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林業試験場

ツガカレハ

ツガカレハ

写真1 中齢幼虫。1970年代。

写真2 老齢幼虫、1980/6。

写真3 ビニールテープ巻きによる駆除。北見、1976/5。

写真4 繭。北見市、1976/8。

被害の特徴
樹 種 トドマツなどモミ属、エゾマツ・トウヒなどトウヒ属、ほか針葉樹。
部 位 葉。
時 期 秋と6~7月。特に6~7月。
状 態 葉がなくなる。毛虫(幼虫)や繭がみられる。
幼虫 体長最大約90mm。胸腹部は灰白色から淡い黄褐色、背中の前の方(胸部第2・3節)に黒藍色の短毛がまとまって生える部分が2カ所ある。また、胸腹部の側面の下方に白色の長毛が密生する。
長楕円形、灰褐色。表面のところどころに黒藍色の毛が付着する。
注) マツカレハに極めて良く似ている。マツカレハはマツ属で多発する。

和名  ツガカレハ
別名 ツガケムシ、カラフトマツカレハ、エゾマツカレハ、シベリアマツカレハ(文献1943参照)

学名 命名者  Dendrolimus superans Butler

分類  チョウ目(鱗翅目)Lepidoptera、カレハガ科Lasiocampidae


形態  卵は青緑色、楕円形、長径約2mm(文献1943)。幼虫や繭は上述のとおり(文献1943)。

寄主  モミ属:トドマツ・モミ(文献1943、1994)。ツガ(文献1943、1994)。トウヒ属:エゾマツ・トウヒ(文献1943、1994)、アカエゾマツ(文献1985)、ドイツトウヒ(文献1994)。カラマツ属:カラマツ・グイマツ(文献1943、1994)。ヒマラヤスギ(文献1994)。マツ属:アカマツ・クロマツ(文献1943、1994)。

生態  生活環は下表のとおり(文献1985を一部改変)。年1世代、一部は2年で1世代となるため、成虫の羽化時期は大きく6~7月と8~9月に分かれるが連続する;成虫は羽化後、すぐ交尾・産卵する(文献1994)。卵は針葉上にまとめて産みつけられる;1雌の産卵数は数百個(文献1943)。卵は20~30個ずつ分けて産まれる(文献1994)。卵は1~2週間で孵化;幼虫は針葉を食べ生長し、晩秋に落葉等の間、倒木の下、根株の隙間などに潜入して越冬する(文献1943)。大発生の際は越冬幼虫は4齢に集中するが、通常の密度では2~3齢が多く、他の齢も多い(文献1994)。翌春、融雪後に樹上に登り、針葉を食べる(文献1943)。幼虫は6~7齢で終齢になる(文献1994)。繭は針葉や枝上に作られるが、まれに幹上に作られる(文献1943)。蛹は20~30日で羽化する(文献1994)。
 幼虫は驚くと胸部を高く上げ黒藍色の毛が生ずる部分を広げる;この毛に触れると炎症を起こす(文献1943)。
 天敵として鳥類、寄生蜂類、病原菌各種などが知られている(文献1943、1994)。大発生の際には核多核体病ウィルスによって死亡したものが多かった(文献1994)。

 発育ステージ ~3月   4    5    6    7    8    9   10   11~
 幼虫(休眠・越冬) ◇◇◇ ◇◇                       ◇◇ ◇◇◇
 幼虫(摂食・成長)     ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆                  
 蛹               + +++                
 成虫・卵                 ◎◎◎ ◎◎             
 幼虫(摂食・成長)                   ◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆     

分布  北海道・本州・四国・九州、千島、サハリン、朝鮮半島、シベリア(文献1943)。

被害観察地域 (樹木害虫発生統計資料に基づく)

被害  ときに大発生する;食害により生長が害され、激しい時は枯死する(文献1943)。北海道ではトドマツ、本州以南ではモミやヒマラヤスギで被害がある(文献1994)。北海道での大発生はほぼ10年周期に繰り返され、マイマイガと同調する傾向がある(文献1977a)とされるが、近年はそのような傾向は見られない。また、従来、道内での被害は網走東部地方の山地に限られていたが、近年は道東の低地のトドマツ林で被害が観察されている。多発した場合、秋から食害が目立ち、翌春に激しい食害が起きるのが普通である。ときに秋の内から林が丸坊主になることもある。
 幼虫の胸部の黒藍色の毛に触れると炎症を起こす(文献1943)。
 カラマツの害虫とする報告(文献1928)もあるが、被害はごく少ない。なお、アカマツやクロマツではよく似たマツカレハが多発することがある。

防除  秋に幼虫の食害が目立つようなら、幹にすべりやすい幅広いビニールテープなどを隙間のないように巻く(写真3);春に登ってくる幼虫はすべって木に登れない(文献1994)。ササなど下草より高い位置に巻くこと。また、林内のトドマツに隣接する他の樹木にも巻く。


文献
[1928] 相沢保, 1928. 落葉松林の被害と其防除法に就て. 北海道林業會報, 26(8): 512-526.(マツカレハ・ツガカレハをカラマツ害虫として記録、生態等に関する記述はどちらのものかあいまい)
[1943] 松下眞幸, 1943. 森林害蟲學. 410pp. 冨山房, 東京. (形態、生態、被害、防除、過去の文献;なお、上記引用部分の出典は確認していない)
[1977a] 上条一昭, 1977. 北海道北見地方におけるツガカレハの大発生, Ⅱ. 北海道および旧樺太における大発生の歴史. 森林防疫, 26: 137-138.
[1977b] 東浦康友, 1977. 北海道北見地方におけるツガカレハの大発生, Ⅳ. 防除基準. 森林防疫, 26: 141-142.
[1977c] 小泉力・東浦康友, 1977. 北海道北見地方におけるツガカレハの大発生, Ⅵ. 越冬幼虫の齢期. 森林防疫, 26: 163.
[1977d] 東浦康友, 1977. 北海道北見地方におけるツガカレハの大発生, Ⅶ. 個体数の推移と被害. 森林防疫, 26: 195-197.
[1977e] 上条一昭, 1977. 北海道北見地方におけるツガカレハの大発生, Ⅷ. 寄生性昆虫. 森林防疫, 26: 198-199.
[1985] 林康夫・吉田成章・小泉力・高井正利・秋田米治・福山研二・前田満・柴田義春・中津篤・田中潔・遠藤克昭・松崎清一・佐々木克彦, 1985. 北海道樹木病害虫獣図鑑. 223pp. 北方林業会, 札幌. (北海道での生態、カラー写真)
[1994] 福山研二, 1994. ツガカレハ. 小林富士雄・竹谷昭彦(編), 森林昆虫, 総論・各論: 269-273. 養賢堂, 東京.

2011/3/31