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林業試験場

マツカレハ

マツカレハ

写真1 老齢幼虫(中央)と繭(上)。美唄、レジノーサマツ。1985/7。

写真2 老齢幼虫。写真1と同じ個体群。

写真3 レジノーサマツの被害。写真1の個体群による。1985/7。

写真4 中齢幼虫、樹皮下で越冬中(樹皮をはがして撮影)。美唄、ヨーロッパアカマツ。2005/11/2。

被害の特徴
樹 種 マツ属(アカマツ、クロマツなど)。
部 位 葉。
時 期 5~6月、8~9月(幼虫加害時期)。春の被害が激しい。
状 態 葉がなくなる。毛虫(幼虫)がいる。林床に虫糞がある。
幼 虫 体長最大約8cm(写真1)。胸部第2・3節の背面に黒藍色の短毛を密生する。この毛には毒があるので注意!!
注) ツガカレハに極めて良く似ている。ツガカレハは主にトドマツやエゾマツに多発する。

和名  マツカレハ

学名  Dendrolimus spectabilis

分類  チョウ目(鱗翅目)Lepidoptera、カレハガ科Lasiocampidae


寄主  マツ属(アカマツ・クロマツなど)、カラマツ属(文献1943)。特にアカマツを好み、餌が欠乏した場合はモミ・ツガ・トウヒも多少食べる(文献1943)。

生態  生活環は下表のとおり(文献1985を一部改変)。年1回発生、幼虫越冬;雌成虫は卵を針葉上、ときに枝や樹皮上に不規則な塊状で産む;産卵数は1雌あたり200~700個;卵期間は5~7日;孵化直後の幼虫は集団で針葉を食べるが、暫時、糸を吐いて懸垂して分散する;成長した幼虫は針葉を先端から食べ始め、基部まで食べる;多くは10月下旬までに4回脱皮し、体長21mm程度になる;10月下旬から11月上旬頃に幹を降りて、根際の隙間、落葉・苔等の下にもぐって越冬する;翌年4月頃から樹上に上り針葉を食べて8齢となり、6月下旬から繭を作り蛹になる;繭は針葉を数本集めた中に作るのが普通であるが、枝や樹幹上に作ることもある;蛹は17日程度で羽化する;幼虫は主に夜間に摂食する;物に驚くと頭胸部を持ち上げる習性がある;成虫は光に集まる(文献1943)。

 発育ステージ ~3月   4    5    6    7    8    9   10   11~
 幼虫(休眠・越冬) ◇◇◇ ◇◇◇                      ◇◇ ◇◇◇
 幼虫(摂食・成長)       ◆ ◆◆◆ ◆◆◆                    
 蛹              ++ +++                
 成虫・卵                 ◎◎◎ ◎◎             
 幼虫(摂食・成長)                     ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆     

分布  北海道南部・本州・四国・九州、朝鮮半島、シベリア東部、中国北部(文献1943)。
 近年は空知・上川地方などでも発生している。

被害観察地域 (樹木害虫発生統計資料に基づく)

被害  大面積の森林を枯死させることがある;春の被害が大きい;樹齢10年くらいまでは食害で枯死することが多いが、壮年以上では食害により発育が著しく阻害されるが、枯死することは少ない;密植された森林は疎林に比べ被害が大きい;被害は一般に乾燥した平地や丘陵地に多い;地被物の多い森林ほど被害が多い(文献1943)。
 道内での発生は多くなく、庭園でしばしば発生する(文献1985)といわれていたが、1985年に外国産マツの人工林で大発生した(文献1987など)。
 カラマツの害虫とする報告(文献1928)もあるが、被害記録はないようである。

防除  大面積の単純林を避け、落葉樹との混交林を造成することが被害予防の上で最も重要である;林木の健全な発育を図る;根際の地被物をできるだけ除去する;越冬幼虫が春に活動する前あるいは秋に越冬のため下降する前に幹にフィルムを巻きつけ幼虫の登り降りを遮断し、フィルム付近を彷徨する幼虫を捕殺する;9月中旬頃に根際付近にワラを巻き、越冬のために集まった幼虫を初冬の頃にワラとともに集めて焼却する;卵・幼虫・蛹を捕殺する(文献1943)。
 街路樹などでは秋に幹にむしろを巻いて予防する。むしろの中に幼虫が越冬のため集まる。冬の間(11~3月)にむしろを集めて処分する。体毛が皮膚に刺さることがあるので、ゴム手袋をすること。また、むしろをはずしたときに幹の方にも幼虫がついている場合があるのでピンセットなどで取り除くかつぶす。


文献
[1928] 相沢保, 1928. 落葉松林の被害と其防除法に就て. 北海道林業會報, 26(8): 512-526.(マツカレハ・ツガカレハをカラマツ害虫として記録、生態等に関する記述はどちらの種かはっきりしない)
[1943] 松下眞幸, 1943. 森林害蟲學. 410pp. 冨山房, 東京. (形態、生態、被害、防除、過去の文献;なお、上記引用部分の出典は確認していない)
[1985] 林康夫・吉田成章・小泉力・高井正利・秋田米治・福山研二・前田満・柴田義春・中津篤・田中潔・遠藤克昭・松崎清一・佐々木克彦, 1985. 北海道樹木病害虫獣図鑑. 223pp. 北方林業会, 札幌. (北海道での生態、カラー写真)
[1987] 吉田成章(北海道森林昆虫談話会), 1987a. 昭和60年度・北海道に発生した森林害虫. 北方林業, 39: 106-110.

2011/3/31