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林業試験場

オウトウナメクジハバチ

オウトウナメクジハバチ

写真1 幼虫の食害状況。

写真2 終齢幼虫、体長10mm。北見、庭のエゾヤマザクラ、2000/8/31。

被害の特徴
樹 種 サクラ属(セイヨウミザクラ・ソメイヨシノ他)、ナシ、マルメロなどバラ科樹木。
部 位 葉。
時 期 6月~9月(幼虫食害時期)。
状 態 葉が部分的に透けたり、淡い茶色になる(写真1)。 変色部位は葉の上側が削り取られ、下側の表皮だけが残る。 食害部位やその近くの葉の上側に幼虫や幼虫の脱皮殻が見られる(写真2)。 糸、蛹、蛹の抜け殻はみられない。 秋から翌春までは、被害木根際の土中深さ1.5~3cmにもろい繭がある。
幼 虫 体長最大10mm。 胸腹部は粘質物におおわれ、光沢のある濁った黄土色から暗褐色にみえる(写真2)。 頭部は暗褐色から黒色。胸部が膨らみ、刺激すると胸部をより膨らませ尾端を少し持ち上げる。 単独性。 繭内の老熟幼虫は粘質物がなくなり、鮮やかな黄色で単眼のみ黒色。
ナメクジハバチ属では胸腹部は粘質物におおわれ、前胸脚基部に前方に延びる肉状突起がある。ハバチ科では腹部に体液の分泌腺はなく、胸脚の爪に付属物はない。
ハバチ亜目では眼(側単眼)は左右に各1個、脱皮殻は頭部から腹部までつながり、頭部が縦中央で割れる。
繭は長さ7mm、暗褐色だが土が密着し、もろく崩れやすい。
注) 本州ではよく似たモモナメクジハバチがモモやナシの害虫として知られているが、幼虫の区別点は不明である。

 国外外来種である。ヨーロッパ原産で人の手によって世界各地に広がった(文献1950a)。国内では1924年(大正13年)に福島県で初めて確認された(文献1926)。発生は北米産のスモモとセイヨウミザクラ苗木を植えた畑が最初である(文献1961)。


和名  オウトウナメクジハバチ(文献1965)
別名 ウチイケオウトウハバチ(文献1926)
英名 pear-slug(文献1971)

学名 命名者・年   Caliroa cerasi (Linne, 1758)

分類  ハチ目(膜翅目)Hymenoptera、ハバチ亜目(広腰亜目)Symphyta、ハバチ科Tenthredinidae


形態  成虫については文献1961、1965、1971、幼虫・繭については文献1961、1971、ナメクジハバチ属の幼虫の特徴については文献1971に記述がある。

寄主  サクラ属(セイヨウミザクラ・ソメイヨシノ)、モモ、ナシ、ヨウナシ、マルメロ(文献1926、1961、1967)。ウメ、リンゴ、カキは自然状態では食べない(文献1961)。果樹(ナシ、モモ、スモモ、オウトウ、カキ)やサクラの害虫とされている(文献2006)が、カキについては上述のとおりである。国外ではサンザシ属、ナナカマド属、ナシ属、サクラ属、モモ属、キイチゴ属、バラ属などのバラ科に加えて、ヤナギ属、コナラ属も記録されている(文献1972)が、バラ科以外は再確認が必要と思われる。

生態  北海道では年2~3回発生;成虫は6月から8月に発生する;幼虫の食害は6月下旬から9月上旬に発生する(文献1985)。
 成虫は4~10日生存;雌成虫は葉の裏面より産卵管を挿入し、表面の表皮直下に1個ずつ卵を産む;幼虫は葉の表面より食害し、葉脈と裏面の表皮を残す;食害跡は幼虫が小さな時は点状、成長するにしたがい連続的になる;幼虫は不快な臭気を出す;最後の脱皮をすると黄色になり、直接地上に落下して土中に入り、繭を作る;繭は土中の深さ1.5~3cmにある;越冬は繭内で幼虫態で行う(文献1961)。

分布  北海道(文献1950b)、本州(文献1926);ほぼ全世界の温帯(文献1971、1972)。

被害観察地域 (樹木害虫発生統計資料に基づく)

被害  サクラやナナカマドでまれながら多発記録がある;多発は1~2年で終息している(樹木害虫発生統計資料参照)。

防除  庭木などで食害が気になるときは、幼虫を取り除く。登録された農薬はない(2017年時点)。


文 献
[1926] 内池俊雄, 1926.恐るべき果樹の大害虫ウチイケアウタウハバチの研究. 昆虫世界, 30 (341): 2-11, pl. 1.
[1950a] Benson, R. B., 1950. An introduction to the natural history of British sawflies. Transactions of the Society of British Entomology, 10, 45?142.
[1950b] 豊島在寛, 1950. ウチイケオウトウハバチ. 湯浅啓温・明日山秀文(編): 病害虫の生態と防除、果樹編, pp. 104?105. 産業圖書, 東京.
[1961] 大石俊雄, 1961. わが国におけるCaliroa属葉蜂. 福島生物, 4: 29-38.
[1965] Okutani, T., 1965. The Japanese sawflies of the genus Caliroa, with description of its larval character. Japanese Journal of Applied Entomology and Zoology, 9: 29-33.
[1967] 奥谷禎一, 1967. 日本産広腰亜目(膜翅目)の食草(I). 日本応用動物昆虫学会誌, 11: 43-49.
[1971] Smith, D. R., 1971. Nearctic sawflies, III. Heterarthrinae: Adults and larvae (Hymenoptera: Tenthredinidae). U.S. Department of Agriculture, Technical Bulletin, 1420, 84 pp, 18 pls.
[1972] Carl, K. P., 1972. On the biology, ecology and population dynamics of Caliroa cerasi (L.) (Hym-, Tenthredinidae). Zeitschrift fur angewandte Entomologie, 71: 58-83.
[1985] 林康夫・吉田成章・小泉力・高井正利・秋田米治・福山研二・前田満・柴田義春・中津篤・田中潔・遠藤克昭・松崎清一・佐々木克彦, 1985. 北海道樹木病害虫獣図鑑. 223pp. 北方林業会, 札幌.
[2006] 日本応用動物昆虫学会(編集), 2006. 農林有害動物・昆虫名鑑, 増補改訂版. 387pp. 日本応用動物昆虫学会, 東京.
[2013] Hara, H. & Shinohara, A., 2013. A slug sawfly, Caliroa matsumotonis (Hymenoptera: Tenthredinidae), injurious to peach and pear trees in Japan and Korea. Applied Entomology and Zoology, 48, 379?386.

2017/1/23