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林業試験場

カラマツハラアカハバチ

カラマツハラアカハバチ

写真1 被害。苫小牧、カラマツ、1979/8。

写真2 被害枝。平取、カラマツ、2006/8/31。

写真3 終齢幼虫。苫小牧、カラマツ、2008/9/9。

写真4 葉を食べ尽くして飢えた幼虫。胆振地方カラマツ林、1981/8/21。

写真5 繭殻、小哺乳類食痕、右は羽化痕。1986。

写真6 産卵中の雌成虫。胆振地方、カラマツ、1981/7。

被害の特徴
樹 種 カラマツ属(カラマツ、グイマツなど)。
部 位 葉(輪生葉)。
時 期 7月~9月(幼虫食害時期)。
状 態 葉が食害される(写真1)。枝先(長枝)の葉は食べ残される(写真2)。 食害部位に幼虫や幼虫の脱皮殻が見られる(写真3)。 糸、蛹、蛹の抜け殻はみられない。 被害木下には虫糞がある。 秋から翌春までは被害木下の落葉層中に繭がある。
幼 虫 体長最大約18mm。 頭部と胸脚は黒色。胸腹部は淡い黄緑色から淡い灰白色で、終齢では背面が暗くなる(写真3)。 集合性。通常、数十頭の幼虫が集団で葉を摂食する。
ハバチ科では腹部に体液の分泌腺はなく、胸脚の爪に付属物はない。
ハバチ亜目では眼(側単眼)は左右に各1個、脱皮殻は頭部から腹部までつながり、頭部が縦中央で割れる。
暗褐色、1層からなる。

資料  「カラマツハラアカハバチの特徴・生態・被害について」


 寄主であるカラマツ属は北海道に自生しないため、北海道では外来種と考えられる。


和名  カラマツハラアカハバチ

学名 命名者・年   Pristiphora erichsoni (Hartig, 1837)

分類  ハチ目(膜翅目)Hymenoptera、ハバチ亜目(広腰亜目)Symphyta、ハバチ科Tenthredinidae


形態  幼虫は上述のとおり(文献2005)。成虫は文献1975に詳述されている。
 なお、Pristiphora属の幼虫は触角が4節、頭楯刺毛が2対、大顎刺毛が各1本、腹部第1~8節背面の小環節数が各6、第2・4小環節に微毛を有し、胸腹部に突起はない。

寄主  カラマツ属(カラマツ、グイマツなど)。

生態  年1回発生。北海道内の成虫発生時期は6月中下旬(文献1936)、8月中旬(文献1981)と変異がある。それに応じて幼虫の発生時期も変化し、食害のピークは早いときは7月下旬頃、遅いときは8月下旬頃になる。
 幼虫は枝先の葉(長枝葉)はほとんど食べない。十分成熟した幼虫は地上に降りて落葉中や土の浅いところに潜り焦げ茶色の繭になる。繭内で幼虫で越冬する。翌春~夏に蛹になる。幼虫のまま繭内に何年もとどまる個体もある。
 成虫はほとんどが雌で、単為生殖をする。まれに雄成虫が現れるが、繁殖には関与しないようである。雌成虫は長枝の枝内に卵をまとめて埋め込む。1雌あたりの産卵数は約45個。産卵された長枝は先端が曲がるのでわかりやすい。

 発育ステージ ~3月   4    5    6    7    8    9   10   11~
 成虫・卵              ‥◎ ◎◎◎ ◎◎‥            
 幼虫(摂食・成長)               ‥ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆‥         
 幼虫・前蛹(繭内、休眠) ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ‥‥‥ ‥‥‥ ‥◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
 蛹             ‥++ +++ ‥              

分布  北海道・本州、ユーラシア・北米。

被害  カラマツ林でしばしば多発する。被害はときに10年以上の長期に及ぶが、個々の林ではたいてい3年前後で終わる。
 北海道では1930年頃に新冠町で初めて被害が記録され、次いで各地で局所的な被害が発生した(文献1978)。広域被害は1977~1986年にかけて胆振や日高地方で初めて発生した。1995年に知内町で始まった被害もまた長期化・拡大化し、北上しながら2010年現在継続中である。
 食害により直接、木が枯れることはほとんどない。長枝葉を食べ残すためと考えられている。ただし、台風の影響や穿孔虫の二次被害などが加わった場所では枯死木の集団枯損が観察されている(文献1983、1990)。

