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林業試験場

アカスジチュウレンジ

アカスジチュウレンジ

写真1 中齢幼虫、体長13mm。新得、ハマナス、1993/8/10。

写真2 終齢幼虫、体長15~18mm。写真1を飼育、1993/8/18。

写真3 雄成虫、体長7mm。写真1を飼育。

写真4 産卵痕。美唄、バラ属の交雑個体、2003/9/16。

写真5 亜終齢・終齢幼虫、最大体長17mm。美唄、バラ属の交雑個体、2009/7/16。

被害の特徴
樹 種 バラ属(セイヨウバラ、ノイバラ、ハマナスなど)。
部 位 葉。
時 期 7月~9月(幼虫食害時期)。
状 態 葉縁から食害され葉脈が残る。食害は隣接する葉から葉へと連続的に発生する。食害部位に幼虫(写真1~2、5)や幼虫の脱皮殻が見られる。被害部位の下に虫糞や幼虫の脱皮殻がある。秋から翌春までは被害木下の落葉や表土中に繭がある。
枝が曲がり、縦長の裂け目がある(写真4)。
幼 虫 体長最大20mm。胸腹部は黄緑色、尾端は暗い、終齢になるとたいてい黒小斑が現れる(写真1~2、5)。亜終齢まで頭部・胸脚は暗いが、終齢では頭部は黄褐色、胸脚は黄緑色で基部に暗色の斑紋がある。集団性。
ミフシハバチ科では胸脚爪のそばに吸盤があり、腹部第1~9節は小環節数が3(背面の横じわは2本)。 ハバチ亜目では眼(側単眼)は左右に各1個、脱皮殻は頭部から腹部までつながり、頭部が縦中央で割れる。
注) バラ属には良く似たチュウレンジバチやニホンチュウレンジも発生する。チュウレンジバチの幼虫は若いときから胸腹部に黒小斑があり、頭部は終齢でもたいてい黒褐色。ニホンチュウレンジは背面中央に1対の白線がある。

和名  アカスジチュウレンジ(文献1937)
別名 バラチュウレンジ(文献1937)

学名 命名者・年   Arge nigronodosa (Motschulsky, 1859)
 従来良く使われてきた"nigrinodosa"は誤りとされている。

分類  ハチ目(膜翅目)Hymenoptera、ハバチ亜目(広腰亜目)Symphyta、ミフシハバチ科Argidae


形態  幼虫の形態は上述のとおり(文献1959、1977、2010)。成虫の形態については文献1932、1939、1977、2010に記述がある。

寄主  バラ属に限られ、セイヨウバラ・ノイバラ・テリハノイバラ・ニオイバラ(文献1967)、ハマナス・オオタカネバラ(文献2010)。

生態  北海道では成虫は6~8月に、幼虫は7~8月採集されている;幼虫は9月にも発生すると考えられる;主に年2回発生だが3回発生もありそうで、年1世代・2世代・3世代の生活環が混在していると考えられる(文献2010)。同じ雌から産まれた子供が成虫になる時期は3回に分かれることが確認されており、羽化時期が分かれるのは、時に起こる夏の干ばつによる餌植物の減少や近親交配の回避に関係すると考えられている(文献2012)。
雌成虫は若い枝の組織内に30~40個の卵を産卵する;幼虫は群生して葉を食害し、小葉の主脈を残す;幼虫期間は約1カ月;土中で繭になる;繭内で前蛹で越冬(文献1977)。

分布  北海道・本州・四国・九州、サハリン、シベリア(文献1939)。北海道に分布することは1932年に初めて記録された(文献1932)。道内では十勝・空知・石狩・胆振地方で確認されている(文献2010)。

被害  バラ属の食葉性害虫として古くから知られている(文献1937など)。木をしばしば丸坊主にする;枝の産卵痕は裂けて汚くなり、病原菌の侵入の足がかりになる(文献1977)。
 道内では被害記録はないが、庭や公園で普通にみられ、集団性のため食害が目に付きやすい;木全体の葉を食べつくすような被害は観察されていない;原生花園のハマナスや野生のバラ属ではほとんど発生がみられない(文献2010)。

防除  幼虫集団を取り除く(文献2010)。商品栽培上は農薬による防除も必要と思われる。“ばら”では“チュウレンジハバチ”用の農薬が各種ある(2009年10月時点)。


文 献
[1932] Takeuchi, K., 1932. A revision of the Japanese Argidae. Transactions of the Kansai Entomological Society, 3: 27- 42.
[1937] 渡邊福寿, 1937. 日本樹木害蟲総目録. 487pp. 丸善, 東京.
[1939] Takeuchi, K., 1939. A systematic study on the suborder Symphyta (Hymenoptera) of the Japanese empire (II). Tenthredo, 2: 394-439.
[1959] 奥谷禎一, 石井梯, 安松京三, 1959. 膜翅目. 江崎悌三, 石井悌, 河田党, 素木得一, 湯浅啓温, 編集, 日本幼虫図鑑: 546-590. 北隆館, 東京.(幼虫の形態、生態)
[1967] 奥谷禎一, 1967. 日本産広腰亜目(膜翅目)の食草(I). 日本応用動物昆虫学会誌, 11: 43-49.(宿主)
[1977] 奥野孝夫, 田中寛, 木村裕, 1977. 原色樹木病害虫図鑑. 365 pp. 保育社, 大阪.(生態、防除)
[2010] 原秀穂, 2010. 北海道における膜翅目ハバチ亜目の樹木害虫I:ナギナタハバチ科, ヒラタハバチ科, ミフシハバチ科, コンボウハバチ科. 北海道林業試験場研究報告, 47: 51-68.
[2012] Kawasaki, M., M. Fujita, A. Sakurai, and K. Maeto, 1912. Trimodal adult emergence in summer generations of the rose sawfly Arge nigrinodosa (Hymenoptera, Argidae). Journal of Hymenoptera Research, 25: 1-14.

2012/3/27