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林業試験場

カラマツヒラタハバチ

カラマツヒラタハバチ

写真1 老齢幼虫、体長17mm、1995/7/17。支笏湖畔、カラマツ。

写真2 写真1の幼虫の巣。1995/7/17。

写真3 雌成虫、体長11mm。1995/6/27、恵庭で採集した幼虫を飼育。

被害の特徴
樹 種 カラマツ属(カラマツなど)。
部 位 葉。
時 期 6月~8月(幼虫加害時期)。
状 態 葉がなくなり、糸で糞が絡まる(写真2)。 食害部位に幼虫や幼虫の脱皮殻がみられる(写真1)。 蛹や蛹殻はない。 糞は細長く、たいてい長さは直径の2倍以上(針葉樹を食べるハバチ亜目の特徴)。
夏から翌春までは被害木下の土中に幼虫や前蛹がいる。 繭は作らない。
幼 虫 体長最大約18mm。胸腹部は灰緑色から灰色で部分的赤みがある(写真1)。老熟すると暗い緑色に変わる。頭部は黒色から褐色。 単独性。糸でトンネル状の巣を作り、巣には糞が密に付着する(写真2)。
ヒラタハバチ科では腹脚がなく、腹部先端節の両側に細長い突起を持ち、触角と胸脚は細長い。 ハバチ亜目では眼(側単眼)は左右に各1個、脱皮殻は頭部から腹部までつながり、頭部が縦中央で割れる。
注) 北海道ではカラマツ属を食べるヒラタハバチとして他にニホンカラマツヒラタハバチとニホンアカズヒラタハバチが知られている;ニホンカラマツヒラタハバチは幼虫の胸腹部が灰褐色、老熟幼虫では灰黄色であり、幼虫の巣に糞はあまり付着しない;ニホンアカズヒラタハバチは幼虫の胸腹部が鮮やかな黄緑色で、老齢幼虫の巣は糸を粗く張っただけで明瞭なトンネル状にならない。

 1910年に日本(産地不詳)の標本に基づき記載された(文献1910)。北海道では1994年に初めて発見され(文献1995)、道外からの侵入種と考えられる(文献1996、1997)。


和名  カラマツヒラタハバチ(文献1920)

学名 命名者・年   Cephalcia koebelei (Rohwer, 1910)

分類   ハチ目(膜翅目)Hymenoptera、ハバチ亜目(広腰亜目)Symphyta、ヒラタハバチ科Pamphiliidae


形態  幼虫は上述の通り(詳細は文献1959、1996、2005)。成虫(写真3)は体長8~12mm、黒色で黄色や褐色の斑紋がある;ニホンカラマツヒラタハバチと極めてよく似ている(詳細は文献1997)。

寄主  カラマツ属(カラマツ)(文献1997など)。

生態  年1回発生、成虫は6月上中旬に出現し、短枝葉の葉裏に1個ずつ卵を産む;幼虫は単独性で、糸を吐いて作ったトンネルの中を移動しながら、短枝葉を切りとって食べる;8月中には食葉を終え、落下して土中にもぐり、土室を造ってその中で越冬する(文献1996)。ごくまれに前蛹にならず幼虫のまま越冬する個体があり、次の年も土中にとどまる(文献1998b、1999a)。成虫が7月に発生し、幼虫の食害が8月に発生する場合もある。
 有効な天敵として寄生蜂であるヒメバチ科の1種 Homaspis sp. がある(文献1998b、1999a)。

分布  北海道・本州・ロシア;道内では札幌・恵庭・千歳・苫小牧で採集されている(文献1997)。他に江別、小樽、北広島で被害が記録されている(文献2010など)。日高地方の記録(文献2006)はカラマツハラアカハバチの誤認と思われる。また、2007年の被害報告はカラマツハラアカハバチの可能性がある(文献2009)。

被害観察地域 (樹木害虫発生統計資料に基づく)

被害  本州では古くから被害記録があるが(文献1920など)、一部はニホンカラマツヒラタハバチの被害である(文献1997参照)。1950年頃の被害はカラマツヒラタハバチによる(文献1997参照)。
 北海道では1994年に"ヒラタハバチの1種の2"として初めて記録された(文献1995)。被害は1994~1999年まで札幌から苫小牧にかけてニホンアカズヒラタハバチの被害と混在して継続的に発生し、その後、同地域内で小規模な被害が2002年、2004年に報告された(文献2010)。大発生の直前には温暖な年が3年続いており、それが大発生の引き金となった可能性がある(文献2004b)。被害が減少した主な原因の一つはヒメバチ科の1種(Homaspis sp.)と考えられる(文献1998b、1999a)。秋の潜土幼虫密度は夏の被害よりも北北西で高い傾向があり、被害が成虫期の主風の風下側に移動する可能性、並びに被害度が高いところでは被害後の幼虫密度が低いことが報告されている(文献1998a)。被害度の増加にともなう幼虫密度の低下にはヒメバチ科の1種が関係すると思われる(文献2010)。本種の食害や穿孔虫等の二次被害による枯死木の発生は報告されていない(文献2010)。

防除  食害により木が枯死した記録はないため、森林では防除の必要はないと考えられる。しかし、食害様式がほぼ同じニホンカラマツヒラタハバチではカラマツヤツバキクイムシの二次被害による枯死木の発生例があり(文献2004a)、本種でも注意が必要である。
 “まつ類”の“ハバチ類”に適用可能な農薬としてMEP乳剤(商品名スミパイン乳剤・普通物・魚毒性B)及びジフルベンズロン水和剤(商品名デミリン水和剤・普通物・魚毒性A)がある(2009年10月時点)。


文 献
[1910] Rohwer, S. A., 1910. Japanese sawflies in the collection of the United States National Museum. Proceedings of the United States National Museum, 39: 99-120.
[1920] 矢野宗幹, 1920. からまつヲ害スル葉蜂類二就テ. 林業試験彙報, 2: 31-38.
[1959] 奥谷禎一・石井梯・安松京三, 1959. 膜翅目. 江崎悌三・石井梯・河田党・素木得一・湯浅啓温(編), 日本幼虫図鑑: 546-590. 北隆館, 東京.
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[1998a] 鷹尾元・尾崎研一・福山研二・石橋聡, 1998. ヒラタハバチ類によるカラマツ食葉被害とその土中幼虫の地理的分布. 日本林学会論文集, 109: 409-410.
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[1999a] 原秀穂・林直孝, 1999. 寄生蜂によるニホンカラマツヒラタハバチの生物的防除の取り組み. 日本林学会北海道支部論文集, 47: 70-72. (大発生時の密度や天敵の調査)
[1999b] 岡田充弘・岩間昇 1999. 長野県におけるカラマツヒラタハバチの生態およびカラマツへの食害. 森林防疫 48: 163-169.
[2004a] 尾崎研一・原秀穂, 2004. 2001年に北海道で発生した森林昆虫. 北方林業, 56: 34-36.
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[2006] 上田明良・原秀穂, 2006. 2004年に北海道で発生した森林昆虫. 北方林業, 58: 149-150.
[2009] 上田明良・原秀穂・小野寺賢介, 2009. 2007年に北海道で発生した森林昆虫. 北方林業, 61: 133-136.
[2010] 原秀穂, 2010. 北海道における膜翅目ハバチ亜目の樹木害虫I:ナギナタハバチ科, ヒラタハバチ科, ミフシハバチ科, コンボウハバチ科. 北海道林業試験場研究報告, 47: 51-68.(北海道における被害、文献など)

2010/3/31