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林業試験場

マツノミドリハバチとキタマツノミドリハバチ

マツノミドリハバチとキタマツノミドリハバチ

写真1 マツノミドリハバチ老齢幼虫(側面)。中津川、アカマツ。2012/8/2。

写真2 同終齢幼虫(前蛹)。

写真3 キタマツノミドリハバチ老齢幼虫(側面)、体長15mm。札幌、?ストローブマツ、2008/9/2。

写真4 同写真3(背面)。

写真5 キタマツノミドリハバチ繭、長さ8.5mm。札幌、?ストローブマツ、2008/9/2。

被害の特徴
樹 種 マツ属(ストローブマツなど)。
部 位 葉。
時 期 7月~10月(幼虫加害時期)。
状 態 葉が先端から食害される。 食害部位に幼虫や幼虫の脱皮殻が見られる。 糸、蛹、蛹の抜け殻はみられない。 被害部位の下に虫糞がある。糞は細長く、たいてい長さは直径の2倍以上(針葉樹を食べるハバチ亜目の特徴)。 葉の間や落葉中などに繭がある。
幼 虫 体長最大約22mm。 胸部と腹部は緑色~黄緑色、前後両端は黄色、背面中央と側面とに不鮮明な暗い縦縞がある。腹部の第1~9節は小環節数が6(背面の横じわが5本)。腹脚は腹部第2~8節と10節(尾端節)にある。
集中するが、互いに体を接することはない。
マツハバチ科では、触角は3節(基部2節は盤状、第3節は円筒状)、上唇には溝がなく、体液の分泌腺はない。胸脚の爪に付属物はない。
ハバチ亜目では眼(側単眼)は左右に各1個、脱皮殻は頭部から腹部までつながり、頭部が縦中央で割れる。

和名  マツノミドリハバチ(文献1900、1916など)
別名 松ノ鋸蜂(まつのこばち)(文献1899)、マツノクロムシ(文献1943)

学名 命名者・年   Nesodiprion japonicus (Marlatt, 1898)


和名  キタマツノミドリハバチ(文献2016)

学名 命名者・年   Nesodiprion kagaensis Togashi, 1998


分類  ハチ目(膜翅目Hymenoptera)、ハバチ亜目(広腰亜目Symphyta)、マツハバチ科(Diprionidae)


形態
 この2種の幼虫は区別できない(文献2015)。成虫の形態や区別点については文献2012、2015。


分布
 マツノミドリハバチは、北海道(渡島半島)、本州、伊豆大島、四国、九州、南西諸島並びに朝鮮半島、台湾(文献2012、2015)。北海道では1971年に森町のストローブマツで発生した標本しか確認されていない(文献2012、2016)。
 キタマツノミドリハバチは、北海道、本州(文献2015)。北海道では道東・道央・道南まで広く採集されている;本州で分布が確認されているのは東北・関東・中部地方である(文献2015、2016)。


寄主
 マツノミドリハバチではマツ属のアカマツ、リュウキュウマツ、ストローブマツ(文献2012、2015);他にヒマラヤスギやカラマツの記録もあるが再確認が必要である(文献2016)。
 キタマツノミドリハバチではマツ属のアカマツ、チョウセンゴヨウ、ハイマツ、ストローブマツ、並びにカラマツ属カラマツ(文献2015)。北海道ではカラマツでの発生は確認されていない(文献2016)。


生態
 マツノミドリハバチは、年多化性;本州の平地では成虫が4 月下旬~10月下旬にかけて採集されている;幼虫は集合性ではないが,単木的に集中して採集された;終齢幼虫は摂食せずに繭を作る(文献2012,2015)。
 キタマツノミドリハバチは岩手県の調査(文献1981)によれば、繭内で前蛹で越冬、年3回発生、成虫は5月下旬~9月上旬、幼虫は6月上旬~11月上旬に発生;雌は1針葉に1卵ずつ、同一枝上の針葉に次々と産卵する;幼虫は群生していることが多いが、互いに体を接することはない;繭は7~8月では樹上の針葉間に作られるが、9~10月では林床の落枝葉や草の間に作られる、土中に作られることはない。


被害
 “マツノミドリハバチ”はマツ属を枯死させる害虫として知られており(文献1900、1943など)、マツノミドリハバチ・キタマツノミドリハバチ両方とも注意が必要である(文献2016)。
 北海道では数例被害記録があるが、他種の被害も含まれており、マツノミドリハバチまたはキタマツノミドリハバチによる大きな被害は例がない(文献2016参照)。


防除
 幼虫を捕殺する(文献1943)。 “まつ類”の“ハバチ類”または“ハバチ類(若~中齢幼虫)”に適用可能な農薬としてDEP乳剤、MEP乳剤及びジフルベンズロン水和剤がある(2007年2月時点)。


文 献
[1898] Marlatt, C.L. 1898. Japanese Hymenoptera of the family Tenthredinidae. Proceedings of the United States National Museum, 21(1157): 493-506.
[1899] 松村松年, 1899. 日本害蟲篇. 504pp. 裳華房, 東京.
[1900] 佐々木忠次郎, 1900. 松樹の害蟲(第二百○八號の續). 大日本山林會報, (210): 1-6.
[1916] 矢野宗幹, 1916. 松葉蜂類の学名. 昆虫世界, 20: 179-181.
[1943] 松下眞幸, 1943. 森林害蟲學. 410pp. 冨山房, 東京. (形態、生態、被害、防除の概要;なお、上記引用箇所の出典は確認していない)
[1981] 佐藤平典, 1981. マツノミドリハバチの生態に関する研究. 岩手県林業試験場研究報告, (4): 1-43.
[1998] Togashi, I., 1998. Four new species of the conifer sawfly genus Nesodiprion (Hymenoptera, Diprionidae) from Japan. Bulletin of the National Science Museum, Tokyo, Ser. A., 24: 253-260.
[2005] 原秀穂・篠原明彦, 2005. マツハバチ科(Diprionidae). 青木典司ほか, 日本産幼虫図鑑: 277-278. 学習研究社, 東京.
[2012] Hara, H. & Smith, D.R., 2012. Nesodiprion orientalis sp. nov., N. japonicus, and N. biremis, with a key to species of Nesodiprion (Hymenoptera, Diprionidae). Zootaxa, 3503: 1-24.
[2015] Hara, H. & Smith, D.R. 2015. Japanese species of the sawfly genus Nesodiprion (Hymenoptera, Diprionidae). Zootaxa, 4007: 481-508.
[2016] 原秀穂, 2016. 北海道における膜翅目ハバチ亜目の樹木害虫II:マツハバチ科. 北海道林業試験場研究報告, (53): 15-23.

2017/2/7