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ブナハバチ

ブナハバチ

写真1 中齢幼虫。ブナ、函館、2008/6/5。

写真2 写真1の個体の拡大、体長約10mm。2008/6/5。

写真3 老齢幼虫、体長約16mm。ブナ、函館、2008/6/5。

被害の特徴
樹 種 ブナ。
部 位 葉。
時 期 5月~6月(幼虫食害時期)。
状 態 葉が縁から食害される(写真1)。 食害部位に幼虫や幼虫の脱皮殻が見られる。 糸、蛹、蛹の抜け殻はみられない。 夏から翌春までは被害木下の土中に繭がある。
幼 虫 体長最大約20mm。 頭部は淡い黄褐色、時に黒色の斑紋がある(写真2~3)。胸腹部は黄緑色、黒色の斑点が側面下方にある。 腹脚は腹部第2~7節と10節とに計7対ある。 単独性。
ハバチ科では腹部に体液の分泌腺はなく、胸脚の爪に吸盤はない。
ハバチ亜目では眼(側単眼)は左右に各1個、脱皮殻は頭部から腹部までつながり、頭部が縦中央で割れる。
長さ5~9mm。暗褐色。1層からなる。

和名  ブナハバチ(文献2000)

学名 命名者・年   Fagineura crenativora Vikberg and Zinovjev, 2000

分類  ハチ目(膜翅目)Hymenoptera、ハバチ亜目(広腰亜目)Symphyta、ハバチ科Tenthredinidae


形態  文献2000に詳述されている。

寄主  ブナ、イヌブナ(文献2000)。

生態  年1回発生;繭で越冬;成虫は早春(本州丹沢では4月下旬~5月上旬)に出現し、雌は開ききってない葉の裏側の葉脈に産卵する;卵は1週間ほどで孵る;幼虫は葉を食べて成長し、丹沢では5月下旬から6月上旬に老熟する;老熟幼虫は地面に落下した後、木の幹を1mほど登って脱皮し、次いで土に潜って繭になる;翌春、蛹になり、次いで羽化する(文献2000)。終齢は雌で6齢、雄で5齢である;繭はブナの根元周りの落葉層の直下で多く見つかる;翌春羽化するとは限らず、2年後または3年後に羽化する個体も多いようである(文献2001)。
 北海道では成虫が5月末に採集され(文献2000)、老齢幼虫が6月上旬に採集された(写真1~3)。生活環は上記の本州の場合とほぼ同様と考えられる。
 天敵として鳥、ジョウカイボン科(鞘翅目)、捕食寄生性ハチ類、捕食寄生性ハエ類、寄生菌がある(文献2007、2012)。

分布  北海道、本州、四国、九州(文献2000)。
 道内では黒松内岳で採集されている(文献2000)。函館でも確認された(写真)。

被害  本州では近年被害が発生するようになった。1990年代に神奈川県丹沢山地や東京都三頭山で大発生し、新種として記載された(文献2000)。その他に筑波山、八万谷、八甲田、下北でも被害が観察されている(文献2002、2005)。被害により葉を完全に失ったブナのほとんどは盛夏になって二次開葉する(文献2007)。丹沢山地では2000年代に入っても大発生が起こり(文献2007、2008など)、被害木の枯死が進行している(文献2007)。
 北海道では今のところ被害は観察されていない。

防除  防除方法は確立されていない。


文 献
[2000] Shinohara, A., V. Vikberg, A. Zinovjev, and A. Yamagami, 2000. Fagineura crenativora, a new genus and species of sawfly (Hymenoptera, Tenthredinidae, Nematinae) injurious to beech trees in Japan. Bull. Natn. Sci. Mus., Tokyo, Ser. A, 26: 113-124. (原記載、分類、形態、分布、生態、過去の文献)
[2001] 山上明・谷晋・伴野英雄・篠原明彦, 2001. 1丹沢のブナを食い荒らすブナハバチ. 国立科学博物館ニュース, (382): 5-7. (ブナハバチの生態・被害の概説)
[2002] Kamata, N., 2002. Outbreaks of forest defoliating insects in Japan, 1950-2000. Bulletin of Entomological Research, 92: 109. 117. (被害発生地、発生年不詳)
[2005] 鎌田直人, 2005. 日本の森林/多様性の生物学シリーズ⑤, 昆虫たちの森. 329pp. 東海大学出版会, 秦野. (被害発生地、標高、発生年不詳)
[2007] 山上明・谷晋・伴野英雄, 2007. 7.ブナハバチの食害によるブナ枯死とブナ林の衰退. 丹沢大山総合調査団(編), 丹沢大山総合調査学術報告書: 256-268. 財団法人平岡環境科学研究所, 神奈川県.
[2008a] 谷晋・伴野英雄・山上明, 2008. 丹沢山地におけるブナハバチの大量発生の再発とその食害状況について. 東海大学総合教育センター紀要, (28): 55-61.
[2008b] 谷晋・伴野英雄・山上明, 2009. ブナハバチの卵期および幼虫期における温度と発育速度の関係. 東海大学総合教育センター紀要, (29): 107-113.
[2012] 谷脇徹・渡辺恭平, 2012. 神奈川県丹沢山天王寺尾根で確認されたブナハバチの捕食寄生蜂相. 昆虫(ニューシリーズ), 15: 2-14.(寄生性ハチ類、検索表)

2012/1/14