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林業試験場

マツノゴマダラノメイガ

マツノゴマダラノメイガ

写真1 モンタナマツの被害。函館、2008/7/17。

写真2 幼虫の巣。写真1の拡大。

写真3 古い幼虫の巣。

写真4 老熟幼虫。写真2の巣内。(蛹化が近いため黄色?。)

写真5 老熟幼虫。写真4と同一個体。

写真6 雄成虫。写真1の個体群を飼育。

被害の特徴
樹 種 ゴヨウマツ、トドマツなどマツ科の針葉樹、スギ。
部 位 葉、スギでは葉と球果。
時 期 春から夏(幼虫の食害が目立つ時期)。
状 態 葉が枯れる、食べられる(写真1~3)。枝に糸でつづられた虫糞の塊があり(写真2)、中に幼虫、蛹、蛹殻がみられる。
スギでは球果や葉が糸でつづられる。
幼 虫 体長最大約25mm(写真4~5)。腹脚は5対。
やや暗い紅色から黄色で、頭部と前胸背面は暗褐色、胸腹部の各節には褐色の比較的大きな斑紋がある。
繭・蛹 繭は灰白色、外部に虫糞や葉片が付着する。中に蛹がいる。
蛹は体長13~15mm、褐色で背面濃色。

 北海道は長い間、分布域に含まれていなかった(文献1982など参照)。北海道では1977年に温室内のゴヨウマツの盆栽で発生したが、この盆栽は本州から持ち込まれたことから、盆栽に付着してきたものと推定された(文献1984)。しかし、1989年以降道南地方で採集されるようになった(文献2006b参照)。国内外来種の可能性が高い。


和名  マツノゴマダラノメイガ(文献1982)
別名 モモノゴマダラノメイガ針葉樹型(文献2008)

学名 命名者・年  Conogethes pinicolalis Inoue and Yamanaka, 2006

分類  チョウ目(鱗翅目)Lepidoptera、ツトガ科Crambidae


形態  成虫は体長11~13mm、翅の開張約25mm内外、全体橙黄色、小黒点を散在する(文献1977)。 卵は楕円形、産卵当初は乳白色、次いで紅色を帯びる(文献1953);長さ約0.6mm(文献1977)。 老熟幼虫は体長約25mm、全体暗赤色で、頭部と前胸硬皮板は黒褐色、胸腹部には褐色の斑点がある(文献1977)。 蛹は体長13~15mm、褐色で背面濃色、繭の中にある;繭は灰白色、外部に虫糞や葉片を付ける(文献1953)。
 モモノゴマダラノメイガにきわめて良く似る。成虫の区別点については文献1982・2006bなど、幼虫や蛹の区別点については文献1989に詳述されている。

寄主  マツ科。モミ・トウヒ・カラマツ・ヒマラヤスギ(ヒマラヤシーダー・インドスギ)・アトラスシーダー・レバノンシーダー・クロマツ・ゴヨウマツ(文献1953)、トドマツ・ツガ・アカマツ・ストローブマツ(文献1971)、チョウセンゴヨウ(文献2008)。スギ(文献1994b)。これら樹木の葉、スギでは葉と球果(文献1994a・b)。
 スギではモモノゴマダラノメイガも球果を食べるが、球果に潜って食害し、葉を食べない点で区別できる(文献1994b)。

生態  本州では成虫が6月中旬~7月上旬と8月中旬~9月下旬の2回発生する(文献1969)。卵は葉の根元に数卵ずつ産みつけられる(文献1971)。孵化幼虫は針葉内に食入して発育し、3齢から外に出て葉を糸で綴り合せて摂食する(文献1969)。幼虫は長大なトンネル状の巣を作り、その中を移動する(文献1959)。6齢幼虫で老熟し、葉や虫糞を綴った中で繭を作って蛹になる;主に4齢幼虫で越冬する(文献1971)。北海道では成虫が7月下旬から8月下旬に採集されている(文献2006b参照)。写真の個体群は7月中旬に老熟幼虫で採集したもので、飼育したところ7月下旬に成虫が羽化した。
 モミに発生するものは成虫が年1回7月上旬~下旬に発生し、産卵は葉裏に1個ずつ行われるなど(文献1953)生態が大きく異なる。

