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林業試験場

タカネヒラタハバチ

タカネヒラタハバチ
被害の特徴
樹 種 マツ属(ハイマツ)。
部 位 葉。
時 期 7月~8月(幼虫加害時期)。
状 態 葉がなくなり、糸で糞が絡まる。 食害部位に幼虫や幼虫の脱皮殻がみられる)。 蛹や蛹殻はない。 糞は細長く、たいてい長さは直径の2倍以上(針葉樹を食べるハバチ亜目の特徴)。
秋から翌春までは被害木下の土中に幼虫や前蛹がいる。 繭は作らない。
幼 虫 体長最大22mm。胸腹部は赤味がかった緑色だが変異があり、背面と腹面の中央に赤色~黒色の縦線がある。 頭部は終齢では黄褐色、若齢では黒褐色。 3~9頭の集団で、糞の塊のような巣を作る。
ヒラタハバチ科では腹脚がなく、腹部先端節の両側に細長い突起を持ち、触角と胸脚は細長い。 ハバチ亜目では眼(側単眼)は左右に各1個、脱皮殻は頭部から腹部までつながり、頭部が縦中央で割れる。
注) ニホンアカズヒラタハバチもマツ属を食べるが、幼虫の胸腹部が鮮やかな黄緑色で、老齢幼虫の巣は糸を粗く張っただけで糞が付着しない。マツ属を食べるヒラタハバチは他にも数種あるようだが、幼虫や摂食様式は不明である。

 文献1930において長野県や北海道(大雪山、1930年採集)の標本に基づき新種として記載された種である。大雪山系で大発生し、ハイマツを枯らした記録がある。


和名  タカネヒラタハバチ(文献1930)

学名 命名者・年   Cephalcia variegata Takeuchi, 1930

分類  ハチ目(膜翅目)Hymenoptera、ハバチ亜目(広腰亜目)Symphyta、ヒラタハバチ科Pamphiliidae


形態  幼虫は上述の通り(詳細は文献1988、1994参照)。 成虫は体長10~11mm、黒色で黄色の斑紋がある(詳細は文献1930、1938、1965)。 卵は長さ2.3mm、俵状、緑色(文献1994)。

寄主  ハイマツ(文献1988)。

生態  成虫は7月頃に発生する(文献1955)。大雪山系高根ヶ原では年1回発生;通常7月上旬に成虫が羽化・産卵するが、雪解けが遅いと1カ月程度遅れる;雌成虫は前年葉の中間付近の内側に卵を3個(ときに1~2個)ずつ縦に並べて産む;孵化幼虫は葉の基部に移動し、集団で葉間に糸を張って巣を作る;巣は糞に覆われ、巣内には3~9幼虫が孤立した部屋を造る;幼虫は巣を出て、旧葉を切断し巣内に持ち帰って食べる;幼虫は主に7月中旬から現れ、8月上中旬に老熟して土中に潜り、腐植層深さ5~15cmに部屋を造って越冬する;翌6月下旬に蛹化するが、土中に2年以上過ごす個体がいると考えられる(文献1988、1991、1994)。

分布  北海道・本州、サハリン;高山性の種である(文献1938)。

被害  被害は1例だけ知られている。大雪山系高根ヶ原で1979~80年代にかけて発生し、被害地では大量のハイマツが枯死した(文献1988、1990"ハバチの1種"、1991)。被害は1983~86年に報告されている(文献1984b"ハバチの1種"、1985"ヒラタハバチの1種"、1987a、1987b)。1989年秋の段階では枯死の進行はほぼおさまっていたが、以前枯れたものはほとんど回復していない(文献1990"ハバチの1種")。食害が枯死の直接の原因とは考えにくく、食害による失葉で枝が雪上に出る時期が早まり、寒風による乾燥害で枯死したと考えられる(文献1991)。なお、この被害をタカムクカレハによるとする記述もあるが(文献1984a、1987c)、1983年以降の食害は主に本種による(文献1991)。

防除  防除方法は確立されていない。


文 献
[1930] Takeuchi, K., 1930. A revisional list of the Japanese Pamphiliidae, with description of nine new species. Transactions of the Kansai Entomological Society, 1: 3-16.
[1938] Takeuchi, K., 1938. A systematic study on the suborder Symphyta (Hymenoptera) of the Japanese Empire (I). Tenthredo, 2: 173-229.
[1955] 竹内吉蔵, 1955. 原色日本昆虫図鑑(下). 190pp. 68pls. 保育社, 大阪.
[1965] 富樫一次, 1965. ナギナタハバチ科, ヒラタハバチ科, キバチ科, クビナガキバチ科, ヤドリキバチ科, クキバチ科, ヨフシハバチ科, ハバチ科, マツハバチ科, コンボウハバチ科, ミフシハバチ科. 朝比奈正二郎・石原保・安松京三(監修), 原色昆虫大図鑑III: 243-254, pl. 122-127. 北隆館, 東京.
[1984a] 神保一義, 1984. 高山蛾. 192pp. 築地書館, 東京.
[1984b] 小泉力(北海道森林昆虫談話会), 1984. 昭和58年度北海道に発生した森林害虫. 北方林業, 36: 165-170.
[1985] 小泉力(北海道森林昆虫談話会), 1985. 昭和59年度, 北海道に発生した森林害虫. 北方林業, 37: 278-281.
[1987a] 吉田成章(北海道森林昆虫談話会), 1987. 昭和60年度・北海道に発生した森林害虫. 北方林業, 39: 106-110.
[1987b] 吉田成章(北海道森林昆虫談話会), 1987. 昭和61年度・北海道に発生した森林害虫. 北方林業, 39: 179-184.
[1987c] 中島秀雄, 1987. カレハガ科. 杉繁敏郎(編), 日本産蛾類生態図鑑: 115-118. 講談社, 東京.
[1988] Togashi, I. and N. Yoshida, 1988. Injury to Pinus pumila Regel by the larvae of Cephalcia variegata Takeuchi and Gilpinia daisetusana Takeuchi in Japan, with a description of the larvae and life history of Cephalcia variegata (Hymenoptera; Diprionidae, Pamphiliidae). Canadian Entomologist, 120: 185-188.
[1990] 渡辺康之, 1990. タカムクカレハの生活史. 月刊むし, (230): 24-25.
[1991] 吉田成章・前藤薫, 1991. 北海道大雪山系高根原ハイマツの枯損原因. 森林防疫, 40: 124-129.
[1994] 吉田成章, 1994. タカネヒラタハバチ. 小林富士雄・竹谷昭彦(編), 森林昆虫, 総論・各論: 338-341. 養賢堂, 東京.
[2010] 原秀穂, 2010. 北海道における膜翅目ハバチ亜目の樹木害虫I:ナギナタハバチ科, ヒラタハバチ科, ミフシハバチ科, コンボウハバチ科. 北海道林業試験場研究報告, 47: 51-68.(北海道における被害、文献など)

2010/3/31