 島津光明・国見裕久・東浦康友・原秀穂・軸丸祥大・亀井幹夫・高務淳, 2012. ハイリスク港指定解除に向けたマイマイガ密度管理方法の開発. 森林防疫, 61: 19-26.
[2013a] 佐山勝彦・尾崎研一・原秀穂・小野寺賢介, 2013. 2011年に北海道で発生した森林昆虫. 北方林業, 65: 117-121.
[2013b] 岩泉連・有本誠, 2013. カシワマイマイ成虫の日周行動に関する知見. 植物防疫所調査研究報告, (49): 11-18.

2014/4/2