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シナノキハムグリハバチ

シナノキハムグリハバチ

写真1 被害木。美唄、シナノキ。1994/6/6。

写真2 幼虫の潜葉状況。写真1の一部。

写真3 幼虫、体長5mm。写真2の葉表皮を破って撮影。

写真4 雌成虫。

被害の特徴
樹 種 シナノキ、オオバボダイジュ。
部 位 葉。
時 期 5月~6月(幼虫食害時期)。
状 態 葉が部分的に黄色から薄茶色になる。変色した部分の内部は空洞で、中に糞や幼虫がみられる(写真2)。 糸、蛹、蛹の抜け殻はみられない。
幼 虫 体長最大約5mm。 頭部は淡い褐色、胸腹部は淡い黄白色、時に頭部と前胸の両側に暗色斑がある(写真2)。 単独性。
潜葉性のハバチ亜目の幼虫は扁平で、口器が前方を向き、単眼が1対、胸脚を有する。 ハバチ亜目では脱皮殻は頭部から腹部までつながり、頭部が縦中央で割れる。

和名  シナノキハムグリハバチ(文献1992)

学名 命名者・年   Parna kamijoi Togashi, 1980

分類  ハチ目(膜翅目)Hymenoptera、ハバチ亜目(広腰亜目)Symphyta、ハバチ科Tenthredinidae

形態  幼虫は上述のとおり。成虫は体長3.5mm、黒色(詳細は文献1980)。

寄主  オオバボダイジュ(文献1980)、シナノキ(文献2001a)。

生態  成虫は春、シナノキの芽が開く頃(北海道では5月中下旬)に土中から羽化してくる;羽化直後から交尾・産卵を行う;雄はシナノキの周囲を飛び回り、雌成虫を探して交尾する;雌成虫はほとんど飛ぶことがなく、歩いて葉や枝上を移動し、葉の縁に産卵する;卵は1週間ほどで孵化する;幼虫は産卵場所の葉の縁から中心に向かい潜孔する;雌成虫は1箇所に1個ずつ産卵するが、幼虫が成長するにつれ摂食部分が重なりあって複数の幼虫が一つの摂食域に集合した状態になる;6月中旬になると幼虫は摂食をやめ、脱皮して5齢になり、葉を破って地面に落下する;幼虫期間は2週間程度である;土中の深さ3cmほどのところで休眠する(文献2001a)。

分布  北海道・本州(文献1980)、韓国(文献1999)。

被害観察地域 (樹木害虫発生統計資料に基づく)

被害  1987年に熊石や興部などで全葉に近い食害が発生した;それ以前にもときどき発生しており、木が枯れることはないようだが、花のつきが悪くなることから養蜂上困るといわれている(文献1988、"ハムグリハバチの1種")。その後、1991~1993"ハムグリハバチの1種"、1994、1997、2000、2003、2004、2006、2007年と被害が記録されている(文献1992、1993、1994、1995、1998、2001b、2005、2006b、2008、2009)。
 富良野・南富良野では3年周期で大発生が観察され、被害地域・被害程度がどんどん拡大している(文献1998、2001a、2006a、2009)。3年間隔で大発生するのは、土に潜った幼虫のほとんどが同調して土中で2冬過ごしてから成虫になるためである(文献2006a)。なお、最近は周期から1年遅れの発生も増えてきた(文献2009)。
 大発生の時にはほぼすべての葉が食害され黄色に変わる。食害された葉は落下し木は丸坊主になるが、普通、数週間後には新しい葉を再生するので枯れることはない(文献1998b)。蓄積した被害による枯死木がわずかながらみられるようになってきている(文献2006a)。

防除  防除技術は確立されていない。


文 献
[1980] Togashi, I., 1980. The genus Parna Benson in Japan, with description of a new species and key to the Japanese genera of the tribe Fenusini (Hymenoptera, Tenthredinidae). Kontyu, Tokyo, 48: 213-217. (原記載、分類、形態、分布、宿主、属の検索表)
[1988] 小泉力(北海道森林昆虫談話会), 1988. 昭和62年度・北海道に発生した森林害虫. 北方林業, 40: 218-224. (被害記録)
[1992] 福山研二・前藤薫・東浦康友・原秀穂, 1992. 平成3年度に北海道に発生した森林昆虫. 北方林業, 44: 271-274. (被害記録)
[1993] 福山研二・前藤薫・東浦康友・原秀穂, 1993. 平成4年度に北海道に発生した森林昆虫. 北方林業, 45: 269-272. (被害記録)
[1994] 福山研二・前藤薫・東浦康友・原秀穂, 1994. 平成5年度に北海道で発生した森林昆虫. 北方林業, 46: 291-294. (被害記録)
[1995] 福山研二・前藤薫・東浦康友・原秀穂, 1995. 1994年に北海道で発生した森林昆虫. 北方林業, 47: 166-169. (被害記録)
[1998a] 福山研二・伊藤賢介・原秀穂・林直孝, 1998. 1997年に北海道に発生した森林昆虫. 北方林業, 50: 185-188. (被害記録)
[1998b] 井口和信・梶幹男・福山研二・尾崎研一, 1998. 北海道中央部におけるハムグリハバチによるシナ類の被害. 森林防疫, 47: 10-13.
[1999] Byun, B. K. and A. Shinohara, 1999. Notes on a linden leaf mining sawfly, Parna kamijoi (Hymenoptera, Tenthredinidae), new to Korea with brief life history notes. Korean Journal of Applied Entomology, 38: 81-84.
[2001a] 井口和信・尾崎研一・磯野昌弘, 2001. 北海道中央部におけるシナノキハムグリハバチの生活史. 日本林学会北海道支部論文集, 49: 96-98.
[2001b] 尾崎研一・原秀穂・林直孝, 2001. 2000年に北海道で発生した森林昆虫. 北方林業, 53: 229-231. (被害記録)
[2005] 上田明良・尾崎研一・原秀穂・石濱宣夫, 2005. 2003年に北海道で発生した森林昆虫. 北方林業, 57: 64-65. (被害記録)
[2006a] 井口和信・尾崎研一, 2006. 長期休眠によるシナノキハムグリハバチ3年周期の大発生. 日本林学会北海道支部論文集, 54: 121-123.
[2006b] 上田明良・原秀穂, 2006. 2004年に北海道で発生した森林昆虫. 北方林業, 58: 149-150. (被害記録)
[2008] 上田明良・原秀穂, 2008. 2006年に北海道で発生した森林昆虫. 北方林業, 60: 101-103. (被害記録)
[2009] 上田明良・原秀穂・小野寺賢介, 2009. 2007年に北海道で発生した森林昆虫. 北方林業, 61: 133-136. (被害記録)

2010/3/31