防除  “まつ類”の“ハバチ類”に適用可能な農薬としてMEP乳剤(商品名スミパイン乳剤・普通物・魚毒性B)及びジフルベンズロン水和剤(商品名デミリン水和剤・普通物・魚毒性A)がある(2009年10月時点)。幼虫期の農薬(MEP乳剤)の空中散布による殺虫率は90%前後と高い。しかし、増加率が高いため、少数の生き残りからすぐ元の状態に戻る場合もある(文献1982、1991a)。また、上記の胆振・日高地方の被害では農薬散布を実施したが被害が10年近く続いたことから、農薬散布により大発生を終息させることは難しいと考えられる。
 食害された木は一時的に衰弱するため、穿孔虫による二次被害を受け枯死する可能性がある。
 グイマツ雑種F1やグイマツはカラマツハラアカハバチの食害に抵抗性がある(文献1988、1991c)。


文 献
[1936] 岡本得一, 1936. カラマツハラアカハバチの天敵について. 日本林学会誌, 18: 66-73.
[1975] Wong, H. R., 1975. The abietina group of Pristiphora (Hymenoptera: tenthredinidae). Canadian Entomologist, 107: 451-463.
[1978] 上条一昭, 1978. 林業相談カラマツハラアカハバチの生態と防除. 光珠内季報, 36: 20-21. (過去の被害記録のとりまとめなど)
[1980] 上条一昭, 東浦康友, 鈴木重孝, 1980. カラマツハラアカハバチの薬剤防除試験. 光珠内季報, 41: 2-4.
[1981] 東浦康友, 鈴木重孝, 1981. カラマツハラアカハバチの防除基準. 北方林業, 33: 180-183.
[1982] 池ノ谷重男, 1982. カラマツハラアカハバチ防除の適期と効果. 北方林業, 34: 75-78.
[1983] 菅藤雅克, 1983. カラマツハラアカハバチの発生の広がりと被害枯損木の実態. 北方林業, 35: 285-289. (塩風害、穿孔虫)
[1985] 林康夫・吉田成章・小泉力・高井正利・秋田米治・福山研二・前田満・柴田義春・中津篤・田中潔・遠藤克昭・松崎清一・佐々木克彦, 1985. 北海道樹木病害虫獣図鑑. 223pp. 北方林業会, 札幌. (生態、被害、カラー写真)
[1988] 東浦康友, 1988. カラマツハラアカハバチの産卵に対するカラマツ類の抵抗性. 日本林学会誌, 70: 461-463.
[1990] 東浦康友, 1990. 1977年~1986年に大発生したカラマツハラアカハバチによる被害と防除(1)大発生の推移と被害. 北方林業, 42: 42-46.
[1991a] 東浦康友, 1991. 1977年~1986年に大発生したカラマツハラアカハバチによる被害と防除(3)薬剤散布の効果. 北方林業, 43: 98-100.
[1991b] 東浦康友, 中田圭亮, 1991. 1977年~1986年に大発生したカラマツハラアカハバチによる被害と防除(2)天敵による死亡率. 北方林業, 43: 65-67.
[1991c] 宮木雅美, 東浦康友, 1991. グイマツ雑種F1はカラマツハラアカハバチにも強い. 北海道の林木育種, 34: 27-30.
[1992] 東浦康友, 宮木雅美, 1992. 虫害にも強いグイマツ雑種F1-カラマツハラアカハバチに対する抵抗性-. 光珠内季報, 86: 15-18.
[1994] 東浦康友, 1994. カラマツハラアカハバチ. 小林富士雄, 竹谷昭彦, 編集, 森林昆虫, 総論・各論: 342-343. 養賢堂, 東京. (生態、形態)
[2005] 原秀穂・篠原明彦, 2005. ハバチ科(Tenthredinidae). 青木典司ほか, 日本産幼虫図鑑: 278-280. 学習研究社, 東京.(幼虫の形態や生態の概要)

2010/3/31