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林業試験場

ニホンチュウレンジ

ニホンチュウレンジ

写真1 終齢幼虫、体長17mm。美唄、バラ属、2004/8/2。

写真2 終齢幼虫、体長19mm。岩見沢、バラ属、2006/8/27。

写真3 中齢幼虫、体長11mm。七飯、ノイバラ、2006/9/8。

写真4 葉内に産まれた卵。深川、オオタカネバラ、2009/6/14。

写真5 雄成虫。深川、2007/7/15。

幼虫の特徴
食べる樹種 バラ属(セイヨウバラ、ノイバラなど)。
食べる部位 葉。
発生時期 6月~9月。
食べ方 葉縁から食べ、葉脈を残す。
形 態 体長最大18mm内外。胸腹部は黄緑色、背面に1対の白線があり、淡褐色の微毛に被われる。頭部は淡い黄褐色で背面から前面にかけての中央に褐色の線がある。中齢では頭部が全体黒い場合がある。胸脚は淡褐色から黄緑色。腹脚は腹部第2~6節と10節にある。
ミフシハバチ科では胸脚爪のそばに吸盤があり、腹部第1~9節は小環節数が3(背面の横じわは2本)。 ハバチ亜目では眼(側単眼)は左右に各1個、脱皮殻は頭部から腹部までつながり、頭部が縦中央で割れる。
注) バラ属には良く似たチュウレンジバチやアカスジチュウレンジも発生する。これらの幼虫は胸腹部の背面に白線がないなどの点で区別できる。

 古くからバラ属の害虫とされ(文献1937など)、「農林有害動物・昆虫名鑑」(文献2006)にも掲載されているが、被害記録はないようである(文献2010)。
 本種は日本(産地不明)の標本に基づき記載された種で(文献1910)、古くから北海道を除く日本各地やサハリンなどから記録されている(文献1932)。北海道からは2010年に初めて記録された(文献2010)が、古くからサハリンでも記録されいることや宿主の分布から考えて外来種の可能性は低いと考えられる(文献2010)。


和名  ニホンチュウレンジ
別名 ニホンチュウレンジバチ(文献1937)

学名 命名者・年   Arge nipponensis Rohwer, 1910

分類  ハチ目(膜翅目)Hymenoptera、ハバチ亜目(広腰亜目)Symphyta、ミフシハバチ科Argidae


形態  幼虫の形態は上述のとおり(文献1959、2010)。成虫は体長8mm、頭部と胸部は黒色で青い光沢があり、腹部は赤黄色(詳細は文献1932、1939、1965)。

寄主  セイヨウバラ・ノイバラ・ニオイバラ(文献1967)、オオタカネバラ(文献2010)。

生態  北海道では成虫は6月中旬~8月中旬に採集され、幼虫は6月下旬~9月上旬に観察された;6月下旬採集の幼虫は7月に成虫になり、8月中旬採集の幼虫は9月または翌春に成虫になったことから、年最大3回発生するようであるが、年2世代と年3世代の生活環が混在していると考えられる(文献2010)。雌成虫は葉縁組織内に産卵する(文献1959)。卵はたいてい1個ずつ産みつけられる;幼虫は単独性だが、1本の木に集中することがある;幼虫は葉を縁から食べ、小葉の主脈を残す;土中で繭になる;越冬は繭内で前蛹になって行われる(文献2010)。

分布  北海道(文献2010)。本州・四国・九州、サハリン、朝鮮半島、中国(文献1932)。道内では空知・日高・渡島地方で確認されており、平野から山地に分布する(文献2010)。

発生状況など  幼虫は公園や野生のバラ属に時々みられるが、発生数は少ない(文献2010)。しかし、商品栽培上は防除が必要となるかもしれない。


文 献
[1910] Rohwer, S. A., 1910. Japanese sawflies in the collection of the United States National Museum. Proceedings of the United States National Museum, 39: 99-120.
[1932] Takeuchi, K., 1932. A revision of the Japanese Argidae. Transactions of the Kansai Entomological Society, 3: 27- 42.
[1937] 渡邊福寿, 1937. 日本樹木害蟲総目録. 487pp. 丸善, 東京.
[1939] Takeuchi, K., 1939. A systematic study on the suborder Symphyta (Hymenoptera) of the Japanese empire (II). Tenthredo, 2: 394-439.
[1959] 奥谷禎一, 石井梯, 安松京三, 1959. 膜翅目. 江崎悌三, 石井悌, 河田党, 素木得一, 湯浅啓温, 編集, 日本幼虫図鑑: 546-590. 北隆館, 東京.(幼虫の形態、生態)
[1965] 富樫一次, 1965. ナギナタハバチ科, ヒラタハバチ科, キバチ科, クビナガキバチ科, ヤドリキバチ科, クキバチ科, ヨフシハバチ科, ハバチ科, マツハバチ科, コンボウハバチ科, ミフシハバチ科. 朝比奈正二郎・石原保・安松京三(監修), 原色昆虫大図鑑III: 243-254, pl. 122-127. 北隆館, 東京.
[1967] 奥谷禎一, 1967. 日本産広腰亜目(膜翅目)の食草(I). 日本応用動物昆虫学会誌, 11: 43-49.(宿主)
[2006] 日本応用動物昆虫学会(編), 2006. 農林有害動物・昆虫名鑑, 増補改訂版. 387pp. 日本応用動物昆虫学会, 東京.
[2010] 原秀穂, 2010. 北海道における膜翅目ハバチ亜目の樹木害虫I:ナギナタハバチ科, ヒラタハバチ科, ミフシハバチ科, コンボウハバチ科. 北海道林業試験場研究報告, 47: 51-68.

2010/3/31