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林業試験場

カンバルリチュウレンジ

カンバルリチュウレンジ

写真1 被害、札幌、シラカンバ、2006/9/12。

写真2 終齢幼虫(札幌産)。2003/9/7。

写真3 雌成虫(札幌産)。

被害の特徴
樹 種 シラカンバ。国外では他のカバノキ属の種も記録されている。
部 位 葉。
時 期 7月~10月(幼虫発生時期)。
状 態 葉縁から食害され、葉柄が残る(写真1)。 食害は隣接する葉から葉へと連続的に発生する。 食害部位に幼虫や幼虫の脱皮殻が見られる(写真2)。 被害部位の下に虫糞がある。秋から翌春までは被害木下の落葉や表土中に繭がある。
幼 虫 体長最大22mm内外。胸腹部は黄色で、背面はやや淡色か灰白色(写真2)。 頭部、胸脚、胸腹部の斑紋は黒色で、終齢幼虫では青色の光沢がある。 腹脚は腹部第2~8節と10節にある(腹部第8節の腹脚は痕跡的)。 腹端の腹脚は後方で黒くならない。 通常、数十頭の幼虫が集団で葉を摂食する。
ミフシハバチ科では胸脚爪のそばに吸盤があり、腹部第1~9節は小環節数が3(背面の横じわは2本)。 ハバチ亜目では眼(側単眼)は左右に各1個、脱皮殻は頭部から腹部までつながり、頭部が縦中央で割れる。
繭は乳褐色、長さ10~15mm、2層からなり表層は網状、内層は膜状。

 1956年に長野県で被害が発生し、国内における分布が初めて確認された(文献1962)。北海道での分布は文献1998bで初めて報告されたが、北海道・本州どちらにおいても1920年台採集の古い標本が確認されているため(文献2008参照)、外来種とは考えにくい(文献2010)。


和名  カンバルリチュウレンジ(文献1962)
別名 カンバチュウレンジ

学名 命名者・年   Arge pullata (Zaddach, 1859)

分類  ハチ目(膜翅目)Hymenoptera、ハバチ亜目(広腰亜目)Symphyta、ミフシハバチ科Argidae


形態  幼虫の形態は上述のとおり(詳細は文献2008)。成虫(写真3)は体長7.5~13.5mm、黒色で青い光沢がある(詳細は文献2008)。

寄主  国内ではカバノキ属シラカンバだけが確認されている(文献1962、2008)。

生態  札幌では年2回発生、卵や幼虫は6月下旬から10月に、成虫は6月下旬に採集されている(文献2008)。成虫は8月にも発生すると考えられる。雌成虫は葉縁表皮下に70~80卵を並べて産む;幼虫は集団で葉を摂食する;老熟すると土中で繭を作り、繭内で越冬する(文献1962、2008)。幼虫は葉柄を食べ残す。 本州における生態については文献1962、2008を参照。

分布  北海道・本州、サハリン、ロシア極東、中国、シベリア、ヨーロッパ;道内では網走・釧路・十勝・空知・石狩地方で確認されている(文献1998b、2008)。

被害  本州では長野県における被害が1例知られ、連年連続して被害を受けたものは生長が悪くなり、枯死したものも認められている(文献1962)。北海道では2001年以降、札幌市街地で食害が目立つようになり、小さな木では全葉を失うような食害が観察されている(文献2008)。食害木の枯死は確認していない(文献2010)。ヨーロッパでもカバノキ属の害虫として知られている(文献1998aなど)。デンマークでは幼虫を食べた動物が幼虫の毒で死んだ報告(文献1985など)があるが、他では例がない(文献2008参照)。

防除  幼虫は群生しているので枝葉ごと取り除く(文献2010)。 登録された農薬はない(2010年現在)。


文 献
[1962] 滝沢幸夫, 1962. Betulaのハバチ, カンバルリチュウレンジ(新称)について(予報). 第72回日本林学会大会講演集: 340-342.
[1967] 奥谷禎一, 1967. 日本産広腰亜目(膜翅目)の食草(I). 日本応用動物昆虫学会誌, 11: 43-49.(宿主記録の引用)
[1987] Thamsborg, S. M., R. J. Jorgensen and E. Brummerstedt, 1987. Sawflies poisoning in sheep and goats. Veterinary Record, l2l: 253-255.
[1998a] Taeger, A., E. Altenhofer, S. M. Blank, E. Jansen, M. Kraus, H. Pschorn-Walcher and C. Ritzau, 1998. Kommentare zur Biologie, Verbreitung und Gefahrdung der Pflanzenwespen Deutschlands (Hymenoptera, Symphyta). In Taeger, A. and S. M. Blank (eds), Pflanzenwespen Deutschlands (Hymenoptera, Symphyta). Kommentierte Bestandsaufnahme. p.49-135, Taf. 3. Goecke and Evers, Keltern.
[1998b] Togashi, I., 1998. Symphyta (Hymenoptera) of Hokkaido, Japan. Bulletin of the Biogeographical Society, Japan, 53: 39-47.
[2008] Hara, H., and A. Shinohara, 2008. Taxonomy and Biology of Betula-feeding Sawfly, Arge pullata (Insecta, Hymenoptera, Argidae). Bulletin of the National Museum of Nature and Science, Tokyo, Ser. A, 34: 141-155.
[2010] 原秀穂, 2010. 北海道における膜翅目ハバチ亜目の樹木害虫I:ナギナタハバチ科, ヒラタハバチ科, ミフシハバチ科, コンボウハバチ科. 北海道林業試験場研究報告, 47: 51-68.

2010/3/31