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林業試験場

カラフトモモブトハバチ

カラフトモモブトハバチ

写真1 中齢幼虫、体長22mm。新得、ダケカンバ、1993/7/11。

写真2 老齢幼虫、体長45mm。上士幌町、シラカンバ、1995/7/31。

写真3 雌成虫、体長21mm、写真2の幼虫を飼育。

写真4 雌成虫、体長23mm。然別湖、1997/6/23。

写真5 繭、長さ30mm。帯広、シラカンバ被害木下の土中から、1993/9/21。

写真6 被害。帯広、シラカンバ、1993/9/21。。

被害の特徴
樹 種 カバノキ属。被害はシラカンバでのみ記録されている。
部 位 葉。
時 期 7月~9月(幼虫加害時期)。
状 態 葉がなくなる。葉縁から食害される。 食害部位に幼虫や幼虫の脱皮殻が見られる(写真1~2)。 被害部位の下に虫糞がある。秋から翌春までは被害木下の落葉や表土中に繭がある。
幼 虫 体長最大50mm。体は黄色から緑色(写真1~2)。 背面中央に黒色の線または銀白色で黒く縁取られた線がある。 まれに側面に黒い斑紋が現れるが、大きさには変異がある。
コンボウハバチ科では触角は1節、上唇に1対の縦溝があり、胸脚爪には吸盤がなく、腹部第1~8節背面は小環節数が7(背面の横じわが6本)。腹脚は腹部第2~8節と第10節とにある。気門の上方に分泌腺があり、刺激すると透明な体液を出す。
ハバチ亜目では眼(側単眼)は左右に各1個、脱皮殻は頭部から腹部までつながり、頭部が縦中央で割れる。
繭(写真5)は長さ30mm、暗褐色。

 被害は近年発生するようになったが、1909年に北海道で採集された標本があり(文献2000参照)、外来種とは考えにくい(文献2010)。


和名  カラフトモモブトハバチ
別名 カラフトアシブトハバチ(文献1912)、タカネアシブトハバチ、タカネモモブトハバチ

学名 命名者・年   Cimbex femoratus (Linnaeus, 1758)

分類  ハチ目(膜翅目)Hymenoptera、ハバチ亜目(広腰亜目)Symphyta、コンボウハバチ科Cimbicidae


形態  幼虫の形態は上述のとおり(詳細は文献2005b)。成虫(写真3~4)は体長14~28mm、色彩変異が著しい(詳細は文献2000、2005a)。平野部で大発生するものは成虫の腹部がたいていオレンジ色である(文献2010)。近似種と正確に区別するには雌の産卵管や雄交尾器の顕微鏡観察が必要である(文献2000参照)。

寄主  国内ではシラカンバ・ダケカンバ・ヤエガワカンバ(文献2000)。

生態  年1回発生;出現時期には変異があり、普通は成虫が6月に幼虫が7月に現れるが、市街地で多発するものは、成虫が7月に幼虫が8~9月に出現;幼虫は十分成長すると落葉中や土の浅いところに潜って繭を作り、繭の中で前蛹になって越冬;繭内で二冬以上過ごす場合がある;雌成虫は葉表の表皮下に卵を1個ずつ埋め込む(文献2000、2005b)。

分布  北海道・本州・四国、サハリン、南千島、朝鮮半島、沿海州、中国、シベリア~ヨーロッパ;道内では利尻島、網走・釧路・十勝・上川・空知・石狩・後志・日高・桧山地方というようにほぼ全道的に分布する(文献2000)。

被害観察地域 (樹木害虫発生統計資料に基づく)

被害  1976年に"コンボウハバチの1種"が江別のシラカンバ公園樹で大発生した(文献1977)。それ以降、被害は1978~79・1982・1985~86年に札幌、1993年に帯広で観察されている(文献1979 "キイロアシブトハバチ(?)"、1980 "キイロアシブトハバチ"、1983 "コンボウハバチの1種"、1987a "コンボウハバチの1種"、1987b "シラカンバのコンボウハバチの1種"、1994 "カンバコンボウハバチ")。これらの記録はいずれも本種の被害と考えられる(文献2000)。記録されている被害樹種はシラカンバだけで、被害発生箇所は明記されている限りでは公園樹・庭園樹だけである;他のカバノキ属や森林では被害は観察されていない;食害による枯死木の発生は記録がない(文献2010)。

防除  幼虫や成虫を捕殺する;幼虫は体液を分泌するのでゴム手袋をすること(文献2010)。登録された農薬はない(2009年10月時点)。


文 献
[1912] 松村松年 1912. 續日本千蟲図解, 4: 1- 247; Tab. 42-55. 警醒社, 東京.
[1977] 山口博昭・小泉力, 1977. 昭和51年度に発生した森林害虫. 北方林業, 29: 160-164.
[1979] 小泉力, 1979. 昭和53年度北海道に発生した森林害虫. 北方林業, 31: 160-164.
[1980] 小泉力(北海道森林昆虫談話会), 1980. 昭和54年度北海道に発生した森林害虫. 北方林業, 32: 159-163.
[1983] 小泉力(北海道森林昆虫談話会), 1983. 昭和57年度北海道に発生した森林害虫. 北方林業, 34: 178-182.
[1987a] 吉田成章(北海道森林昆虫談話会), 1987. 昭和60年度・北海道に発生した森林害虫. 北方林業, 39: 106-110.
[1987b] 吉田成章(北海道森林昆虫談話会), 1987b. 昭和61年度・北海道に発生した森林害虫. 北方林業, 39: 179- 184.
[1994] 福山研二・前藤薫・東浦康友・原秀穂, 1994. 平成5年度に北海道で発生した森林昆虫. 北方林業, 46: 291-294.
[2000] Hara, H., and A. Shinohara, 2000. A systematic study on the sawfly genus Cimbex of East Asia (Hymenoptera, Cimbicidae). Japanese Journal of Systematic Entomology, 6: 199-224.
[2005a] 原秀穂, 2005. 北海道のモモブトハバチ属. 森林保護, 300: 28-30.
[2005b] 原秀穂・篠原明彦, 2005. コンボウハバチ科(Cimbicidae). 青木典司ほか, 日本産幼虫図鑑: 277. 学習研究社, 東京.(幼虫や生態の概要)
[2010] 原秀穂, 2010. 北海道における膜翅目ハバチ亜目の樹木害虫I:ナギナタハバチ科, ヒラタハバチ科, ミフシハバチ科, コンボウハバチ科. 北海道林業試験場研究報告, 47:

2010/3/31