分布  北海道(文献2006b)。本州・四国・九州・奄美大島・沖縄本島・西表島、台湾(文献1982)。

発生観察地域 (文献2006b及び上の写真個体採集データ)

被害  通常は少なく、美観を損ねる程度であるが、時に多発する;ゴヨウマツの被害が最も大きい(文献2003a、2003b)。本州のモミ林で大発生し、木を枯らした記録(文献1953)もある。北海道では道南に分布するが、2010年現在まで被害が問題になったことはないようである。

防除  幼虫の巣を取り除く、夜間照明で成虫を集めて捕殺する(文献1953)。薬剤で防除する場合は幼虫が小さな時に薬剤を散布する(文献1994a、2008)。


文献
[1953] 加邊正明, 1953. モミを加害するモモゴマダラノメイガの研究. 林業試験場研究報告, 60: 71-80. (モミ林における被害、形態、生態、防除)
[1959] 河田黨(著者代表), 1959. 日本幼虫図鑑. 712pp. 北隆館, 東京.
[1969] 真梶徳純, 1969. モモノゴマダラノメイガに関する研究I. 園芸試験場報告, A8: 155-208.
[1971] 真梶徳純, 1971. モモノゴマダラノメイガの2型とその生態. 植物防疫, 25: 235-240. (生態)
[1974] 関口計主, 1974. モモノゴマダラノメイガの形態、生態および防除に関する研究. 茨城県園芸試験場研究報告(特別報告): 1-90.
[1977] 奥野孝夫・田中寛・木村裕, 1977. 原色樹木病害虫図鑑: I-VIII, 1-365, pls 1-64. 保育社, 大阪.
[1982] 井上寛, 1982. メイガ科. 井上寛ほか, 日本産蛾類大図鑑, 1: 307-404, 2: 223-254, pls 36-48, 298-314. 講談社, 東京. (成虫の形態、分布)
[1984] 鈴木重孝・駒井古実, 1984. 北海道における針葉樹を摂食する小蛾類. 北海道林業試験場報告, 22: 85-129. (北海道温室での発生記録)
[1989] Honda, H., and W. Mitsuhashi, 1989. Morphological and morphometrical differences between the fruit- and Pinaceae-feeding type of yellow peach moth, Conogethes punctiferalis (Guenee) (Lepidoptera: Pyralidae). Applied Entomology and Zoology, 24: 1-10. (形態)
[1994a] 山崎三郎, 1994. マツノゴマダラノメイガ. 小林富士雄・竹谷昭彦(編), 森林昆虫, 総論・各論: 314-315. (形態、生態、防除に関する研究のまとめ)
[1994b] 山崎三郎, 1994. モモノゴマダラノメイガ(球果穿入型). 小林富士雄・竹谷昭彦(編), 森林昆虫, 総論・各論: 485-486. (生態、防除)
[2003a] 上住泰, 2003. マツノゴマダラノメイガ. 梅谷献二・岡田利承(編), 日本農業害虫大事典: 925-926.
[2003b] 田中寛, 2003. マツノゴマダラノメイガ. 梅谷献二・岡田利承(編), 日本農業害虫大事典: 929-930.
[2006a] 日本応用動物昆虫学会(編集), 2006. 農林有害動物・昆虫名鑑, 増補改訂版. 387pp. 日本応用動物昆虫学会, 東京. (害虫リスト、加害作物)
[2006b] Inoue, H., and H. Yamanaka, 2006. Redescription of Conogethes punctiferalis (Guenee) and descriptions of two new closely allied species from Eastern Palaearctic and Oriental Regions (Pyralidae, Pyraustinae). Tinea 19 (2): 80-91. (原記載、分類、分布、宿主)
[2008] 有田智郎, 2008. モモノゴマダラノメイガ(針葉樹型). 農文協(編), 原色花卉病害虫百科7, 花木・庭木・緑化樹②: 411-412.

2010/8/1