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林業試験場

ハサミルリチュウレンジ

ハサミルリチュウレンジ

写真1 老齢幼虫(体長21mm、鷹泊産)、ヒロハノヘビノボラズ、2005/7/24。

写真2 雌成虫、鷹泊、2005/7/2採集。

写真3 葉内の卵塊(写真1が孵化)、2005/7/10。

写真4 ムラサキメギの被害、穂別、2007/7/11。

写真5 幼虫集団、同前、2007/7/10。

写真6 雌成虫・卵塊、同前。

被害の特徴
樹 種 メギ属(ヒロハノヘビノボラズ、メギ)。
部 位 葉。
時 期 7月~9月(幼虫食害時期)。
状 態 葉がなくなる。 葉に幼虫や成虫がみられる(写真5~6)。被害下には糞や幼虫の脱皮殻がある。また、土中には繭がある。
幼 虫 体長最大25mm。頭部と胸脚は黒色。胸腹部は黄色で、腹部第3~6節が白色、多数の黒斑がある(写真1)。集団性。
ミフシハバチ科では胸脚爪のそばに吸盤があり、腹部第1~9節の小環節数は3(背面の横じわは2本)。 ハバチ亜目では眼(側単眼)は左右に各1個、脱皮殻は頭部から腹部までつながり、頭部が縦中央で割れる。
成虫 体長10mm内外、黒色で青い光沢がある(写真2)。翅も暗い。雌は腹部末端に対をなす細長い突起がある。

 日本では北海道天塩地方で発見され1958年に国内における分布が初めて報告された(文献1958)。その後長い間、記録がなかったが、2005年に道内で再発見され、激しい食害が2006~2007年に観察された(文献2010)。被害発生地は寄主である在来のメギ属ヒロハノヘビノボラズの自然分布域または近隣域であることから、在来種が突然害虫化したと思われる(文献2010)。
 なお、本州には極めて良く似たArge simillimaが分布するが(文献1939)、本種との形態的差異は軽微であり、分類学的再検討が必要と考えられる(文献2007)。


和名  ハサミルリチュウレンジ(文献1958)
別名 ハサミチュウレンジ(文献1967)

学名 命名者・年   Arge berberidis Schrank, 1802

分類  ハチ目(膜翅目)Hymenoptera、ハバチ亜目(広腰亜目)Symphyta、ミフシハバチ科Argidae


形態  幼虫・成虫は上述のとおり(幼虫については文献2005、成虫については文献1935)。

寄主  国内ではヒロハノヘビノボラズ(文献2005)、メギ(文献2010)。北海道でヘビノボラズから幼虫を採集したという報告(文献1958)があるが、ヒロハノヘビノボラズと思われる(文献1967)。

生態  成虫は6月上旬~7月下旬に採集されただけだが、幼虫は7月と9月初めに採集され、 6~7月採集の卵は8月に成虫になり、 7月採集の幼虫は8月または翌春に、9月採集の幼虫は翌春に成虫になった;以上から年2回発生するが、年1世代と年2世代の生活環が混合している(文献2010)。卵は葉の組織内に3~6個ずつまとめて産みつけられる(文献2005)。複数の卵塊が隣接する数枚の葉にまとまって観察され、そばにはしばしば雌成虫がいる;幼虫は集団性である;繭内で越冬する(文献2010)。

分布  北海道(文献1958)、小アジア・ヨーロッパ(文献1935)。道内では天塩地方の他に深川・むかわ(穂別)で採集されている(文献2010)。

被害  2006~2007年に深川鷹泊の蛇紋岩地にあるヒロハノヘビノボラズの一部の木で全葉がなくなるような食害が観察された;2007年にはむかわ穂別の公園に植栽されたメギの1品種ムラサキメギの生垣全体(全長約100m)で激しい食害及びそれに起因すると考えられる枝枯れが観察された(文献2010)。ヨーロッパでもメギ属の食葉性害虫として知られている(文献1998)。

防除  雌成虫は動作が緩慢で葉上に静止しているので捕殺する;卵塊や幼虫を取り除く(文献2010)。登録された農薬はない(2010年現在)。


文 献
[1935] Gussakovskij, V. V., 1935. Chalastogastra (pt. 1). Faune de l'URSS (n. s. 1), Insectes Hymenopteres, II (1). XVIII+453pp. Edition de l'Academie des Sciences de l'URSS, Moscou, Leningrad.
[1939] Takeuchi, K., 1939. A systematic study on the suborder Symphyta (Hymenoptera) of the Japanese empire (II). Tenthredo, 2: 394-439.
[1958] 笹川満廣, 1958. 日本未記録のハサミルリチュウレンジの幼虫に就て. Akitsu, 7: 43.
[1967] 奥谷禎一, 1967. 日本産広腰亜目(膜翅目)の食草(I). 日本応用動物昆虫学会誌, 11: 43-49.
[1998] Taeger, A., E. Altenhofer, S. M. Blank, E. Jansen, M. Kraus, H. Pschorn-Walcher and C. Ritzau, 1998. Kommentare zur Biologie, Verbreitung und Gefahrdung der Pflanzenwespen Deutschlands (Hymenoptera, Symphyta). In TAEGER, A. and S. M. BLANK (eds), Pflanzenwespen Deutschlands (Hymenoptera, Symphyta). Kommentierte Bestandsaufnahme. p.49-135, Taf. 3. Goecke and Evers, Keltern.
[2005] 原秀穂・篠原明彦, 2005. ミフシハバチ科(Argidae). 青木典司ほか, 日本産幼虫図鑑: 276-277. 学習研究社, 東京.
[2007] Shinohara, A. and H. Hara, 2007. Type material of Japanese sawflies of the genus Arge (Insecta, Hymenoptera, Argidae) described by Snellen van Vollenhoven (1860), Smith (1874) and Kirby (1882). Bulletin of the National Museum of Nature and Science, Tokyo, Ser. A, 33: 127?132.
[2010] 原秀穂, 2010. 北海道における膜翅目ハバチ亜目の樹木害虫I:ナギナタハバチ科, ヒラタハバチ科, ミフシハバチ科, コンボウハバチ科. 北海道林業試験場研究報告, 47: 51-68.

2010/3/31