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林業試験場

ミスジツマキリエダシャク

ミスジツマキリエダシャク

写真1 幼虫、中齢。北見、カラマツ上、1990/7/30。

写真2 幼虫、終齢。端野、カラマツ上、1990/8/13。

写真3 カラマツの被害。端野町、1990/8/21。

写真4 雌成虫。美幌町産、室内、2010/6/1。

写真5 卵。北見市、カラマツ上、1990/7/6。

写真6 蛹。美幌町、2009/5/19。

被害の特徴
樹 種 カラマツ、ごくまれに他の針葉樹。
部 位 葉。
時 期 7~8月。
状 態 葉が食べられる、なくなる。枝や葉上に幼虫がいる。被害木の下の地面に虫糞がある。
幼虫 体長最大約40mm(写真1~2)。頭部は褐色、胸腹部は黄緑色で、濃褐色の線がある。
シャクガ科の多くでは腹脚は腹端近くの2対のみ。

和名  ミスジツマキリエダシャク(文献1912)

学名 命名者  Zethenia rufescentaria Motschulsky

分類  チョウ目(鱗翅目)Lepidoptera、シャクガ科Geometridae


形態  成虫の翅の開張は30~35mm(文献1912)。  成虫の翅の開張は40~45mm;前翅は淡灰褐色または暗褐色で、3本の濃色の横線を有し、更に中央部に1横線を有することもある;後翅は灰白色(文献1943)。
 幼虫は体長30mm内外、頭部は黄褐色、単眼は黒色、胸腹部は緑色を帯びた黄褐色、暗褐色の縦線が複数あり、全体に微顆粒を散布し、暗色の短毛を生ずる(文献1912)。  幼虫は体長最大40mm;頭部は褐色、胸腹部は黄緑色で、背線・亜背線・側線は太い濃褐色(文献1943)。
 蛹は長さ12~14mm、褐色から黄褐色、頭は丸く紡錘形で、尾端は針状に尖る。

寄主  カラマツ・マツ(文献1943)、スギ(文献1912・1943)。

生態  年1回発生、幼虫は9~10月に葉を食害し、10月中旬以降に地中に入り蛹となる(文献1912)。
 年1回発生、蛹で越冬(文献1943)。成虫は5~6月頃から発生する(文献1943)。成虫は光に集まる(文献1943)。スギなどでは卵は葉に産卵され、幼虫は7月頃から孵化し10月下旬頃に老熟する(文献1943)。カラマツでは卵は葉の付け根付近の芽鱗の隙間に1個ずつ産み付けられ、幼虫は6月下旬~8月中旬に発生する。老熟した幼虫は土中に入り、蛹になる(文献1943)。カラマツ林では落葉下部から土の浅い所で蛹になる。年2回発生という記録もあるが(文献1943)、確認を要する。

 発育ステージ ~3月   4    5    6    7    8    9   10   11~
 成虫・卵           ‥ ◎◎◎ ‥                  
 幼虫(摂食・成長)               ‥ ◆◆◆ ◆◆‥            
 蛹 +++ +++ +++ ‥        ‥+ +++ +++ +++

天敵  大発生の主な終息要因として幼虫期における昆虫疫病菌の1種の流行が観察されている;局所的には餓死や小哺乳類の捕食などで低密度化することもある(文献1995)。


写真7 昆虫疫病菌に冒され死亡した幼虫。美幌町、カラマツ上、1991/7/6。

写真8 カラマツ林内に植え込まれたトドマツの被害。美幌町、1991/7。

分布  北海道・本州・九州、ロシア東部、朝鮮半島、中国東北部(文献1943)。

被害観察地域 (樹木害虫発生統計資料に基づく)

被害  常緑針葉樹であるスギでは老齢木に発生することが多く、食害により成長が阻害され、発生の多い場合は被害木は枯死する(文献1943)。本州では明治44年(1911年)に秋田県で被害が発生し(文献1912)、大発生の原因は鉱山の煙害と関係するようである(文献1943)。
 北海道では1970年代に初めて被害が記録された。それ以来、ときどき被害が発生している。1990年と2000年にはそれぞれ約5000haと大発生した。被害は従来1~4年で終息している。過去の被害では多くの木が枯れた記録があるが、最近の被害では枯死本数率は数%程度にすぎない。通常であれば食害の2~3週間後には新葉を再生し回復に向かう。食害の翌年は葉量低下や枝枯れが認められることがある。
 被害木は、カラマツヤツバキクイムシの二次被害により枯れることがある。食害による枯死や枝枯れは間伐遅れの林分で多い(文献1992b)。
 カラマツ複層林で多発した場合は、ときに林内に植裁したトドマツやアカエゾマツも食害を受ける(文献1993)。常緑針葉樹は食害後に葉を再生できないため、失葉率が高いと枯れる。


文献
[1912] 長野菊次郎, 1912. ミスジツマキリエダシャク(Zethenia consociaria Christoph)に就きて. 昆虫世界, 16 (173): 6-9. (形態、生態)
[1943] 松下眞幸, 1943. 森林害蟲學. 410pp. 冨山房, 東京. (形態、生態、被害、防除、過去の文献;なお、上記引用部分の出典は確認していない)
[1985] 林康夫・吉田成章・小泉力・高井正利・秋田米治・福山研二・前田満・柴田義春・中津篤・田中潔・遠藤克昭・松崎清一・佐々木克彦, 1985. 北海道樹木病害虫獣図鑑. 223pp. 北方林業会, 札幌. (北海道での生態、カラー写真)
[1986] 宮津直倫・鈴木重孝, 1986. ミスジツマキリエダシヤクの生態と防除. 北方林業, 38: 145-148. (幼虫の摂食量など)
[1987] 杉敏郎(編集), 1987. 日本産蛾類生態図鑑: 1-453, pls 1-120. 講談社, 東京.
[1991] 奥村日出雄・春日井彰敏・山田裕也・原秀穂, 1991. 北見地方におけるミスジツマキリエダシャクの被害状況について(II). 平成2年北海道林業技術研究発表大会論文集: 120-122. (枝枯れや枯損状況)
[1991] 柴田嘉博・東浦康友, 1991. ミスジツマキリエダシャクの羽化時期と産卵習性. 森林防疫, 474: 2-7.
[1992a] 原秀穂, 1992. ミスジツマキリエダシャクの生活史と食害の特徴. 光珠内季報, 87: 11-16.
[1992b] 奥村日出雄, 原秀穂, 1992. 北見地方におけるミスジツマキリエダシャクの発生と林分被害. 北方林業, 44: 261-264. (被害と立木や林分状況との関係)
[1993] 原秀穂, 1993. カラマツ林に植栽されたトドマツやトウヒ類に対するミスジツマキリエダシャクの加害. 森林防疫, 499: 15-17.
[1995] 原秀 穂・東浦康友, 1995. カラマツの食葉性害虫ミスジツマキリエダシャクの大発生の終息要因. 日本応用動物昆虫学会誌, 39: 15-23. (天敵、終息要因)

2009/2/6